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第五章
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熱い湯呑みを渡されたが中身はそれほどでもなく、ゆっくりと染み込んでいくお茶に一息つく。
なんでもないように見せて、当たり前のようにベッドに腰を掛けて俺を凝視してくる吉岡の視線を避けるのに精一杯だ。あやふやに視線を動かして、これが外なら補導されること間違いない。
とりあえず吉岡は見すぎだと思う。俺も凝視しちゃう癖あるから人のことは言える立場じゃないけど。
「……やっぱり俺邪魔ですね。佐野さんも大丈夫そうですし帰ります」
「え、あ」
そりゃあ視線は鬱陶しく感じたけど邪魔だとは思っていない。でもそれを言わせたのもきっと俺のせいか。
背中を向けて歩き出す吉岡に言葉を掛けることはできず、ただ見送った。去り際に「ありがとう」と言えたらどんなによかったか。
まだ入っているお茶をサイドボードに置いてベッドに横になった。
人とこんなに関係をこじらせたことがない俺はこれがどうやったら直せるのか分からない。恋愛だと認識したのも初めてのことだし。恋愛ってもっと楽しいものだと思っていたのにどうやらそうじゃないらしい。グッと胸倉をつかまれた感じ。苦しさしかない。
でも待てよ。
吉岡が近くにいてくれてドキドキしたのも確かだ。そしてそばにいて欲しいとも思えた。色んな感情が渦巻いている。
1人で悩んだって出口が見つかりそうにない。誰かに『友達の話なんだけどさ』とよくあるパターンで話を持っていってみようか。いやバレそうだ。北村ならバレてもいいんじゃないか。
うーん、うーん、と考え込むが誰に相談するかでまた悩む。
悩んでいると腹がへってきた。スマホで時間を確認すると18時近い。もう食堂も開いていることだし行くことにした。
一旦寮へと戻ってから。
エレベーターの扉が開き、廊下に出る。廊下中に広がる甘い匂い。これはいつかも嗅いだ焼き菓子のものだ。スンスンと鼻を鳴らしてあるくが匂いの元が分からない。そもそも廊下に匂いが漏れることがないのに何故こんなに漏れているのか。
いいな、おいしいんだよな、あのケーキ。俺だけのために作ってきてくれた吉岡を思い出す。少し恥ずかしそうにしていた姿は俺の心を擽ったのも確かだ。
カードキーをポケットから取り出す。
ここで謝ってしまえば大丈夫だろうか。さっきのお礼もして。
自分が傷つきたくなくて一方的に放ってしまった酷い言葉たちも反省していると伝えれば許してくれるだろうか。
カードキーを指ではじいていると後ろからドアの開く音が聞こえた。すぐ傍で聞こえた音だから吉岡の部屋しかない。
さっさと部屋に入ればよかった。こんなところでもだもだしていたため入るタイミングもよく分からないものになってしまった。
「わっ! びっくりしたー。人いるし」
聞きなれない声に口調。しかし聞いた声色。
振り返って顔なんて見たくなかったけど確かめたくなった。動悸が少しずつ激しくなる中、ゆっくりと振り返った。
白崎と言うあのバスケ部の一年がじろじろとこちらをみていたが俺と目が合うとすぐにそれは逸らされた。相変わらず感じの悪い野郎だった。後ろには吉岡がいて横目で俺を捕らえて少しだけ頭を下げた。
でもそれだけ。
それだけだった。
2人は分からない会話を繰り広げながらエレベーターへと歩いていく。だらっとした私服姿。白崎が真っ黒な姿のためあのビルが頭をよぎった。
自分がした結果がこれだったんだろうか。ここまでのものを望んで言ったわけじゃない。
こんなことなら自分の気持ちに気が付かなきゃよかった。
蓋をしたままにしておけばよかった。
何度も何度も繰り返される思考。堂々巡りで神経が磨り減る。
「あ、市也! いいところに」
食堂と繋がれた奥廊下から笑顔で走ってきたのは能登さん。こんなときに限って……と思ったが今だから遠慮なく冷たくできそうだ。
「すいません。体調がすぐれないので」
