小説探偵

夕凪ヨウ

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Case160.愛の刃③

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「やっぱり龍君だ!」

 峯岸と呼ばれた女性は、満面の笑みで龍に駆け寄った。龍は少し混乱している。

「お前って家、この辺だったか?」
「結婚して移住したの。ね?侑李君。」
「ああ。」

 侑李と呼ばれた男性はゆっくりと山を登って海里たちの元へ来た。彼は龍を見ると柔らかい笑みを浮かべる。

「久しぶり、東堂。」
「桜田・・・。そういえば、何年か前の同窓会で結婚したって言ってたな。」
「覚えてくれてたんだな。ここに来たのは安芸の事件?」
「知ってるのか。」
「こんだけ騒がれたら分かるよ。」

 桜田侑李は苦笑した。彼の妻、龍が峯岸と呼んだ女性は桜田萌音と言うらしい。2人とも、龍の高校の同級生だと言った。

「仕事中か。邪魔して悪い。」
「別に構わねえよ。ついでに聞くけど、5日前の20時以降、ここらで怪しい人間とか見なかったか?」
「見てないなあ。この辺人通らないもん。」
「じゃあもう1つ。昨日から今日にかけて、黒いショートヘアーの女性が通ったりは?」

 そう尋ねたのは玲央だった。2人は首を横に振る。玲央はそっか、と言って息を吐く。

「龍君。その人誰?」

 峯岸が海里を見た。龍は少し考えてから口を開く。

「こいつは仕事仲間というか協力者というか・・・。」
「江本海里と申します。」
「江本・・・?あ、もしかして“小説探偵”?」

 萌音の言葉に、海里はわずかに驚いた後、頷いた。萌音は笑う。

「最近噂になってるよね~。こんな綺麗な人だったんだ。一瞬女の人かと思っちゃった。」

 海里は苦笑した。すると、侑李が口を開く。

「うち近いけど、茶でも飲んでくか?」
「ありがたい誘いだけど、別の機会にしておくよ。急ぎの用もできたしな。」
「そっか。また来いよな。」
「おう。」

 帰りの車で、玲央は終始無言だった。海里は体調でも悪いのかと尋ねたが、彼はそんなことはないと言った。

「東堂さんは先程の2人と仲は良かったんですか?」
「峯岸とは中高が一緒だったからな。桜田は高校で3年間クラスが一緒で、仲は悪くなかった。ただあの2人はクラスが同じでも接点はないと思ってたから、夫婦になったと聞いた時は驚いた記憶がある。」

 警視庁に着くと、龍は真っ先に鑑識へネックレスを渡した。

「アサヒから連絡はあったか?」
「いいえ、全く・・・。」

 鑑識は申し訳なさそうに首を振った。

「・・・・そうか。まあとりあえず、それ頼む。」
「はい。」

 海里は家に帰ると、龍から渡された行方不明者リストを思い出していた。誰1人として見つかっておらず、1番最近行方不明になったのが、アサヒを除けば安芸雄一郎だった。
 次の行方不明者が現れるまでの期間はバラバラだが、行方不明になるのは必ず正午以降。怨恨の線は多すぎて、まだ整理できていないと玲央が言っていた。

(犯人の目的は何なのだろう。なぜ東堂さんと同じ中学や高校なんて条件をつけているんだ?
実際、行方不明者の顔と名前を彼は一応、把握していた。つまり、3年間で覚える程度には関わっていたということだ。今日会ったあの2人も同級生と言っていたし、巻き込まれたりしなければ良いけれど・・・・。
でも、流石に犯人も、同じ場所で殺しはしないはず。警察が見張っているし、近隣住民も警戒している。ただ今の状況だと、東堂さんも狙われる可能性が高い。
分からないのは、アサヒさんがいなくなったことだ。誘拐されたとしたら、犯人は自分の付けた条件を外していることになるじゃないか。)

「・・さん・・兄さん!」
「えっ?」
「お味噌汁、沸騰してるってば‼︎」

 真衣に言われて海里は慌ててスイッチを切った。具が飛び出しはしなかったが、少し焦げ臭い。

「もう!ぼーっとしすぎ!ご飯は私が作るから、兄さん座ってて‼︎」
「す、すみません。」

 海里はリビングのソファーに腰掛け、溜息をついた。犯人の目的が全く分からないからだ。行方不明者は多数いるものの、遺体で発見されたのは安芸雄一郎のみであり、彼より前に行方不明になった人の居場所は捜査をしている現在でも、全く掴めていなかった。

「・・・真衣。」
「何?」
「人が必死になるものって、何だと思いますか?」

 真衣は兄が事件のことを考えていると分かっていたが、それでもよく分からずに顔を歪めた。

「え?何その質問・・・。」
「答えがあるなら聞きたいんです。」

 真衣は怪訝な顔をしながらも真剣に考えてくれているようだった。やがて、彼女はゆっくりと口を開く。

「恋愛・・とか?人を好きになって、その人に振り向いて欲しくて、必死になったりするんじゃない?贈り物をしたり、その人のためになることをしたり。」
「ためになること・・・ですか。」
「そんな話が事件に関係あるの?」
「いえ・・・断言はしません。ただ、何をするにも理由がある。殺人の理由など深く考えたくはありませんが、動機がなければ動かない。」

(でも・・そうか・・・・恋愛。東堂さんも玲央さんも、学生時代から女性に好意を寄せられることが多かったと言っていたし、その線の犯罪の可能性もある。でも、そうだとしたら異常じゃないか?行方不明者は男女両方・・。恋愛に関係あるとは限らない?)

 そんなことを考えながら、海里は浅い眠りについた。


 翌日、海里を起こしたのはアラームではなく電話だった。海里は驚いて飛び上がり、相手を見ずに通話ボタンを押した。

『江本君。朝からごめんね。』
「ああ・・玲央さん。いえ、構いませんよ。どうされました?」
『昨日の現場に来て欲しいんだ。なんて言うか・・・異常事態が発生してね。』
「異常事態?」
『うん。実は・・・・』

         ※

 現場に到着した海里は、その惨状を見て言葉を失った。一昨日、安芸雄一郎が発見された、その周辺に少なくとも20の遺体が転がっていたのだ。

「なっ・・・何ですか⁉︎これ・・・。」
「俺たちにもよく分からないんだ。朝張り込みをしていた刑事が一眠りをして来たら、既にこうなっていたらしい。しかも、全員行方不明者リストにある人物と一致した。」

 玲央の言葉に、海里は唖然とした。龍は1人1人の顔を確認し、軽い溜息をついている。

「死亡時刻はバラバラだ。1番初めに行方不明になった奴で2週間前。1番最近で1週間前だ。」
「どうして・・・こんなことを?」
「俺たちへの警告だろ。“これ以上踏み込むな”、ってことだ。」

 海里は鼓動が早まるのを感じ、震えながら尋ねた。

「・・・・アサヒ・・さんは?」
「いない。」

 海里は少し安堵した。が、目の前の光景はとても安心できるものではなかった。

「江本君。携帯鳴ってるよ?」
「あ・・本当ですね。え、大和さんから・・・?もしもし?」
『突然すみません、江本さん。』
「いえ。どうされました?」
『アサヒが見つかりました。現在神道病院にいます。』
「え⁉︎」

 驚く海里に対して、大和は冷静だった。

『何があったかはこちらには何も話していません。守秘義務などもあるでしょうし、東堂さんたちと来て頂けませんか?』
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