生徒会書記長さん

梅鉢

文字の大きさ
69 / 112
第四章

しおりを挟む

吉岡の唇も舌先も冷たかった。

そういえば今は12月。変な緊張で寒さも忘れていたようだ。俺の首筋をなぞる手も冷たくて体を振るわせた。

小さくついばんでは離れていく唇。出来るだけ音のしないよう舌を絡め、声の出ない程度ですぐに離れていく。すぐ横ではまだ鬼がいて話し声も聞こえてくるというのに、心臓をバクバクと言わせながら吉岡を受け入れる。

この短期間で何度キスしただろうか。そもそも何故俺はいつもこう吉岡とキスをしているのだろう。こいつがしてくるから、だけど……。今まで俺を襲ってきたやつもこうやって迫ってはきたけど全力で逃げ出していたのに吉岡相手にはそれをしていない。知った相手だったから、だけではない気もする。感情の読めないこの瞳が和らいだり色気を含んだりと、時々見せるものに眼が離せなくなっていたのかもしれない。

“俺たちには佐野に対して恋愛感情が入っていないからお前とはちょっと違うのかな”

聞かなかったことにした北村の言葉を思い出してしまう。
吉岡からはそういった感情が俺に向けられているとは思わないが、二人のときや、こういったピンチのときなど性的な匂いを出してくるからよく分からない。もしかして釣り橋効果でも狙っているんだろか。それならキスを受け入れてしまっている時点で効果覿面かもしれない。

ぼんやりとキスを受け入れているとした唇をがぶりと噛まれた。痛みはそれほどでもないが、思わず声を出したらどうするんだよ。
目の前の吉岡は集中しろとでも言うように眼を細めていた。

いや、お前とのキスに集中なんてしていられるかって話だ。もう終わり。きっと赤面中の俺だか、暗くて顔色までは分かるまい。
吉岡の顎をぐいっと押して体を引き離すと、準備室からけたたましい音楽が流れ出した。
やばい、いつもはマナーモードにしているのに、今は冬休みだからとマナーモードを解除していたんだった。
何でこんなときに。普段からそう忙しくない俺のスマホなのに。
焦ってポケットに入っているスマホを取り出そうとするがしゃがみこんでいてすんなり取れず、そうなるとさらに焦ってしまって手がおぼつかない。

「なんだこれ、音鳴ってんじゃん、ここ。やっぱり誰かいるんじゃね」
「いるよな? 鍵壊してもいいのかな、これ」
「会長様ですか!? かいちょーさまですか!?」

準備室ドアの外が一斉に煩くなる。そして鍵を壊そうとしているのかガチャガチャしていたドアノブはミシミシと音を立てて揺れていた。

やばい。
マジでヤバイ。あとちょっとだったのに。

やっとで手にしたスマホの画面には着信中の画面、そして相手は南だった。
思わずスマホを壁に投げつけたくなる衝動にかられるがグッとこらえて電源を落とした。

「仕方ないですね、倒しますか? それとも逃げますか?」

ここに誰かしらいることがばれてしまったせいか、吉岡は普通に俺に話しかけてきた。外は自分らがやかましくしているせいでその声は届かなかったようだがもうここにジッともしていらそうにない。

「逃げる。とりあえず暴力反対で」
「分かりました」

立ちあがった吉岡は俺の手を引いて俺も立たせた。そして窓をガタガタとはずしにかかる。幸いここは一階だ。窓の外から飛び降りてもなんの支障も無い。手際よく窓をはずして吉岡が先に外に飛び降りた。そして準備室を見上げて両手を広げる。

「いや……大丈夫だし」

さすがにそれは無いわ。両手を広げて待っていた吉岡の横に大きくジャンプしながら着地した。

「運動神経は良かったんでしたね」

感心したようにつぶやかれたが、降り立った場所は2棟と3棟間の中庭だ。校舎から丸見えの場所にいるためここからは早々に離れたい。ぐるっと中庭から校舎を見渡すと3棟のてっぺん、屋上に人影が見えた。ギクリと体を強張らせるが、それは見知った姿だった。というよりこうなった元凶の姿。無駄に視力もいいため見えてしまった。フェンスに寄り掛かってこちらを見下ろしている南を。
南も俺が見つけたことに気がついたのか手を振っている。