能登さんがこちらにやってくる前にキーを差込、素早く玄関に入った。南は監視をしているらしいからこれでいいのだろう。能登さんには申し訳ないけど人の悩みを聞けるほど俺のメンタルは強くない。
なんでもないように見せて、当たり前のようにベッドに腰を掛けて俺を凝視してくる吉岡の視線を避けるのに精一杯だ。あやふやに視線を動かして、これが外なら補導されること間違いない。
とりあえず吉岡は見すぎだと思う。俺も凝視しちゃう癖あるから人のことは言える立場じゃないけど。
「……やっぱり俺邪魔ですね。佐野さんも大丈夫そうですし帰ります」
「え、あ」
そりゃあ視線は鬱陶しく感じたけど邪魔だとは思っていない。でもそれを言わせたのもきっと俺のせいか。
背中を向けて歩き出す吉岡に言葉を掛けることはできず、ただ見送った。去り際に「ありがとう」と言えたらどんなによかったか。
まだ入っているお茶をサイドボードに置いてベッドに横になった。
人とこんなに関係をこじらせたことがない俺はこれがどうやったら直せるのか分からない。恋愛だと認識したのも初めてのことだし。恋愛ってもっと楽しいものだと思っていたのにどうやらそうじゃないらしい。グッと胸倉をつかまれた感じ。苦しさしかない。
でも待てよ。
吉岡が近くにいてくれてドキドキしたのも確かだ。そしてそばにいて欲しいとも思えた。色んな感情が渦巻いている。
1人で悩んだって出口が見つかりそうにない。誰かに『友達の話なんだけどさ』とよくあるパターンで話を持っていってみようか。いやバレそうだ。北村ならバレてもいいんじゃないか。
うーん、うーん、と考え込むが誰に相談するかでまた悩む。
悩んでいると腹がへってきた。スマホで時間を確認すると18時近い。もう食堂も開いていることだし行くことにした。
一旦寮へと戻ってから。
エレベーターの扉が開き、廊下に出る。廊下中に広がる甘い匂い。これはいつかも嗅いだ焼き菓子のものだ。スンスンと鼻を鳴らしてあるくが匂いの元が分からない。そもそも廊下に匂いが漏れることがないのに何故こんなに漏れているのか。
いいな、おいしいんだよな、あのケーキ。俺だけのために作ってきてくれた吉岡を思い出す。少し恥ずかしそうにしていた姿は俺の心を擽ったのも確かだ。
カードキーをポケットから取り出す。
ここで謝ってしまえば大丈夫だろうか。さっきのお礼もして。
自分が傷つきたくなくて一方的に放ってしまった酷い言葉たちも反省していると伝えれば許してくれるだろうか。
カードキーを指ではじいていると後ろからドアの開く音が聞こえた。すぐ傍で聞こえた音だから吉岡の部屋しかない。
さっさと部屋に入ればよかった。こんなところでもだもだしていたため入るタイミングもよく分からないものになってしまった。
「わっ! びっくりしたー。人いるし」
聞きなれない声に口調。しかし聞いた声色。
振り返って顔なんて見たくなかったけど確かめたくなった。動悸が少しずつ激しくなる中、ゆっくりと振り返った。
白崎と言うあのバスケ部の一年がじろじろとこちらをみていたが俺と目が合うとすぐにそれは逸らされた。相変わらず感じの悪い野郎だった。後ろには吉岡がいて横目で俺を捕らえて少しだけ頭を下げた。
でもそれだけ。
それだけだった。
2人は分からない会話を繰り広げながらエレベーターへと歩いていく。だらっとした私服姿。白崎が真っ黒な姿のためあのビルが頭をよぎった。
自分がした結果がこれだったんだろうか。ここまでのものを望んで言ったわけじゃない。
こんなことなら自分の気持ちに気が付かなきゃよかった。
蓋をしたままにしておけばよかった。
何度も何度も繰り返される思考。堂々巡りで神経が磨り減る。
「あ、市也! いいところに」
食堂と繋がれた奥廊下から笑顔で走ってきたのは能登さん。こんなときに限って……と思ったが今だから遠慮なく冷たくできそうだ。
「すいません。体調がすぐれないので」
能登さんがこちらにやってくる前にキーを差込、素早く玄関に入った。南は監視をしているらしいからこれでいいのだろう。能登さんには申し訳ないけど人の悩みを聞けるほど俺のメンタルは強くない。
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