小説探偵

夕凪ヨウ

文字の大きさ
222 / 237

Case214.オークションの罠③

しおりを挟む
「江本。」
「東堂さん、玲央さん!」
「小夜?どうして君がこんなところに?」
「後で話すわ。それよりこれはーーーー」

 4人は遺体を見て顔を顰めた。ロープは首にきつく巻かれており、吉川線があった。絞殺の証拠である。

「一瞬自殺かと思ったけど、吉川線があるなら他殺だね。床に転がっている杖にN.I.のイニシャルが彫ってあるから被害者の物だろう。足を悪くしていたのかな。」
「いいえ、そんなはずありません。先日、真衣とここで開かれた個展で三木・・乃木さんに会いましたが、杖なんて持っていなかった。ご自分の足で、しっかり歩かれていましたよ?」
「数日で足を悪くするなんて普通じゃあり得ないと思うが。あの杖、かなり古いぞ?昔から所有していた物じゃないのか?」
「そうだとしても、なぜ急に?」
「今のところは分からないね。鑑識に回そう。」

 倉庫の入り口付近では、オークションに来た客がざわついていた。身なりの良い女性が、玲央に尋ねる。

「刑事さん。私たち、いつ返してもらえるのかしら?」
「・・・被害者が亡くなってから、30分も経っていません。何者かが外から出入りした痕跡はありませんから、この会場にいる全員が容疑者になります。私たちが良いと言うまで、この建物からは出ないでください。」

 一斉に不満の声が上がった。

「ふざけるな!そんなことできるわけないだろう!午後から会議があるんだ!」
「私だって仕事がある‼︎警察の一存でそんな勝手が許されるのか⁉︎」
「申し訳ありません。しかし、殺人を犯した犯罪者を野放しにはできません。現場の検分が終わり次第、事情聴取を行うので、別室でお待ちください。」
「馬鹿を言え!1人死んだくらいで仕事の邪魔をされるなんてたまったものじゃない!」

 海里はムッとし、言い返そうとした。すると、彼より早く小夜が口を開く。

「政府の重役や財閥の長たる方々が、揃いも揃って見苦しいことを仰らないで。本当に何もしていないのなら、早く帰れることぐらいお分かりになるでしょう?そうでなくとも、亡くなった方の前で命を低く見るなんて、それこそ馬鹿げた話です。」
「何だと⁉︎」
「怒りたいのはこちらの方です。早くお戻りになってはいかが?庶民の遺体なんて見苦しくて、見ていられないんでしょうからね。」

 客たちが去っていくと、小夜は溜息をついた。

「これだから権力者は嫌いなのよ。人の命なんて、そこら辺に落ちている塵くらいにしか思ってない。」
「そのようだね。さて、捜査を始めるけど君はどうする?小夜。」
「乗りかかった船よ。手助けくらいはするわ。何せ、江本さんが暴走しそうだもの。」
「同感。じゃあ、始めようか。」
                    
         ※   

「アリバイや被害者の死亡時刻を調べた結果、残ったのはこの5名の方々ですね。」
「それにしても・・この顔ぶれは何だ?三好財閥会長・三好幸和、赤崎財閥副会長・入間京子、財務大臣秘書官・能坂和久、次期文部大臣候補者・小日向夏菜、元官房長官・君崎信二郎・・・。全員政界・財政界のトップクラスだ。」

 海里も驚いていた。小夜は少し考え、口を開く。

「このオークションは普通じゃないのよ。わざわざ私に招待状が届いた時から気になっていたの。ねえ玲央、少し調べてくれない?何かおかしいわ。年がら年中予定が詰まっているような人間が、普通の絵画オークションに来るなんてあり得ない。」
「ああ、そのことなんだけど。一課の刑事が、気になる話を持って来てさ。」

 玲央は撫子から聞いた話を海里と小夜に話した。2人は驚く。

「あくまで可能性ですが、普通のオークションの裏で、乃木さんの絵が無断で売買されているということですか?」
「そういうこと。もしかしたらこのオークションも・・・かな。小夜の言う通り、国の重役がここまで揃うのは流石に怪しい。」

 その時、海里は何かを思い出したかのようにハッとした。彼は急に踵を返し、5人の容疑者がいる、オークション会場へ向かった。

「すみません。どなたか入札用の紙を見せてください。確かめたいことがあります。」

 その瞬間、5人の顔が強張った。海里は目を細める。

「見せられない理由でもおありですか?」
「他人に見せれるわけがなかろう。」

 そう言ったのは、元官房長官の君崎信二郎だった。海里は分かっています、と言う。

「捜査のためにご協力ください。皆さんの疑いを晴らすためでもあります。」
「そう言って見せるとお思い?貴方は警察でもないでしょう。」
「確かに彼は我々が認めた個人的な協力者にすぎない。しかし、その頭脳は信頼に値します。」

 龍はハッキリとそう言い、赤崎財閥の副社長・入間京子の前に立った。

「彼がダメなら警察として協力を要請します。見せてくれますね?」

 入間はたじろぎ、嫌そうに紙を渡した。海里は龍からそれを受け取ると、紙の側面を見つめる。

「やっぱり・・・!スタッフさん、カッターか何かありませんか?」
「ありますけど、何にお使いに?」
「紙を切ります。小夜さんの入札用の紙を見た時から違和感を覚えていましたが間違いない。これは、薄い紙を2枚重ねている。入札用の紙の裏に、もう1枚別の紙が付けられてるんです。金額を書き込む場所だけ穴が開けられ、結果的に裏の紙に金額を書き込んでいることになる。」

