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第四章
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しおりを挟む※第四章を読むに当たって、近況ボードをお読みください。多少のネタバレもダメな方は読み進めてからでもいいので出来たら読んでいただきたいです。
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冬休みに入り、すぐにイベントが始まった。
あれから吉岡とも南とも普通だ。普通過ぎるくらい普通でむしろ俺が気にしているのが可笑しいと思うくらい二人は平常運転でいた。
イベントの準備期間中、俺はテスト勉強を強制されて抜け者でいたから状況がよく分かっていない。できれば北村のそばでのんびりいきたいがそうわがままも言っていられない。吉岡とペアな俺だったが、本来なら腕っ節に覚えのあるチームとからっきしダメチームから1人ずつペアを組むのだか今回に限って吉岡は腕っ節の方に手を上げやがった。皆不思議そうでもなかったから吉岡が強いことは知っていたのかもしれない。知らないのは俺だけだったのかと少し落胆した。
しかしそうなると腕っ節チームが学祭のときの松浦、南、二ノ瀬、田口の四人プラス吉岡の5人となり喜んだのは南だ。
ペアを決めるとき大手を振って「俺と朔ちゃんね! 副会長同士、色々話もあるし」と一番乗りで食いついていた。鬱陶しそうにしていた二ノ瀬だが、南の言葉に乗ったのが意外にも北村だった。北村も田口と色々話をしたいからと言って、その他は自然と松浦と青木、俺と吉岡のペアにあっさりと決まってしまった。松浦ももちろん異論は無かった。二ノ瀬だけがくさい顔をしていて少し笑えた。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ。でも参加人数もいつもの年よりも格段に少なくて50人いないし、まぁ全校生徒対象のイベントよりも楽ではあるし揉め事も少ないと思うけど。ほぼ9割以上1、2年だし気も使わなくていいし」
「そうですか」
で、どういった流れなんだと松浦からもらった用紙を見る。一昨年も宝探しだったらしく、内容も真似ただけらしい。やはり今年の生徒会はそれほどやる気満々なやつらではないということか。割と平和で無難な世代と言われることがあるらしいから、これは仕方ないな。俺も先頭になって何かをやり遂げたりするのはあまり得意ではないし。南だけが楽しいことが好きではあるけど奇抜なことはしないし、どこか真面目なんだろうな。
南がマイクで挨拶を始める。がやがやと煩かった生徒達が一瞬で静まり返った。
「まず始めに、今回は宝探しということで集まってもらっていましたが、変更しまーす! 今回は伝統的な鬼ごっこ! 当然お前らも噂は聞いたことあるだろう?」
タイトルに『宝探し』と書かれた紙を見ていたが、思考が停止する。
たった今、真面目だしなと思っていたヤツがおかしなことを言っている。伝統的な鬼ごっこといえば、参加生徒全員が鬼となり、追うべき対象が生徒会役員だ。そして捕まえられた役員は1日鬼の好きなようにしていいと。
静かだった生徒達もまたざわつき始めた。俺もなにが起きているのだと視線だけを動かしているとステージ上で椅子に座っている松浦だけは目を閉じて南の話を聞いていたが、他の役員はそれぞれに戸惑いの表情でいるようだった。
右隣の吉岡も目を細めているし、左隣の北村は思いっきり眉を寄せていた。やはりこれは俺たちの反対を知っての突然の変更であるようだ。
前言撤回だ。奇抜なことはしないと思っていたが裏切られた気分だ。俺も知らず知らずのうちに眉間の皺が深くなっていった。
「もちろん伝統どおり、捕まえた役員は煮るなり焼くなり好きにしていい。鬼には手錠を配布するから、自分と役員それぞれ片腕ずつかけて“捕まえた”ということになる。鬼同士協力して徒党を組んでもよし、1人でアサシンのように動くもよし」
べらべらと説明しているが、俺たちは何も聞かされていないわけだが、いったいどうなるんだ。
「……北村、これはなんだよ」
「いや、俺にも分からない。本当にさっきまでは宝探しのはずだったんだ。その段取りだってしてきたんだ……」
あの優しい北村が睨むように南を見ていた。それだけでなぜか得をした気になるのは不思議だが、俺だって南に腹が立っている。しかしこれを知っていただろう松浦にも、今回ばかりは怒りが沸く。南の自由さが好きかもしれないがこれはちょっと酷すぎるんじゃないだろうか。
「あと15分後の10:20スタートで、終了が11:20。制限時間は1時間。過度な暴力はお互い気をつけてね。ただし正当防衛はよしとしようかなあ」
1時間って結構長くないか。そんな時間を逃げ切れというのか。確かに人数は少ないが、それぞれがしらみつぶしに探せばあっという間に見つかってしまいそうだ。
「じゃーあと始まるまで俺たち役員は隠れるから、お前ら鬼さん達は手錠を片腕にかけておいてね!」
にこにことしながら壇上を下りてくる南。宝探しイベントのときはステージ上で待機するはずだった松浦と青木もステージを下りてきた。松浦が青木を引っ張るように。
南が近づいてきて「おい、なんでこんなことになってんだよ」と文句を言ってやった。絶対皆だって思っているはずだから。
「えー言ったら反対するでしょ?」
「当たり前だろ! 人をなんだと思ってるんだよ」
「どうも思ってないけど」
へらへらと笑う南にムカッ腹。今にも噛み付きそうな俺を制し、北村が南の前に一歩足を進めた。
「確かに反対しただろうが、それでも言って欲しかったな」
「海斗はまじめだしね。うん、ごめん」
なんで北村には素直に謝ってんだよこいつ。ここにいる役員全員に謝れバカ。
「でもこんなところで話してていいの~? 隠れる時間が少なくなっちゃうけど」
ふふふ、と小首を傾げて不適に笑う南に全員がはっとする。そうだ、隠れる時間が少なくなってしまう。
ペアを組んでいたが、逃げ足なら誰にも負けない俺は単体で行こうか迷っているとグイっと腕を引っ張られた。
「佐野さん、隠れましょう」
まぁ、いいか。用心棒代わりの吉岡だ。使えるものは使うのが俺の主義。
それぞれの役員も単体ではなく、ペアとなって動いていてホッとした。北村は喧嘩がダメだから田口が一緒で一安心だ。
そして廊下に出ると「せいぜい吉岡に守ってもらいなさいね」と横を走りぬける笑顔の南に捨て台詞を投げられる。南の後ろを走る二ノ瀬は少し気まずそうに俺に一礼して行った。
一気に頭に血が上った俺は絶対に誰にも捕まらないことを心に誓った。
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