小説探偵

夕凪ヨウ

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Case202.盗作者の遺書④

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「ここまでくると見事としか言えないわ。浅村初音・江奈が出して来たレシートはほとんどが偽装。店の名前の表記が違ったり、お金の計算が合わなかったり無茶苦茶よ。」

 アサヒは捜査結果を口にすると、机に資料を投げた。2人は資料を見て驚く。

「しかし逆にこの量の偽レシートを用意していたっていうのか?無いなら無いと言えばいいのに、なぜ疑いが深まるようなことをするんだ?」
「さあね。本人に聞いたら?」
「実はもう聞いた。でもあの2人は、“偽装なんてありえない。嵌められた”って。」
「信じるの?」
「嘘だとは感じなかったな。だがそうなってくると、誰かがレシートをすり替えたってことになる。」
「また問題が増えるってこと?勘弁して欲しいんだけど・・・。」

 2人が愚痴をこぼしていると、龍のスマートフォンが鳴った。撫子からの電話である。

「どうした?」
『今先輩方とアリバイ調査をしていたんですが、初音さんと江奈さんは被害者の死亡推定時刻頃、都内のホテルでパーティーに参加していたようなんです。調べたところ、監視カメラにもはっきりとその様子が写っていました。“朝方まで友人と飲んでいた”、という証言は本当です。』
「分かった。ご苦労だったな。」

 龍は電話を切ると、調査結果を伝えた。玲央はますます首を傾げる。

「怪しいと思った人物が、急にいなくなった・・・?犯人探しが一からに逆戻りだ。何だか仕組まれているような感じがするなあ。」
「まあ、容疑者が減って安心しておけばいいだろ。とりあえず、残りの4人の調査を続行して・・・・」
「あ、2人共ちょっと待って。」
「アサヒ?」

 アサヒは出て行こうとする2人を捕まえ、鑑識課の仕事場へ移動した。彼女は椅子に座ると、現場から押収したパソコンをいじり始めた。

「これ見て。」
「小説のレビュー画面の写真?」
「ええ。被害者のね。レビュー欄のところよく見て。大勢の人が称賛している中で、1人だけ罵倒しているコメントがあるでしょ?あまりに大袈裟な言葉だから調べたら、この人、全てのレビュー欄に同じようなことを書いているのよ。」

 アサヒはさらにキーボードを叩き、一気に画面を映し出した。確かに良識とは言えないコメントが並び、他の者が批判をしていた。

「で、このアカウントを逆に調べてみたら・・・この通り。」
「これは・・・!」
「殺害の動機にしては無茶苦茶だけど、怨恨があったことは明白よ。江本さんに相談してみたらどう?」
                   
         ※

「はい・・はい・・・。なるほど、分かりました。」
『参考になったか?』
「はい。1つお聞きしたいのですが、事件当日、家に残っていたのは市夏さん、梓茶さん、小嶋さんの3人と浅村先生で間違いありませんね?」
『ああ。次女と三女はホテル。家庭教師の花恵さんが自宅にいたことは、同居している弟が証言している。近所の人間の目撃情報もあり、間違いない。』
「・・・分かりました。ありがとうございます。」

 電話を切ると、海里はベッドに体を沈めた。深い溜息をつき、天井を見る。

(決まりだ。この事件の犯人はーーーー・・・。
だが問題は、“あの人”の行動。わざわざあんなことをしたということは、あの家の闇を世間に知らしめようとしていたことになる。それほど浅村家が憎かったのか?いや、違うな。この場合・・・。)

 そんなことを考えていると、扉をノックする音が聞こえた。海里は誰です?、と尋ねる。

「小嶋真紀です。」
「家政婦さんの?どうぞ、お入りください。」
「失礼します。江本・・海里さんですか?」

 海里は頷いた。小嶋は遠慮がちに中に入り、お辞儀をした。

「急にすみません。お会いしたくて。お花・・ご迷惑だったかしら。」
「いえ。後で生けますので、お貸しください。わざわざ気を使って頂いてありがとうございます。」

 海里は花束を受け取り、ベッドに置いた。

「ご用件は何でしょう。小嶋さんとお会いするのはおろか、挨拶を交わしたことすら初めてだと思うのですが。」
「ええ・・・。1つ、お願いをしたくて。」
「お願い?」
「はい。」

 小嶋は頷き、海里を見据えた。彼女はゆっくりと口を開く。

「この事件を、解き明かして頂きたいのです。浅村先生のご無念を晴らすためにも。」
「・・・・もちろんです。浅村先生は私が尊敬する作家さんですし、偉大な先輩です。必ず、全てを明らかにします。」
「ああ・・ありがとうございます。それを聞けて安心致しました。」

 小嶋は涙ぐみながら立ち上がり、深々と頭を下げた。

「どうか、よろしくお願いします。」
「はい。あ、小嶋さん。」
「何でしょう。」
「事件を解決する際、先生のご自宅にあなたも来てください。警察の方もそこにいらっしゃいますから。」
「分かりました。では、失礼します。」

 海里は不思議に思いながらベッドに置いた花束に手を伸ばした。そして、それを掴もうとして手を止めた。

「なるほど・・・。だから、あの人が家政婦でなくてはならなかったんですね。」

 謎が解けた満足感を覚えながら、海里は深い眠りについた。
                    
         ※

 翌朝、朝食を終えた海里の元へ撫子がやって来た。

「おはようございます。何か進展がありましたか?」
「はい。警部方は犯人を特定されました。ただ、自分の犯行をお認めにならないので、江本さんに自分の無実を証明して欲しい・・と。」
「なるほど。ちなみに、そう言って来たのは誰ですか?」
「市夏さんと梓茶さんです。」

 海里は微笑を浮かべた。撫子は詳しいことを知らされていないのか、首を傾げる。

「では市夏さんと梓茶さんに連絡をしてください。“あなた方の罪を解き明かします”・・・と。」
「じゃあ、本当にあの2人が・・・。」
「それを今からご説明しますよ。」

 数分後、海里と連絡が取れたことを龍は玲央に伝えた。

「市夏さん、梓茶さん。本当にご自分の罪をお認めにならないのですね?江本君に助力を仰ぐと?」
「ええ。私たちが夫の命を奪うなどあり得ません。江本さんから証明してくださいますわ。彼は優秀な探偵ですもの。」
「彼は頭の良い小説家ですよ。自分でもそう言っている。」
「謙遜なさっているのでしょう。」

 玲央はやれやれと首を振った。龍と目配せをし、頷き合う。

「江本。こちらの準備は整った。いつでも良いぞ。」
『分かりました。では、スピーカーにして机にでも置いてください。声は聞こえるでしょうから。』

 龍は言われた通りスマートフォンを机に置いた。海里は咳払いをし、堂々とした声でこう言った。

『単刀直入に言います。この事件の犯人は、浅村市夏さん・梓茶さん。あなた方です。』

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