 海里はカッターナイフを受け取り、紙の側面を切り裂いた。

「これを見てください。」

 海里が見せた裏の紙には乃木家良が描いた風景画の写真がいくつもあった。彼の言葉通り、金額は家良の絵に付けられている。

「別の絵画オークションをやっているふりをして、乃木さんの絵画を売買していた証拠です。小夜さんの紙も貸して頂けませんか?」

 同じように切り裂くと、裏の紙が現れた。

「やはりそうですか。あなたたちが小夜さんに招待状を送ったのは、彼女にも罪を着せるためだったのですね。もし気に入った絵画があれば、彼女は入札する。そして全てが終わった後に種明かしをして、共犯だと脅して天宮家の財産を奪うつもりだったのでしょう?財閥や政界のトップの方々が、随分と汚いやり方をなさいますね。」

 海里は淡々と述べた。5人は言葉を詰まらせる。

「スタッフは共犯じゃないわね。このオークションの主催者が仕組んだのかしら。」
「恐らく。皆さんならどなたかご存知では?」
「生憎、知らないよ。」
「知らない?あなたたちは主催者の正体も分からないオークションに参加されたんですか?自分たちの金や地位を狙っているなどはお考えにならなかったと?」
「三木良家の絵は、手に入れる価値があるのさ。天才と言われた、男の絵をな。」

 三好幸和は眼鏡を拭きながらそう言った。海里は入間と小夜の入札用の紙に書かれた絵画を見つめ、首を傾げる。

「よく分かりませんね。確かに素晴らしい絵ですが、なぜか感動できない。」
「絵画に疎いだけでは?」

 能坂和久が鼻を鳴らした。海里は少し考え、絵を見つめる。

「江本さんに同意するわ。私も絵画に疎いけど、素晴らしい絵に感動くらいはするもの。そこにある風景画は、特別だと思えない。写真だからとかじゃなくて・・・そう、画家の思いが感じられないのよ。素晴らしい絵を描きたいっていう、画家にあるはずの思いが。」
「そもそも変じゃないか?線も歪で、塗り方も雑だ。そういう画風だと言われれば違うが。」
「でも他の絵画は綺麗だよ。その紙に書いてある絵だけが、おかしい。」
「これは・・・調べる必要がありそうですね。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

背徳のミラールージュ(母と子 それぞれが年の差恋愛にのめり込んでいく鏡写し)

MisakiNonagase
恋愛
24歳の市役所職員・中村洋平には、自慢の恋人がいた。2歳年上の小学校教師、夏海。誰もが羨む「正解」の幸せの中にいたはずだった。 しかし、50歳になる母・美鈴が21歳の青年・翔吾と恋に落ちたとき、歯車は狂い出す。 ​母の恋路を「不潔だ」と蔑んでいた洋平だったが、気づけば自分もまた、抗えない引力に引き寄せられていた。  その相手は、母の恋人の母親であり、二回りも年上の柳田悦子。 ​純愛か、背徳か。4年付き合った恋人を捨ててまで、なぜ僕は「彼女」を求めてしまうのか。 交差する二組の親子。歪な四角関係の果てに、彼らが見つける愛の形とは――。

日本国破産?そんなことはない、財政拡大・ICTを駆使して再生プロジェクトだ!

黄昏人
SF
日本国政府の借金は1010兆円あり、GDP550兆円の約2倍でやばいと言いますね。でも所有している金融性の資産(固定資産控除)を除くとその借金は560兆円です。また、日本国の子会社である日銀が460兆円の国債、すなわち日本政府の借金を背負っています。まあ、言ってみれば奥さんに借りているようなもので、その国債の利子は結局日本政府に返ってきます。え、それなら別にやばくないじゃん、と思うでしょう。 でもやっぱりやばいのよね。政府の予算(2018年度)では98兆円の予算のうち収入は64兆円たらずで、34兆円がまた借金なのです。だから、今はあまりやばくないけど、このままいけばドボンになると思うな。 この物語は、このドツボに嵌まったような日本の財政をどうするか、中身のない頭で考えてみたものです。だから、異世界も超能力も出てきませんし、超天才も出現しません。でも、大変にボジティブなものにするつもりですので、楽しんで頂ければ幸いです。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

コーヒーとCEOの秘密🔥他

シナモン
恋愛
 § コーヒーとCEOの秘密 (完) 『今日もコーヒー飲んでなーい!』意思疎通の取れない新会長に秘書室は大わらわ。補佐役の赤石は真っ向勝負、負けてない。さっさと逃げ出すべく策を練る。氷のように冷たい仮面の下の、彼の本心とは。氷のCEOと熱い秘書。ラブロマンスになり損ねた話。  § 瀬尾くんの秘密 (完) 瀬尾くんはイケメンで癒しの存在とも言われている。しかし、彼にはある秘密があった。  § 緑川、人類の運命を背負う (完) 会長の友人緑川純大は、自称発明家。こっそり完成したマシンで早速タイムトラベルを試みる。 理論上は1日で戻ってくるはずだったが…。 会長シリーズ、あまり出番のない方々の話です。出番がないけどどこかにつながってたりします。それぞれ主人公、視点が変わります。順不同でお読みいただいても大丈夫です。 タイトル変更しました

処理中です...