竹一族の記憶

夕凪ヨウ

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25番は存在しない 〜竹一族の記憶(一)〜

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「引き受けてくれてありがとう、兄さん」
 電話で事情を話して二つ返事で了承をもらってすぐ、俺はそう言った。兄さんは良いんだよ、といつもの穏やかな声を返してくれる。
『初めての1人仕事だ。頼るべきところは頼ったらいい。父さんたちだって、口には出さないけど、同じ思いさ』
「そうなのかな。よくわかんねえけど」
『昔からわかりにくい人たちだからね。ーーじゃあ、四音。初めから読み上げて』
 俺は頷き、校長に許可をもらってコピーをした1974年度西馬高校入学者の名簿を読み上げた。初めに全体人数と男女比、次に名前と性別。2年1組の25番に差し掛かった時、俺は今し方行った推測を口にした。兄さんは鷹揚に頷いてくれた後、なるほどね、と相槌を打つ。
『間違ってないと思うよ。初めに行方不明になったのは男子生徒、それも、な行で始まる苗字だ。夏目と楢崎の間だから・・・・絞れるね』
「ああ。兄さんには、当時の学校やクラスの情報を元に、行方不明の男子生徒の身辺を整理してほしいんだ。もちろん俺も、生徒の正体を知る必要があるから、この辺りの苗字の分布とかを調べるよ。警察に力を貸してくれなんて言えない以上、図書館は最高の情報源だからさ」
『確かにそうだね。ちなみに、その辺りの図書館はネット検索も充実しているから、四音が思っているより良い情報が見つかるかもしれないよ。参考までに、苗字を調べるのにうってつけなデータベースの名前を教えておくね』
 さすが兄さんだ。依頼の内容を知っているから、俺がどこで躓いて、何を聞いてくるのかを全部わかってる。電話中にキーボードや画面を叩いている音が聞こえなかったから、予め調べておいてくれたんだろうな。
 兄さんに言われたデータベース名をメモし終わると同時に、兄さんの声が響く。
『できれば25年前・・・・2020年度の入学生と、今年度の入学生の名簿も教えてくれない? 何か共通点が見出せるかもしれない。校長先生に頼めるかな?』
「多分、許可してもらえると思う。ちょっと待っててくれ」
 一旦電話を切って校長に尋ねると、予想通りというべきか、了承がもらえた。安堵しながら同じようにコピーを取り、内容を読み上げて兄さんと共有する。
『行方不明者、全員男子生徒だね』
 きちんと確認をしないまま読み上げていたので、俺は兄さんの声に驚いて3つの名簿を読み返した。そして3つ全て、入学時に男子生徒の数が1人足りないことに気がついた。
「男子生徒を狙った心霊現象かな?」
『そうとも限らない。四音の予想通りの場合、話が違ってくる。
 すなわち、2525ーーどちらなのか、現時点ではわからない。早すぎる結論は間違えかねないから、地道に行こう』
 俺が頷くと、兄さんは「ただ」と続ける。
『四音の予想が正しい可能性の方が、少し高いよ』
「えっ? 何でそんなこと・・・・」
『僕たちがわからないことが何かに注目すれば、見えてくるはず。
 わからないことは、大雑把に言えば生徒の個人情報だ。名前や性別、家族構成、顔立ち・・・・個人を示すものが、何1つとしてわからない。でも、男子生徒であることはわかったよね。これはどうして?』
 解けない問題を生徒に教える教師のような口調だった。俺は少し考え、答えが目の前にあることに気がつく。
「名簿を見たからだろ? 男子生徒の人数が全体で見て足りないから。転入転校もない以上、人数は変わらない」
『その通り。でもそれって、こう考えることもできるでしょう? ーーって。
 考えてもみてよ。自分が学校に入学した時、自分の学年の生徒が全部で何人いて、男女それぞれの数なんて覚えてないでしょ? つまり、ーーあくまで、四音の予想を正しいとした場合ーー。もちろん、逆も然り』
 俺は思わず息を呑んだ。その事実に驚愕したのはもちろん、この短時間でその考えに行き着いた兄さんの頭脳に、何より驚きを隠せなかった。
『まあ、今は何とも言えない。また手伝ってほしいことがあったら連絡して。無理は禁物だよ』
 返事をして通話を終えた後も、俺は興奮が冷めなかった。
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