61 / 112
第三章
17
しおりを挟む
部屋には時々艶っぽい息遣いが漏れるだけで言葉はなかった。お互いに舌を絡めては唇を吸いあった。唇を嬲られながら耳や項を吉岡の冷たい手が何かの意思を持って触られるとどんどん体が熱くなってくる。そもそも飛び出しそうだった心臓もきっと吉岡にはばれている。布団を剥ぎ取られた後、上に乗っかられて抱き合う形でキスをしているのだから。
キスが気持ちよくて、熱くなった体には吉岡の手が気持ちよくてぼんやりとしてしまうが何かもやもやする。
やっとで離れた唇は濡れていてそれがまた恥ずかしくてわざとムッとした表情を向けた。
「……毎度そうだけど、なんかお前が主導権握ってるみたいで嫌なんだけど。俺の方が年上なのに」
「年なんて関係ないですよ。だって佐野さん童貞ですよね」
「ど、ど! おおおお前だって!」
「俺は14のときに卒業しました」
「うそっ!?」
あまりの衝撃に愕然としてしまい、今までのエロかった雰囲気をあっという間に払拭してしまった。はずなのに「残念でしたね」と、いやらしく眼を細めた吉岡はスウェットの裾を割ってわき腹を撫でてきてエロ雰囲気再開だ。
俺はそれどころじゃなくてちょっと待てよと吉岡の手を掴んで止めさせた。掴んだ俺の腕を吉岡は一睨みし、ため息をつきながら体を起こした。
「まだ何か?」
「童貞だからって、なんで俺が組みしかれてんの」
「ダメですか?」
「ダメだろ」
「じゃー俺に入れますか?」
「入れる? 何を? どこに」
「ですよね。じゃー俺主導で」
「ストーップ!」
うんざり、とでも言うように眉間に皺を寄せる吉岡はなかなか見たことがなくてちょっと面白かった。いや、そんなことを思っている場合でもないけど。
眉間の皺を撫でてみたくて手を伸ばそうとしたとき部屋のコールが鳴り響いた。驚いたのは俺だけのようで、吉岡は宙に漂っていた俺の手を取って唇を寄せていた。そりゃ日常の中にあんな部屋でのやり取りを見たり、ストレス発散方法が喧嘩だったりするわけだから何かあっても動じないように作られるわなとちょっと納得。
「早くどけよ」
「え、出るんですか?」
「当たり前だろ」
だらりと力の抜けてしまった吉岡を押しのけベッドから降りた。
歩きながら勃ってしまったモノのポジションをせっせと直すが張り詰めたものは早々には治まってくれそうになかった。でかめのパーカーを羽織るが気になってはやり前のめりになってしまう。仕方ない。
リビングに出てモニターを確認すると北村だった。考え込むように難しい顔で腕組みをしている。
「北村さんですか? 昨日の夜も来られましたよ。体調が悪くて寝ていると伝えましたが。あ、街では俺と偶然出会って、そこで具合が悪くなったことにしているので」
「……そうか。ありがとうな」
「佐野さん、寝た振りしますか? 俺がまた出てもいいし。ソレ、治まってないみたいだし」
ソレ、と指すものが恥ずかしくてとっさに両手で隠したがばれているだけにこの動作も恥を煽るだけだった。お前のせいで、と言ってやろうと思ったけどなんだかそれが吉岡を喜ばせるような気がして言うのを止めた。
「だいぶおさまってきたし、いい。出る」
「そうですか」
ドアを開けると一瞬驚いたように眼が開かれたが、すぐにほっとしたように息を吐く北村がいた。昨日はあの場所で別れてしまっていたから心配していたんだろうな。
「おはよー」
「佐野……」
珍しく北村がもごもごと口を動かしてはっきりしない様子に首を傾げた。俺の保護者でもなんでもないんだし、ましてや俺だって立派な男子高校生だ。確かに危ない目にはあったけどそれもこうやって助かったし北村の気にやむことは一切ない。まぁ、昨日のことはこいつは知らないわけだけれども。
「大丈夫か? まさか体調悪いとは思っていなかったから……残して悪かったな。無理にでも送ればよかった」
「別に急に腹痛くなっただけだから。それに吉岡に会ったからなんともねーよ。北村が気にする必要はないって」
クソ真面目な顔で謝ってくる北村にへらへらと笑って返せば、安心したように眉が下がった。それよりも体がギシギシしてずっと立っていられない。中へ入れよと促せば、北村は素直に入ってきたが靴を脱いだところで身をビクリと震わせて立ち止まってしまった。北村の視線の先を振り返るとそこには腕組みをしながら壁に寄り掛かる吉岡が。
さっきまであれほど吉岡のせいでぐるぐると頭を悩ませたり妙な雰囲気に流されそうになったりしていたというのにすっかり忘れていた。鳥頭って長所でもあり短所でもあるわけだけど、こうも頭から色々抜けてしまうんじゃ俺自身、行く末が心配になってくる。
「おはよう吉岡。泊まったのか?」
そういえば何で吉岡は俺の部屋にいたんだ。それに北村が昨日の夜に来たとき吉岡が対応したといっていたからそれからずっといるのだろうか。予想通り吉岡が「泊まりました」と返していた。北村ですら泊まったことが無いというのに、こいつは。昨日の状況を考えれば仕方の無いことなのかもしれないが当たり前のように俺の部屋にいる吉岡にちょっとムッとする。
キスが気持ちよくて、熱くなった体には吉岡の手が気持ちよくてぼんやりとしてしまうが何かもやもやする。
やっとで離れた唇は濡れていてそれがまた恥ずかしくてわざとムッとした表情を向けた。
「……毎度そうだけど、なんかお前が主導権握ってるみたいで嫌なんだけど。俺の方が年上なのに」
「年なんて関係ないですよ。だって佐野さん童貞ですよね」
「ど、ど! おおおお前だって!」
「俺は14のときに卒業しました」
「うそっ!?」
あまりの衝撃に愕然としてしまい、今までのエロかった雰囲気をあっという間に払拭してしまった。はずなのに「残念でしたね」と、いやらしく眼を細めた吉岡はスウェットの裾を割ってわき腹を撫でてきてエロ雰囲気再開だ。
俺はそれどころじゃなくてちょっと待てよと吉岡の手を掴んで止めさせた。掴んだ俺の腕を吉岡は一睨みし、ため息をつきながら体を起こした。
「まだ何か?」
「童貞だからって、なんで俺が組みしかれてんの」
「ダメですか?」
「ダメだろ」
「じゃー俺に入れますか?」
「入れる? 何を? どこに」
「ですよね。じゃー俺主導で」
「ストーップ!」
うんざり、とでも言うように眉間に皺を寄せる吉岡はなかなか見たことがなくてちょっと面白かった。いや、そんなことを思っている場合でもないけど。
眉間の皺を撫でてみたくて手を伸ばそうとしたとき部屋のコールが鳴り響いた。驚いたのは俺だけのようで、吉岡は宙に漂っていた俺の手を取って唇を寄せていた。そりゃ日常の中にあんな部屋でのやり取りを見たり、ストレス発散方法が喧嘩だったりするわけだから何かあっても動じないように作られるわなとちょっと納得。
「早くどけよ」
「え、出るんですか?」
「当たり前だろ」
だらりと力の抜けてしまった吉岡を押しのけベッドから降りた。
歩きながら勃ってしまったモノのポジションをせっせと直すが張り詰めたものは早々には治まってくれそうになかった。でかめのパーカーを羽織るが気になってはやり前のめりになってしまう。仕方ない。
