愛のかけら

芋枝 紅音

文字の大きさ
1 / 1
プロローグ

ゴミ山から

しおりを挟む
 「この、バッカヤローが!てめぇ何度いったらわかるんじゃい!!」

 今日も日本唯一のゴミ処理場には罵声が響き渡る。

 「まぁまぁ、八潮さん、落ち着いてください。こいつは先週入ったばっかやし、そもそも高校生のアルバイトです。そんなに怒らんでも
...」
 頭のてっぺんがつるりんと光る大沢チーフが必死になってなだめる。

 「うっせい!くそチーフ。おめぇに何がわかるって言うんだい。こいつはたしかにアルバイトのガキンチョ坊主や。せやけど金をあげてんだよ!?1人の従業員や!せやのにここでくせぇだのなんだの言いやがって、」

 八潮の怒りは収まるどころかヒートアップしていた。
 
 「坊主って言うんじゃねーよクソジジイ!ちょっとくせぇっていっただけじゃねーかよ、だいたいここのゴミが多すぎんのがわりぃんだよ。」

 金髪でバカでかいピアスをした青年も負けじとどなる。
 
 「じゃあやめろや!さっさとやめてママの足でもかじりながらいきちょれ。」

 「うっせぇんだよ。さっさとくたばれ。老いぼれやろう!」

チーフは今にもなきそうになりながら必死の抵抗を続ける。

「おい」

低くてでかい声が一気に二人を沈めた。
3人ともピタッとときがとまっまようにかたまる。

「おまえら仕事はおわったんか?」

 チーフは申し訳なさそうに頭をかく。
「ぶ、部長。すみません。実はまださっぱりおわっとないんです。」

ッチと、部長は舌をならした。そして二人を睨み付けた。
 二人は気まずそうに下を向き地面を踏み鳴らした。
  
 「てめぇら、ほんとに邪魔なクズだな。今度からは第26班にいけ。」

 二人は突然の報告にとびたしそうなほど目を広げ部長を見上げた。
 
 「いゃぁ、そりゃねぇよ部長。俺たち頑張ってきた第13版の仲間じゃねぇか。」

 「ふざけんなよ!第26班ってくそめんどくさくて、くそ雑用多いってひょうばんじゃねぇか!そんなとこごめんだ。」

 ポケットのタバコを取り出して部長は静かに口を開いた。

 「俺にくちごたえしてどうやって生きていくんか?この今の日本で。それだけの金、家、居場所が、おめぇらにあんのか?あぁ?」

悲しそうな顔でチーフはぎゅっと帽子を深くかぶった。

 眩しすぎるほどの青い空に雲だけが飛んでいた。





 ベルをならすと事務所から若い女性のチーフがヒョコッと出てきた。
 「あなたたちが八潮さんと三条くんね!私は第26班チーフの天津です!この仕事は6年目!年は27!よろしく!」

 高すぎるテンションは暑い事務所で二人をやけにイラつかせた。

 「自己しようかいはいいからさはやく説明してくんない?し、ご、と、」

 三条の意地悪い言い方に八潮は眉間にシワをよせた。
 
 「おっけーおっけー!じゃあ説明するね!この紙を見て!」

 その紙には第26班の仕事の目標と内容がかかれていた。


 二人はそれをじっと見つめた。
 
「おい。」
「なぁに?三条くん?」
「探し物の事をダイヤってゆーの?」
「そうよ!」

天津チーフは古ぼけたポストから一枚の紙切れを取り出した。
「今日は早速依頼人が来るの!二人も見学して!それで内容もよくわかるでしょ!」

三条はだるそーにうなづき八潮は冷たいお茶をのみほした。


 しばらくすると20代くらいの若い女性が事務所にやって来た。

「こんにちは。ここで良かったかしら?」
「えっと、木村さんですか?」

彼女は小さく首をたてに動かした。さらっと揺れる髪からはここじゃ嗅げないような甘い臭いを漂わせていた。


 「えっと探し物は指輪ですね!どのような指輪でしょうか?」

少し遠慮ぎみにしゃべりはじめる。(おそらく、いかついおっさんと金髪ピアスがいたせいであろう...)

「本当にきれいな...蝶々のついた指輪です。色はちょっぴりピンクで内側に愛結とかいてあります。」

「え!?結婚指輪おとしたの?!」

思わず三条は叫んでしまった。慌てて口を押さえる。しかし天津チーフは怒って、こら!とげんこつを飛ばした。

その様子を笑う八潮に三条はキレ腹パンした。

彼女はその様子を引きぎみにたちあがり、床に土下座した。


そのしぐさにあれほどうるさかった事務所にわずかな静寂が訪れた。

「私のせいですみません。そうです。結婚指輪をおとしてしまったんです。でも彼、優しい人だから気にすんなって...どうかお願いです!あの指輪を見つけてください!じゃないと私...」

「いいんですよ。木村さん!もう土下座をやめてください!謝るのは私たちです!私たちは依頼人のために探し物をするのが仕事です。任せてくださいね。」


三条も少し、頭を下げた。

 八潮はじっと木村を見つめた。静かに礼を言う彼女だがその目はなにかもっと大きいものを抱えているかのように見えた。

一日目は結局見つからず明日に延期となった。


うなだれるように暑い太陽が沈むと、ゴミ処理場に夜がくる。
 
敷地の一角。ほんとに小さなスペースにアパートがあった。そこに三条と八潮も住んでいた。

敷地のなかなのでやはり少しは匂う。しかしお金は安くすみご飯も出るのでなんとなくみんな住み着いていた。(女性は匂いが気になるため全員自宅にすんでいる。)


「あぁー、めっちゃいいゆだーぁー」
共同風呂場の端じっこで三条は1人、足を伸ばす。

体からは何とも言えない匂いが漂い洗っても洗っても落ちない。
湯船に頭まで浸かる。後悔と息苦しさが胸をおおった。

やっぱこんな臭いとこやめときゃよかったなー。   
そう、毎日考えてしまう。直したい癖のひとつである。



「おい!」


「うわぁぁぁ!ぁ!」


「坊主!生きてるんか?!」


八潮が入ってきた。共同だからやむを得ない。
「ビックリすんだろじじい!」

八潮が湯船に入るとたくさんの水が溢れ落ち辺りを湿らせていた。 

「なぁ、」

八潮は三条の横に移動して話しかけた。

「なんだよ?」
「さっきの女性、なんか隠してるよな」
「なぜに?」

八潮は髭をポリポリかく。
「なんとなくなんだけどさ、なんか分かる。」
「意味わかんねえよ。」
「はぁ?!ガキの癖に年上に偉そうな口きくんじゃねぇ!」 


三条はグッと足と拳に力を込めた。
「でもな、」

突然の八潮の珍しく弱気な顔に力が逃げる。

「あの人、訳有りな気がすんの。手、かしてやりてぇなぁって思っちまった。」

ザァァァァァ
八潮は湯船から上がった。
彼はそういう男だった。いつもはうざくて、めんどくさくて、やけに意地悪いやつなのにいざというときは絶対にほおっておかない。
一週間しか一緒にいない三条でも分かった。


小さなまどからはそっと月光が差し込んでいた。
しかしその形はぼやけてはっきりとしない。


三条はそっと湯船から上がった。


「あのクソジジい、手伝ってやるか。」



ボソッと月に向かって呟きながら。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...