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14枚目のトランプカード 〜竹一族の記憶(二)〜
一
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「呪われたトランプ?」
何の変哲もないトランプカードを見つめ、僕は思わず声を上げた。非科学的云々という話は立場上しないが、目の前にあるトランプカードは、どう見ても普通の代物だった。
「ああ、そうだ。呪われたトランプだ」
“客人”ーー浅間陽二郎という名で、日本国内でも5本の指に入る資産家ーーは復唱しながら頷いた。オールバックに整えた茶髪からは整髪料の匂いが漂い、頻りに切り揃えた口髭を触っている。オーダーメイドと思わしきスーツは紺に金のストライプが入っており、真白い靴下には汚れ1つない。絵に描いたような富豪っぷりに、苦笑を漏らしそうになった。
「冗談ではないぞ。本当の話だ」
「疑っているわけではありませんから、ご心配なく。取り敢えず、詳しい事情を話してくださいませんか?」
浅間さんは深々と頷き、呪われたトランプの詳細を話し始めた。
「このトランプは、年代物ばかりを売り出したオークションで落札したものだ。明治時代に日本へ渡った物の残りと言われ、これまで多くの人間の手を渡ってきた。その価値、実に1000万」
トランプカード1つに、1000万か。お金持ちの道楽は理解し難いなあ。
「絵柄も古く、年代も感じられる代物だったから気に入ってな。何度も客人を呼んでゲームに耽った。しかし、落札から1ヶ月ほど経ったある日のこと・・・・遊戯中に妙なことに気がついた」
一呼吸おいて話す姿は、自分の話に相手を引き込もうとする意思の表れだ。でも、この手の話は聞き慣れている。そんな時間稼ぎより、早いところ結論が聞きたいんだけど。
「14と書かれたトランプを見たんだよ」
「・・・・へえ」
思わず口の端が上がった。
現在、日本で流行している一般的なトランプカードは、英国米国で扱われているものと同じ、1から13までのカードが4組とジョーカーが2枚の、計54枚のものだ。言い換えれば、日本で出回っているトランプカードには、14が存在しないということ。・・・・想像よりも面白い話かもしれない。
「確かに、普通は有り得ませんね。しかし、見間違いということもあり得るのでは?」
「もちろんそれは考えた。だが、ゲームをしていた全員が、同時に14のトランプを目にしたんだ。これが見間違いと言えるか?」
「全員・・・・何人でゲームを?」
「私を含めて4人だ。ゲームの中盤あたり、手札を見たら唐突に現れた。しかも残り全員が同じことを言うものだから、気味悪くなって中断したよ。酒を飲んでいたから、酔って変なものを見たんじゃないかという話になったしな」
それが最もな解釈だ。でも、ここまで狼狽している以上、1度だけではなかったんだろうな。
「ですが、酔っていない時にも同じものを見たーーと?」
「そういうことだ。で、これはおかしいと思って調べたら、過去にこのトランプを所有していた人間が不審な死を遂げているという。もしかしたら、私も同じ目に遭うかもしれない・・・・。だからこそ、ここへ来たんだ。金はいくらでも払うから、このトランプの呪いを解いてくれ」
呪いと決めてかかるのが早過ぎる。第一、何で調べてそんな話に行き着いたんだか。あらゆる点において正確さに欠けるけれど・・・・気になることはある。
「14の数字を見るのは、ゲームの間だけですか? 普通に触れている間、見えたことは?」
「ない。ゲームの間だけだ。それも、必ず中盤あたりにな」
「なるほど。では、14が書かれたトランプカードの全体像を見たことは?」
「それもない。何があるかわからんのだぞ? そんな危険なことはできん」
呪いかどうか確信のないうちから、危険と決めるのもどうかと思うけど・・・・いずれにせよ、不可思議であることは確かか。浅間さん本人は呪いと信じ、どうにかしてほしいと願っているし、叶えるなら依頼を受けるしかない。
「ちなみにですが、トランプカードに呪いがかかっていると仮定して、それが解けた場合、手元に戻されますか? それとも、こちらで処分いたしましょうか?」
後から揉めないために重要なことなので、こういう依頼の場合、必ずこの質問はしなければいけない。浅間さんは悩んだ挙句、できれば手元に戻したいと答えた。
「貴重な品であることは確かだからな。だがまあ、呪いを解く過程で損傷すれば、そちらに引き渡そう」
うーん。ちょっと偉そうな物言いが気になるけど、触れないが吉かな。どういう結果になるかわからない以上、不興を買いたくはないし。
「承知しました。このトランプカードは預かりますので、解決次第、ご連絡します。ただ、調査の最中にも何かしらの要件でご連絡することがあるかもしれませんので、その点はご容赦ください」
「それは構わん。ただ、私は会社にいて電話に出ないこともある。さっきの名刺と合わせて、秘書室の電話番号も渡しておこう。私に繋がらなければ、こちらにかけてくれ」
名刺と揃って、金縁のカードとは豪勢な。こんなところまでこだわるなんて、やっぱり、本当のお金持ちは、理解できそうにもないや。
何の変哲もないトランプカードを見つめ、僕は思わず声を上げた。非科学的云々という話は立場上しないが、目の前にあるトランプカードは、どう見ても普通の代物だった。
「ああ、そうだ。呪われたトランプだ」
“客人”ーー浅間陽二郎という名で、日本国内でも5本の指に入る資産家ーーは復唱しながら頷いた。オールバックに整えた茶髪からは整髪料の匂いが漂い、頻りに切り揃えた口髭を触っている。オーダーメイドと思わしきスーツは紺に金のストライプが入っており、真白い靴下には汚れ1つない。絵に描いたような富豪っぷりに、苦笑を漏らしそうになった。
「冗談ではないぞ。本当の話だ」
「疑っているわけではありませんから、ご心配なく。取り敢えず、詳しい事情を話してくださいませんか?」
浅間さんは深々と頷き、呪われたトランプの詳細を話し始めた。
「このトランプは、年代物ばかりを売り出したオークションで落札したものだ。明治時代に日本へ渡った物の残りと言われ、これまで多くの人間の手を渡ってきた。その価値、実に1000万」
トランプカード1つに、1000万か。お金持ちの道楽は理解し難いなあ。
「絵柄も古く、年代も感じられる代物だったから気に入ってな。何度も客人を呼んでゲームに耽った。しかし、落札から1ヶ月ほど経ったある日のこと・・・・遊戯中に妙なことに気がついた」
一呼吸おいて話す姿は、自分の話に相手を引き込もうとする意思の表れだ。でも、この手の話は聞き慣れている。そんな時間稼ぎより、早いところ結論が聞きたいんだけど。
「14と書かれたトランプを見たんだよ」
「・・・・へえ」
思わず口の端が上がった。
現在、日本で流行している一般的なトランプカードは、英国米国で扱われているものと同じ、1から13までのカードが4組とジョーカーが2枚の、計54枚のものだ。言い換えれば、日本で出回っているトランプカードには、14が存在しないということ。・・・・想像よりも面白い話かもしれない。
「確かに、普通は有り得ませんね。しかし、見間違いということもあり得るのでは?」
「もちろんそれは考えた。だが、ゲームをしていた全員が、同時に14のトランプを目にしたんだ。これが見間違いと言えるか?」
「全員・・・・何人でゲームを?」
「私を含めて4人だ。ゲームの中盤あたり、手札を見たら唐突に現れた。しかも残り全員が同じことを言うものだから、気味悪くなって中断したよ。酒を飲んでいたから、酔って変なものを見たんじゃないかという話になったしな」
それが最もな解釈だ。でも、ここまで狼狽している以上、1度だけではなかったんだろうな。
「ですが、酔っていない時にも同じものを見たーーと?」
「そういうことだ。で、これはおかしいと思って調べたら、過去にこのトランプを所有していた人間が不審な死を遂げているという。もしかしたら、私も同じ目に遭うかもしれない・・・・。だからこそ、ここへ来たんだ。金はいくらでも払うから、このトランプの呪いを解いてくれ」
呪いと決めてかかるのが早過ぎる。第一、何で調べてそんな話に行き着いたんだか。あらゆる点において正確さに欠けるけれど・・・・気になることはある。
「14の数字を見るのは、ゲームの間だけですか? 普通に触れている間、見えたことは?」
「ない。ゲームの間だけだ。それも、必ず中盤あたりにな」
「なるほど。では、14が書かれたトランプカードの全体像を見たことは?」
「それもない。何があるかわからんのだぞ? そんな危険なことはできん」
呪いかどうか確信のないうちから、危険と決めるのもどうかと思うけど・・・・いずれにせよ、不可思議であることは確かか。浅間さん本人は呪いと信じ、どうにかしてほしいと願っているし、叶えるなら依頼を受けるしかない。
「ちなみにですが、トランプカードに呪いがかかっていると仮定して、それが解けた場合、手元に戻されますか? それとも、こちらで処分いたしましょうか?」
後から揉めないために重要なことなので、こういう依頼の場合、必ずこの質問はしなければいけない。浅間さんは悩んだ挙句、できれば手元に戻したいと答えた。
「貴重な品であることは確かだからな。だがまあ、呪いを解く過程で損傷すれば、そちらに引き渡そう」
うーん。ちょっと偉そうな物言いが気になるけど、触れないが吉かな。どういう結果になるかわからない以上、不興を買いたくはないし。
「承知しました。このトランプカードは預かりますので、解決次第、ご連絡します。ただ、調査の最中にも何かしらの要件でご連絡することがあるかもしれませんので、その点はご容赦ください」
「それは構わん。ただ、私は会社にいて電話に出ないこともある。さっきの名刺と合わせて、秘書室の電話番号も渡しておこう。私に繋がらなければ、こちらにかけてくれ」
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