リビングに出てモニターを確認すると北村だった。考え込むように難しい顔で腕組みをしている。
「北村さんですか? 昨日の夜も来られましたよ。体調が悪くて寝ていると伝えましたが。あ、街では俺と偶然出会って、そこで具合が悪くなったことにしているので」
「……そうか。ありがとうな」
「佐野さん、寝た振りしますか? 俺がまた出てもいいし。ソレ、治まってないみたいだし」
ソレ、と指すものが恥ずかしくてとっさに両手で隠したがばれているだけにこの動作も恥を煽るだけだった。お前のせいで、と言ってやろうと思ったけどなんだかそれが吉岡を喜ばせるような気がして言うのを止めた。
「だいぶおさまってきたし、いい。出る」
「そうですか」
ドアを開けると一瞬驚いたように眼が開かれたが、すぐにほっとしたように息を吐く北村がいた。昨日はあの場所で別れてしまっていたから心配していたんだろうな。
「おはよー」
「佐野……」
珍しく北村がもごもごと口を動かしてはっきりしない様子に首を傾げた。俺の保護者でもなんでもないんだし、ましてや俺だって立派な男子高校生だ。確かに危ない目にはあったけどそれもこうやって助かったし北村の気にやむことは一切ない。まぁ、昨日のことはこいつは知らないわけだけれども。
「大丈夫か? まさか体調悪いとは思っていなかったから……残して悪かったな。無理にでも送ればよかった」
「別に急に腹痛くなっただけだから。それに吉岡に会ったからなんともねーよ。北村が気にする必要はないって」
クソ真面目な顔で謝ってくる北村にへらへらと笑って返せば、安心したように眉が下がった。それよりも体がギシギシしてずっと立っていられない。中へ入れよと促せば、北村は素直に入ってきたが靴を脱いだところで身をビクリと震わせて立ち止まってしまった。北村の視線の先を振り返るとそこには腕組みをしながら壁に寄り掛かる吉岡が。
さっきまであれほど吉岡のせいでぐるぐると頭を悩ませたり妙な雰囲気に流されそうになったりしていたというのにすっかり忘れていた。鳥頭って長所でもあり短所でもあるわけだけど、こうも頭から色々抜けてしまうんじゃ俺自身、行く末が心配になってくる。
「おはよう吉岡。泊まったのか?」
そういえば何で吉岡は俺の部屋にいたんだ。それに北村が昨日の夜に来たとき吉岡が対応したといっていたからそれからずっといるのだろうか。予想通り吉岡が「泊まりました」と返していた。北村ですら泊まったことが無いというのに、こいつは。昨日の状況を考えれば仕方の無いことなのかもしれないが当たり前のように俺の部屋にいる吉岡にちょっとムッとする。
11
あなたにおすすめの小説
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?
中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」
そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。
しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は――
ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。
(……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ)
ところが、初めての商談でその評価は一変する。
榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。
(仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな)
ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり――
なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。
そして気づく。
「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」
煙草をくゆらせる仕草。
ネクタイを緩める無防備な姿。
そのたびに、陽翔の理性は削られていく。
「俺、もう待てないんで……」
ついに陽翔は榊を追い詰めるが――
「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」
攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。
じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。
【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】
主任補佐として、ちゃんとせなあかん──
そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。
春のすこし手前、まだ肌寒い季節。
新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。
風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。
何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。
拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。
年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。
これはまだ、恋になる“少し前”の物語。
関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。
(5月14日より連載開始)
【完結】取り柄は顔が良い事だけです
pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。
そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。
そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて?
ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ!
BLです。
性的表現有り。
伊吹視点のお話になります。
題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。
表紙は伊吹です。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる