小説探偵

夕凪ヨウ

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Case187.追求③

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「こんにちは。圭介さん。」
「海里・・⁉︎」

 圭介は、突然現れた海里と真衣に驚きを隠せなかった。海里は不思議そうに首を傾げる。

「少しお参りに来てみたかったんです。迷惑でしたか?」
「あ、いやいやそんなことないって!ちょっとびっくりしただけだ!」

 不安を取り繕うように圭介は満面の笑みを浮かべた。海里はそうですか、と笑って真衣と手を合わせる。

(今1番会いたくなかったのに・・・。何でこんな時に会っちまうんだ?俺って運が悪いのか?2人が元気なら構わねえけど・・・・でもこの様子じゃ、警視庁の騒ぎは知らないよな。無理に言わない方がいいか。)

「圭介さんの本業は神主ですか?」
「おう。今は父さんがやってるから、そのうち後を継ぐって感じだな。叔父さんの病院は兄さんが継ぐし。」
「へえ~。神主姿の圭介さん、見てみたいなあ。ねえ?兄さん。」
「そうですね。」

 2人の幸せそうな顔を見て、圭介は喉まで出掛かっていた言葉を飲み込んだ。今口に出した所で、2人は混乱するだけなのだ。それどころか、自分の“秘密”すら明かしてしまう。圭介は、そう簡単に事を進めたくはなかった。

「小説の方も売上すげえよな!どうやったらあんな面白いのが書けるんだ?」
「思ったままを書いてるだけですよ。私は本が好きですから。読むのも、書くのも。」

 その時、圭介の頭に幼い頃の海里の言葉が浮かんだ。


“私は本が好きだから、読んだり書いたりしてるんです。圭介も、一緒にやりましょうよ。楽しいですよ?”


「・・・・昔から変わんねえな。」
「えっ?」
「いや、何でもねえよ。仕事があるから、じゃあな!」

 圭介は走り去って家の中へ入り、自分の部屋に転がり込んだ。ベッドに倒れ込み、息を吐く。

「あーあ・・・やっぱり堪えるな。何で・・覚えてねえんだよ。俺は、2人と一緒が良いのにさ。」
                   
         ※

「あった・・・!この資料よ。」

 アサヒから資料を手渡されると、玲央はそれを凝視した。次々とページをめくり、違うと呟く。

「似ているのはいくつかあるね。ピックアップするからメモお願い。」
「分かったわ。」

 しばらくして資料を見終えると、玲央はアサヒが取ったメモを見た。そこには、全部で5つのテロ組織が綴られていた。

「助かった、ありがとう。後はこっちでやるよ。」
「いいの?あなた仮にも容疑者よ?」
「どうにかするよ。伊吹と井上課長が探してくれているし、なりふり構ってられないから。」
「そうね。頑張って。」

 玲央は頷き、資料室を飛び出した。アサヒも部屋を出ようとすると、突然彼女のスマートフォンが鳴った。アサヒは着信元を見て眉を顰める。

「・・・もしもし?」
『アサヒー!元気にしてる?もう、しばらく電話出てくれないから悲しくてさあ。もうちょっと話したい・・・』
「用件は何?忙しいのよ。」
『キミの声が聞きたかったっていうのもあるんだけど、忠告してあげようかと思って。』
「忠告?」

 アサヒは鬱陶しそうな声で尋ねた。電話越しの相手が明るく返事をする。 

『神道圭介が全ての鍵を握ってるよ。何か知りたければ、調べるのと並行して彼に聞いてみるといい。面白い話が聞けるからさ~。』
「は?あの男が?どういうことよ。」
『知りたいなら聞くべし‼︎あ、それともボクの口から話した方がいい?もしくは父さんの口から・・・・』

 何か言おうとした男の言葉を、アサヒはすぐに遮った。

「結構よ。あなたたちに頼る気はないわ。だからもう電話して来ないで。兄さん。」
                      
         ※

「あんたがやり取りしたのは西園寺茂だけか?」
「・・・そうだ。」

 龍は、根岸の取調べを行なっていた。
 彼の返事を聞いた龍は、軽く溜息をつく。

「くだらない嘘をつくな。あの男1人で接するなんて、そんなリスクの高いことするわけがない。あくまであいつは表の人間として活動しているんだからな。」
「知らないものは知らん。」
「質問に答えろよ。知っているか否かなんて聞いてない。あんた、まだ何か知っていることがあるだろう。」

 根岸は返事をしなかった。龍の背後でメモを取っている義則は、息を呑んで取調べを見守っている。

「仮にも警察の上層部とのやり取りだ。自分たちが派手に動けば逮捕される可能性もあった。それなのに、あんな大胆な行動に出るなんておかしい。あんた、あいつらに一体何を言った?俺たち警察の動きを封じられるような、そんなものを話したんじゃないのか?」
「さあな。警察の動きを封じられる情報?そんなものがあれば大問題だ。」
「その大問題を知っているのは上層部であるあんたなら納得できるだろ。」

 沈黙が流れた。龍は続ける。

「奴らとどこで出会った?いつから関わっている?」
「関わったのは九重が死んだ直後だ。向こうから私に接して来た。“情報が欲しければ、自分たちの存在を公にするな”、と。」
「それに乗ったのか。嘘かもしれないのに。」
「有利な話は乗るべきなんだよ。警視総監のために・・・・」
「違うな。あんたが奴らと通じたのは出世のためのエゴだ。警視総監や警察のことなんてこれっぽっちも考えてない。」

 根岸が立ち上がろうとしたのを義則が制した。根岸は舌打ちをする。

「証拠はこちらが握っている。あんたに逃れる道はない。大人しく話せ。」

 龍は立ち上がり、義則に後を任せて部屋を出た。すると、扉の側でアサヒに出くわした。

「どうしたんだ、こんな所まで。取調べなら後で報告書を書くぞ?」
「・・・・龍って、神道圭介についてどこまで知ってる?」

 突然の質問に、龍は目を瞬かせた。彼は戸惑いながらも、アサヒの質問に答える。

「まあ・・神道家の養子で、副業として除霊師をやってるくらい、だな。ただ江本兄妹と過去に関わりがあるようだし、そこら辺は気になるが・・・何で急にそんなことを?」
「・・・さっき、兄から電話があったの。それで本当か嘘か分からないのだけど、“神道圭介が全ての鍵を握っている”って言うから、気になって。」
「あいつが・・・?」

(何か隠しているとは思っているが、テロリストの件で鍵を握っている?だが時折見せる神妙な表情は、秘密を抱えている証拠だろう。江本との関係も気になるが、本人はよく分かっていない口ぶりだった。
だがこれまでのことを考えるに、江本がテロリストに狙われる理由は小説探偵と呼ばれる以外に何かあるんだろうな。そしてそれが気にならないと言えば、嘘になる。)

「聞いてみるか?警察の権限ではなく、個人的に。」
「そうしたいのは山々だけど、神道さんは江本さんや真衣さんに主な話があるんでしょ?あの2人抜きで話を聞くのは無理よ。それに、話を聞くなら今回の件を江本さんたちに話さなきゃ。」

 龍は額を片手で押さえ、軽い溜息をついた。

「少なくとも、兄貴の無実を証明する証拠が揃うまでは下手に動けない。神道のことは後々、出来るだけ早く考える。」
「そうね。取り敢えず、そうしておきましょう。」
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