着信のことで頭が煮えたぎっているためのん気に手を振る南を見て奥歯をギリっと噛み締めた。あと少しで終了だったのに南のせいでそれもなくなった。こうやってまた逃げなければならなくなってしまった。

しかし南を睨んでたところでこの状況が良くなるわけでもない。
後ろでガラッと窓の開く音がして「いたー!!!」と大声で叫ばれた。

開かれた窓は生物室だったため、さっきまで準備室のドアを開けようとしていたやつらだろう。叫んだやつの後ろにさらに2人の生徒が顔を出した。知らない顔だから1年だ。

「佐野さんと吉岡だ!」
「佐野さん!?」
「会長様は!? かいちょーさまはいないの!?」

「俺佐野さんがいい」とゾッとするセリフが聞こえて「逃げるぞっ」と吉岡の腕を取って校舎内へと走り出した。
本気走りだ。部活の練習のときでもこんなに本気をだしたことはない。吉岡がついてこられるか不明だが、バスケ部で選抜に選ばれて今でも喧嘩に明け暮れているわけだから体力はあるはずだ。きっと大丈夫。
とにかく後ろを気にせずに走った。
向かうは3棟、南がいる屋上だ。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

オッサン課長のくせに、無自覚に色気がありすぎる~ヨレヨレ上司とエリート部下、恋は仕事の延長ですか?

中岡 始
BL
「新しい営業課長は、超敏腕らしい」 そんな噂を聞いて、期待していた橘陽翔(28)。 しかし、本社に異動してきた榊圭吾(42)は―― ヨレヨレのスーツ、だるそうな関西弁、ネクタイはゆるゆる。 (……いやいや、これがウワサの敏腕課長⁉ 絶対ハズレ上司だろ) ところが、初めての商談でその評価は一変する。 榊は巧みな話術と冷静な判断で、取引先をあっさり落としにかかる。 (仕事できる……! でも、普段がズボラすぎるんだよな) ネクタイを締め直したり、書類のコーヒー染みを指摘したり―― なぜか陽翔は、榊の世話を焼くようになっていく。 そして気づく。 「この人、仕事中はめちゃくちゃデキるのに……なんでこんなに色気ダダ漏れなんだ?」 煙草をくゆらせる仕草。 ネクタイを緩める無防備な姿。 そのたびに、陽翔の理性は削られていく。 「俺、もう待てないんで……」 ついに陽翔は榊を追い詰めるが―― 「……お前、ほんまに俺のこと好きなんか?」 攻めるエリート部下 × 無自覚な色気ダダ漏れのオッサン上司。 じわじわ迫る恋の攻防戦、始まります。 【最新話:主任補佐のくせに、年下部下に見透かされている(気がする)ー関西弁とミルクティーと、春のすこし前に恋が始まった話】 主任補佐として、ちゃんとせなあかん── そう思っていたのに、君はなぜか、俺の“弱いとこ”ばっかり見抜いてくる。 春のすこし手前、まだ肌寒い季節。 新卒配属された年下部下・瀬戸 悠貴は、無表情で口数も少ないけれど、妙に人の感情に鋭い。 風邪気味で声がかすれた朝、佐倉 奏太は、彼にそっと差し出された「ミルクティー」に言葉を失う。 何も言わないのに、なぜか伝わってしまう。 拒むでも、求めるでもなく、ただそばにいようとするその距離感に──佐倉の心は少しずつ、ほどけていく。 年上なのに、守られるみたいで、悔しいけどうれしい。 これはまだ、恋になる“少し前”の物語。 関西弁とミルクティーに包まれた、ふたりだけの静かな始まり。 (5月14日より連載開始)

【完結】取り柄は顔が良い事だけです

pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。 そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。 そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて? ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ! BLです。 性的表現有り。 伊吹視点のお話になります。 題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。 表紙は伊吹です。

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

処理中です...