淫薬は外道と偽物を獣に変える

五月雨時雨

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淫薬は外道と偽物を獣に変える

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柔和な顔立ちと穏やかな人格を駆使して自分は無害な存在であると周囲を騙し、欲望のままに異性を毒牙に掛ける非道な青年がいた。甘い言葉を囁き、悟られぬよう欲情を引き起こさせる薬品を用いて相手を淫らな気分にさせて身体を貪り、飽きたら白々しく心のすれ違いを演出して自然に関係を断ち切る。その状況では捨てられた側である女性は全く青年の非道さに気付けず、薬品を摂取した状態で行われる性行為の虜へと知らぬ間にされてしまった女性は被害者であるというのに青年と肌を重ねたことを何時までも忘れられないと自分を責めてしまう。
仮に青年の本性に気付いても分厚く被せられた穏やかな好青年の仮面の前では何を言っても信じては貰えず、青年は恋人から言いがかりを付けられた可哀想な人物と周囲から認識されてしまう。
そうして何人、何十人もの女性を気まぐれで不幸にしてきた青年は今日も、新しく手に入れた恋人を自室に招き、グラスに注いだ飲み物に淫薬を混ぜて手籠めにしようとしていた。目の前に出されたグラスを空にした恋人は、外道な青年の前で徐々に息を乱し、顔を赤く火照らせていく。淫薬が大分効いてきたことを確信した青年は口元を醜悪に歪め、気遣うふりをしながら体にさり気なく触れようと距離を詰めた。
この後はいつも通りに言葉と愛撫でじっくりと抵抗と気力を奪い、薬で発情しきった肉体を堪能するだけ。自分勝手なことを考えながら、獲物として自宅に招いた恋人の右横へとぴったり寄り添った青年。そんな青年に、予想外の衝撃が走った。右横に陣取った直後、青年は突然床に敷かれた白の絨毯へと勢いよく押し倒され、仰向けに寝転がらされたのだ。

「あぐぅっ!?」

絨毯ごしと言えども後頭部を強打した衝撃は大きく、青年は痛みに顔をしかめながら自分を押し倒した相手を怒りに任せて逆に押し倒そうとした。
いきなり何をするんだ。誘われてあっさりと男の家に上がる尻軽のくせに舐めた真似しやがって。尊大で歪んだプライドを糧にして、青年は仰向けの体を起こそうとする。しかし、青年は起き上がれない。後頭部を強く打ち付けたことで力が上手く入らないからではない。左右の手首を掴まれ、絨毯へと押し付けられた青年の腕は押し付ける力に勝てず、絨毯から離れられないのだ。
幾ら体重を掛けられているとはいえ、腹部に腰掛けられているとはいえ、女相手に力負けするなんてあり得ない。組み伏せられている状況に困惑し、青年はじたばたと必死に暴れる。その暴れている青年に向かって、青年を力で抑えている恋人は乱れた呼吸混じりに話しかけた。
ついさっきまで作っていた声音を捨て、普段自分が使っている低い声音で、話しかけた。

「お前は今まで……こうやって女性達を辱めていたんだな……! 姉貴が俺が言ったお前の噂を信じなかったら、俺が代わりにここに来なかったら……お前は、姉貴を……っ!!」
「っ……!?」

目の前にいる人物は、自分がしてきた行為を把握している。その上、性別も違う。目の前にいるのは、男。それも青年の正体を知り様々な怒りの感情を抱いている、今日招いたはずの恋人の弟だ。
それに気付いた青年は、欠片も想像していなかった展開に焦りを抱き、先程よりも激しく暴れた。だが、どんなに頑張っても青年は勝てない。元々の力が大きく違う上に位置的な有利も取られている青年は手の自由を取り戻すことはおろか左右の手首を交差させ一まとめにして右手一つで頭上に固定させる動きにさえ抗えず、自分の腕の動きを片手で封じ腹に腰掛けて逃走を禁じている相手の自由になった左手が自分のズボンの右ポケットから容器を取り出すのもとめられない。
容器を取り出した左手が半透明の本体を中指から小指で握りつつ親指と人差し指だけで器用に薄桃色の蓋を外すのを見ても、青年は怯えた表情を浮かべながら聞き入れられない制止の言葉を弱々しく放つしかないのだ。

「お、おい……やめろ、冗談だろ? やめ……」
「どの口が言ってんだ? 散々女性達にこれを飲ませて好き勝手をしておいて……随分と都合の良いお願いだな! えぇ!?」
「あぅっ!? んっ、んぐぅぅぅっ!!」

怒りによる興奮と、淫薬がもたらした興奮。二種類の興奮で昂ぶっている者の左手は蓋を外したボトルを青年の口へと突っ込むと、中に入っていた液体の媚薬を飲み干す以外の選択肢を青年から奪うために手の平で顎を閉じさせつつ顔を横に振れないよう強く掴んでしまった。

「ごぶっ、ぼ、ごぉっ! おぼぉぉっ……!」
「俺に盛ったのよりも遥かに多い量の媚薬を全部飲むか、そのまま溺れるか……好きな方を選んで良いぜ?」
「あぶっ、ぼばぁぁっ!」

媚薬の効果は他でもない青年自身がよく知っている。飲み物に少量混ぜるだけで十分過ぎる程の効果を生む媚薬をほぼ容器一つ分摂取したらどうなるかなんて深く考えずとも分かる。故に、絶対に飲み干したくなどない。
けれど、飲まなければ青年は媚薬に呼吸を塞がれ溺れてしまう。顔を掴まれ横に向けられない以上口の端から媚薬を逃がすことは許されず、媚薬を口の外に吐き出そうにもすでに限界に近い呼吸では媚薬をぶくぶくと泡立てることしか出来ない。
地獄のような発情と、窒息。二つを秤に掛けられたら前者しか選べず、青年は絶望を胸に募らせながら呼吸を塞いでいる大量の液体媚薬を自身の体内へと目に涙を浮かべながら収めていく。

「んぐっ、んくっ……」
「飲んだな? じゃあ、薬が効いてきたら、俺が発情したお前の身体を気持ち良くしてやるよ。お前が飲ませた薬のせいで俺も抑えが効かないからよ……解消がてら俺がお前を弄んで、二度と女性達に手を出せないようにしてやる」
「うぐ、んぅぅ……っ!」

媚薬を飲ませ、肉体を貪る。それをしたら同じ立場に堕ちてしまうという事実に冷静さを失った状態では全く気付けないまま、青年に馬乗りになった存在は媚薬に勃起させられた自身の男根を青年の腹部へと無意識に擦り付ける。無理矢理に大量の媚薬を飲まされた青年は早くも訪れた脳内を掻き回すような苛烈な欲情の波に目を剥きながら、絨毯に押さえ付けられた肉体を苦しげに、悩ましげにくねくねとよじらせていた。
非道な行いを思いのままに行えるようにと青年が借りた防音製の高いマンションの一室には、媚薬で感度を異常なまでに高められ理性を無くした青年が発する獣のような甘い絶叫と、その惨めな絶叫を聞いて興奮を加速させながら腰を振るわずかに理性を保った獣が立てる淫猥な水音が、体力が尽き二人が失神するまで響き渡り続けていた。
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