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犬は罵倒を浴びながら淫らな歩行に苛まれる

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床に彫られた格子状の溝に沿って、箱型の機械が休み無く進み続けている。溝の十字路で不規則に進行方向を選び、溝の内側に存在する機構から絶えず電力を送り込まれている箱は、自身を持ち上げられ溝から離されるまで半永久的に駆動する存在だ。
何があろうとも溝の道が続き、電力が途切れない限りは箱は動きをやめない。箱の上部に取り付けられた金具に結ばれている鎖を引かれようとも、その力が箱を溝から遠ざけるに至らない物であれば箱は変わらずに進み続ける。無様な拘束と恥辱を施された男が棒状の黒い枷を噛まされた口で許しを請う唸りを飛ばしても、箱は当然お構い無しに己の動きを繰り返し、自由を奪われ望まぬ快楽を与えられている男に強制的な歩行をもたらし続けるのだ。

「うぐっ……んもっ、むぶぅっ……!」

言葉を封じられた口から苦しげな呻きと共に飲み込めない唾液を零しながら、男は黒い首輪の前部から伸びた鎖を箱に引っ張られる形で歩かされ続ける。その状況から逃れようと男は何度も肉体をよじらせ拘束からの脱出を試みたが、何一つとして変化を起こせはしなかった。
首輪の鎖を引く箱に抗おうと頑張っても、男のその頑張りは箱の停止を手繰り寄せられなかった。背中で密着させられた左右の肘から手首までの部分をきつく締め上げて一括りにする黒革製の器具を振り払おうと足掻いても、男の足掻きはその器具と首輪の後部を結わえる鎖を嘲笑うように鳴らすだけに終わってしまった。
もはや何をしようとも、男は自力でこの苦悶から抜け出すことは叶わない。頭部に取り付けられた茶色い犬の耳の飾りと、左右の手に嵌められた指の使用を禁じる鍵の付いた茶色い犬の手袋と、膝から下を覆う犬の足を模した茶色いブーツを与えられた裸体をなりふり構わずにもがかせても、男は恥辱からは決して逃れられない。
男はもう、他の箇所に与えられた犬の飾りと同じ毛に覆われた茶色の器具に包み込まれた男根に絶え間無い振動を注がれながら、足を動かし続けるしか無い。尻穴にねじ込まれた極太のアナルバイブが行う乱暴な首振りに腸壁を容赦無く掻き毟られ、バイブと一体化している茶色い犬の尻尾を情けなく揺らめかせながら、男は惨め極まりない絶頂しつつの歩行姿を残忍な男達に観察され、愉悦に満ちた罵倒をあらゆる方向から浴びせかけられるしか無いのだ。

「お巡りさん、足がガクガク震えてるよ? 俺達を絶対に許さない、捕まえるって言ってたのにもう限界なのかな?」
「ほらワンちゃん、もっとしっかり足動かしなさい。一生懸命にお散歩して、みっともない姿晒してご主人様達を愉しませるんだよ」
「ぼろぼろ泣いて、うーうー鳴きながら涎垂らして、身体中汗とエロ汁で汚しやがってよ。とても刑事とは思えない格好だなぁ、犬!」
「むぅ、うぅ! ふー……んぶぅぅ……っ!!」

部屋の壁に背中を預ける形で立ち、歩行の疲労と快楽の憔悴で限界以上に追い詰められている自分を取り囲んで観察しそれぞれ方向性の違う残忍な言葉をぶつけてくる悪人達を潤んだ瞳で見つめながら、刑事の男は聞き流されるだけとすでに分かりきっている懇願の唸りを諦め悪く飛ばしつつ、自分の崩壊の過程を堪能する悪達の前で箱の力に屈して一歩また一歩とふわふわの毛に覆われた足を酷使させられていくのだった。
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