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6】怖い夢を見た

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6】怖い夢を見た

 気づけば、今日も訓練場にいた。
訓練が終わったあとなのか、賑やかな声も無ければ他の皆の姿もない。日が暮れかかりのオレンジ色の空の下で、俺とアラン様だけが広い訓練場にいた。

『アラン様!』

『トーマ、練習終わりだというのに元気だな』

『勿論です! 騎士団員として、身体は資本ですからね』

『心強いな。トーマ、お前の成長を楽しみにしているよ』

フワリと笑ったアラン様と、鼻孔に感じた良い匂い。ドキドキと脈打つ心臓に、やっぱ好きだなぁと思いながら顔がニヤけた。
駄目だ! アラン様の前では恰好良くいたいと、またバレないように尻を抓ってみたが痛くない。最初は、ここで違和感があった。だが、この状況はとてもレアだと気にすることなく。アラン様との貴重な二人きりの時間を堪能することを優先した。
一体何を話そう? と緊張しつつ、口にしたのは初恋の始まり。

『俺、アラン様を見かけたのは凱旋の時だったんですよ』

長い髪が、昔はずっと短かく。今でこそ国民が男だと知っているから良いが、以前の少女と間違えそうになるくらいの年頃の姿。俺の前を横切った姿はとても綺麗で、ドキドキと鳴った心臓。それが、今でもこうして鳴り続けている。凱旋を見つめる最中、両親に「女の子でも騎士団に入れるのか?」と問えば、「あの子は男の子だ」と言われ。あの時は笑ったと、実家に顔を出すたびに弄られている。

『それは……私も随分と年を取ったなぁ』

あの凱旋は、何年前だっただろうと数えアラン様がしみじみとした様子で言った。

『そんなことはないです!アラン様は全然若いままですよ!?』

アラン様の様子に、思わず「しまった!」と焦る。

『すみません、俺はそんなつもりは無くって! あの、本当にずっと憧れてるんですと言いたかっただけで……』

しどろもどろに焦るのは俺だけ。俺の様子にアラン様がクスリと笑った。

『ふふっ。トーマ、私が悪かった。揶揄い過ぎたな』

別に年のことなんか気にしていないと、アラン様が笑う。その顔が綺麗なのに可愛くて、またドキドキとする俺。不思議と今なら確信も無いのに何故か自信があって、思わずアラン様の手を握った。

(今なら、好きだと言える気がする)

ドッドッドッドッ。

『トーマ?』

(あ、前言撤回。やっぱ無理かも)

どうしたんだ? と首を傾げる仕草すら可愛い。ああ、本当にアラン様が好きだ。俺よりも細い腕に、細い手首。男としての厚みがある身体ではあるが、それでも十分に薄い身体。曲線を描く腰から下へ続く尻の曲線だけは以前よりも丸みを帯びていることを俺は知っている。

(柔らかそうな尻……)

煩い心臓の音を聞きながら、ゴクリと生唾を飲んだ。

(馬鹿! 違うだろ!)

ブンブンと邪念を払う様に、顔を左右に勢いよく振る。

(アラン様、好きです)

心の中で、まずは練習。そのまま目の前にいるアラン様を見つめながら深呼吸を一回。スーハー……と深く酸素を送り。言うぞ! と意を決するよりも前に口を開いたのは、アラン様だった。

『そうだ、トーマ。紹介したい人がいるんだ』

『紹介?』

『ああ、私の大切な人だ』
『え? 大切って』

待ってくれ、何だか雲行きが怪しい。待ってくれ。急にアラン様との距離が遠くなる。握っていたはずの手は解かれ、アラン様がどこかへ走り出している。

『トーマ。私の恋人を紹介しよう』

『こ、恋人゛!?』

聞き間違えじゃない。いや、俺がアラン様の言葉を聞き間違えるはずがない。アラン様は、間違えなく「恋人」だと言った。

『いや、そんなの』



「そんなの紹介しないで下さい゛!!!!!!」


いやだぁぁあああああ!!!!! と叫んだ時には、ガバッ! と上半身がベッドから起き上がり、手は毛布をきつく握りしめていた。クルリと周囲を見渡しても、先ほどまでいた訓練場ではなく、一人暮らしをしている自分の家。心臓だけが、ときめきとは違う意味でドキドキと速くなっている。

「はぁっ……ゆ……夢ぁ……良かった……」

あんな怖い夢見たくないと思った寝起きだった。


 後日。夢の通りではないがアラン様に近づく輩が現れることを、当然のことながらこの時の俺は知る由もない。

********
久しぶりに投稿しました。次回は未定です><
もしかしたらまた別の連載をするかもしれません
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