小説探偵

夕凪ヨウ

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Case169.病院の亡霊③

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「今から20年前、小倉病院にある女性患者が運び込まれて来ました。女性の名前は深田桃菜。当時、“モモ”の名前で活動していたモデルです。桃菜さんは通り魔に襲われて足を切られ、病院に運び込まれて来たんです。」
「モデルとなると、そうとう外傷には気を使ったでしょうね。」
「はい。急いで手術が行われようとしたんですが、その日は急患で運び込まれた子供がいて、父はその子の手術をしようとしていたんです。でも・・・」


『今、桃菜さんを失うわけにはいかないんです!先に桃菜さんを手術してくださいませんか⁉︎』


「もちろん父は断りました。でも桃菜さんの事務所は大手で、副院長がお金を積まれて強引に桃菜さんの手術をするよう言いました。結局父も桃菜さんの手術を先にして、子供は助からなかった。」

 大和は眉を顰めた。蛍はがたがたと震える。

「父は子供のご両親に手遅れだったと伝えると、ご両親は涙ながらに病院を去って行きました。でも、これだけでは終わらなかったんです。後日、子供の母親が病院にやって来て桃菜さんが入院している病室へ行き、回診途中だった副院長を包丁で傷つけました。」
「なっ・・・⁉︎」

 驚きを隠せなかった。蛍は続ける。

「それを合図かのように父親も入って来て、桃菜さんの体全体に硫酸をかけたんです。1分もない、素早い犯行だったと聞いています。」

 大和は言葉を失った。医療ミスなどではない、政治と金で動かされた、立派な殺人未遂事件だったのだ。

「そんな話は全く知りません。副院長と桃菜さんは現在どこで何を?」
「桃菜さんは芸能界を引退後、家業をついだそうです。副院長は、1人の医師としてここに勤めています。」
「は・・・?そんな事件があったのに、医師としてやっていけるわけがありません。なぜ小倉院長は退職を命じなかったのですか?」
「・・・最終的に手術をしたのは父ですから、十分脅しの道具にはなりますよ。」

 その時、廊下の奥から足音がした。振り向くと、友紀よりいくらか若い男が歩いて来ていた。蛍は大和に囁く。

「当時の副院長の矢倉雅二さんです。矢倉さん、こちら智久さんの甥の神道大和先生です。」
「ああ・・・。あなたが。初めまして。矢倉です。」
「初めまして。」

 2人は握手を交わした。すると、雅二は蛍を睨み、言った。

「何のお話をされていたんですか?お嬢様。」
「たいした話じゃありません。世間話ですよ。」
「そのわりには顔色がよろしくありませんが。」
「気のせいです。」

 蛍は精一杯の虚勢を張ってそう言った。

「・・・・そうですか。では。」

 雅二が見えなくなると、大和は蛍に頭を下げた。蛍は驚く。

「申し訳ありません。実は、警察官の皆さんから依頼を受けて来たんです。もし医療ミスが事実であれば、放っておくわけにはいかないと。」
「・・・そうだったんですね。じゃあ、警察官に今の話を?」
「はい。」

 蛍は悲しげに笑った。大和はお辞儀を深くする。

「いいんですよ。私たちが蒔いた種ですから。」
 
         ※

「以上ですが、ご満足ですか?」
「情報としては申し分ないよ。ありがとう。」

 玲央の言葉に軽く頭を下げ、大和は去っていった。龍は軽く溜息をつく。

「やりすぎだったんじゃねえの?」
「自分でもそう思うよ。だけど、放っておくのは難しかった。捜査一課の耳に入った以上何かしらの動きはするだろう。」
「そうかもしれないが・・・。」

 海里は1人考え込んでいた。唸りながら首を傾げている。

「現時点で亡霊の正体はモデルさんの可能性が高いですね。しかし、亡くなった子供のご両親は、どうやってそこまで突き止めたんでしょうか。病院の面会はきちんと受付を通さなければならないのに・・・。」
「そうだな。が、この事件は容疑者と思わしき人間が多い。その夫婦も出所しているだろう。調べるか?」
「お願いします。まだ何とも言えませんが、この事件、そう簡単に終わらない気がします。」

 海里の予想は当たっていた。この翌日、小倉病院の一室で、惨殺された矢倉雅二が見つかったのだから。

「父さん!」
「蛍・・・。」

 友紀は青い顔で蛍を見た。現場には警察が来ており、仕事をしている。

「どうしてこんなことに・・・!今更、昔のことなんてーーーー」
「すみません。警視庁の磯井です。お話聞かせて頂けますか?」

 話を聞き終えた義則は、電話で調査結果を龍に報告していた。

『そうか。報告感謝するよ。犯人は絞り込めそうか?』
「過去の話からすれば当時のその夫婦が怪しいのですが、現在所在地が掴めていません。小倉院長と娘さんにも話を聞きましたが、怨恨の線でもあり得ますから。」
『そうか。だが、院長と娘さんには身辺に気を配るよう言っておいてくれ。何があるか分からないからな。』
「はい。」

 電話を終えると、龍は現状を海里と玲央に報告した。海里は話を聞くと、こう言った。

「亡霊の話は聞いたりしませんでしたか?」
「聞いたらしいが、知らないと言ったらしい。まあ深夜のことだし無理もないけどな。」

 すると、扉が開き、アサヒが入って来た。手には大きな茶封筒を持っている。

「監視カメラの映像データと、過去の事件の資料。全く、あなたたちはいないのに上司に仕事増やされるなんて冗談じゃないわ。」
「ごめんごめん。ありがとう。」

 玲央はアサヒが持って来たパソコンにデータを繋げて映像を見た。海里と龍も横から覗き込む。

「確かに、亡霊らしきものが写っていますね。」
「でもこれだけじゃ何とも言えないぞ。」

 映像を見返していると、海里がハッとし、叫んだ。

「止めてください!今、何か・・・。」

 海里が指摘したところまで映像を戻して止めると、海里は亡霊らしきものの顔を指しながら言った。

「顔に火傷の跡があります。本当に一瞬、ですが。」
「うわ、よく見えたね。っていうかよくよく見ると左目の下にホクロがある。これって確か・・・・」
「深田桃菜と同じ位置だな。火傷は硫酸をかけられた時のものか?」
「なりすましの可能性があるわよ。彼女は当時14歳。今は私や龍と大して変わらないから、それを踏まえると細すぎる気もする。何より、体型がどこか男らしく見えるわ。」
「言われてみればそうだが・・・。解析できるか?」
「仕事だからね。明日には知らせるわ。」

 アサヒが帰ると、海里は再び考え込んだ。

(なぜ20年経った今、殺人が決行されたのだろう。あの亡霊は、監視カメラを見ていた。まるで、深田桃菜の存在を見せつけるかのように。全く意図が読めない・・・。)

 各々が事件を考える中、救急車のサイレンが聞こえて来たのは、真夜中のことだった。
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