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米と麦

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8.遠足 レシーヌ湖(Ⅰ)

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 校門前の花壇に咲いた花々を朝露が濡らしていた。明け方まで降っていた雨も、どうやら今は落ち着いているようだ。どんよりとした雲が立ち込める様子は到底遠足日和とは言えないが、それでもこのわずかな天気の回復は、生徒たちを大いに喜ばせた。正門には二年生が集まり、がやがやと騒いでいる。皆遠足を前に興奮を抑えきれないようだった。
 今日の目的地はここから北東にあるレシーヌ湖と、そのすぐ真下のサントミモザという小さな城下町である。城下町といっても今残っているのは城跡だけであり、そこを含めて街全体がちょっとした観光地となっている。

「はい皆さん、静粛に。今から各クラス分かれて馬車で出発します。それぞれ自分の馬車の前に並んでください。」

 貴族学校なので、徒歩で目的地に向かうようなことはしない。学校側であらかじめ手配している大型馬車に乗って出発するのだ。クラリスの学年は全部で三クラスある。馬車は一クラス一台割り当てられており、計三台の馬車が正門前に並んでいた。クラリスは一組なので、一番左端の馬車に向かう。途中、ハワードが熱心に馬車の車輪を観察しているのが目に留まった。

「随分熱心にみてるのね。」
「ああ、クラリスか。いや、実はこれよく見たら魔法が付与されているみたいなんだ。……風魔法かな?馬車馬の負担がより軽くなるように、進行方向に追い風を起こす術が施されている。実に興味深いな。もっと詳しく見せて欲しいものだ。」

 ハワードが感心したように頷く。彼が魔法具に興味があるとは知らなかった。機械やからくりも好きなのだろうか、今度はブレーキやギアの方まで見ようとしている。あまり邪魔をしてはいけないと思い、クラリスはその場を後にした。

 少し遅れて馬車の列に並ぶ。殆どのクラスメイトは既に乗り込んだらしく、クラリスが乗車するのにも、さほど時間はかからなかった。馬車は基本二人掛けになっている。どこに座ろうかと悩んでいると、ちょうどカミラの隣が空いていた。普段から近づき難い印象の人間はこういう時に浮いてしまって仕方がない。自分も同族なのだが。
 失礼、と声をかけ隣に座る。カミラは少し驚いたような顔をしたが、先日の約束を思い出したのか、特に何も言うことはなかった。
 それから間もなくして馬車が発進した。生徒達は皆仲間内で話に花を咲かせており、静かなのはクラリスやカミラのような、少し浮いた生徒が数名だけだ。なんとも居心地が悪い。こういうイベントの際、去年はどうしていたかと記憶を辿ると、いつも読書でやり過ごしていたのを思い出した。

(改めて私って、なかなかカワイソウな子ね。)

 クラリスは思わず苦笑した。当時は別段気に留めていなかったが、一花の記憶を持ち合わせた今は違う。彼女も昔から友達が多いわけではなかったが、修学旅行などの行事の際に、一緒に回る友達はいた。クラスメイトのみんなともそこそこ話せる仲だったし、どちらかというと今のクラリスのような浮いた生徒を遠巻きに見ていた側だった。

(こんな記憶を思い出したからには、もう一人で本なんて読む気が起きないじゃない……ていうか、今日一緒に過ごす約束したカミラ様が隣にいるのに終始無言って、本当に大丈夫なのかしら!?)

 今までは約束を取り付けた事で一安心していたが、まさか丸一日こんな調子なのだろうか。そう考えると思わずゾッとしてしまう。一日中無言で過ごす二人組なんて、傍から見てもとても不気味だろう。いや、

(この場合、「遠足で過ごす相手がいないからとりあえずくっついてみた余り物の二人」という可哀想なレッテルを周りから貼られてしまうわ……!!)

 なんと不名誉かつ屈辱的な烙印らくいんだろうか。かつてのクラリスならまだしも、一花の記憶がある今はそんな状況死んでも願い下げである。今もう既に「一人で浮いている」レッテルを貼られているというのに、そこからさらに「無理した余り物」が追加されるのだ。和をもって尊しをうたう元日本人の血がそんな扱いを甘んじて受け入れられるわけがなかった。
 なんとかしてこの状況を打開せねば。……私だってダテに社会人をやってきたわけじゃないのよ、苦手な人間だって上手く付き合えてこその大人。十とそこらの小娘との格の違い、見せてやるわ!
 一花として社会に揉まれていた頃を思い出し、クラリスは自分を奮い立たす。車窓を眺めるカミラの方を横目でキッと睨んだ。

「カミラ様の得意属性は、火だったかしら?」

 カミラが怪訝そうにこちらを向いた。そんな事は前から知っているだろう、とでも言いたげな顔だ。確かに魔法学ではいつもライバルとして張り合ってきた仲なので、彼女の得意魔法や特徴などは嫌という程知っているのだが。とりあえず食いつきそうな話題を、と考えてみたもの、いつも一人だったせいか、あまりに引出しが少ない。かろうじて絞り出したのがこれだ。

「ええ、おそらくあなたもご存じでしょうけど、わたくしの得意属性は火ですわね。あとは一応、土と雷も使えますわ。……五属性操者の貴方からしたらちっぽけなものですけれど。」
「私が優れているのは魔法だけですわ。教養の授業はカミラ様に負けますし、武術に至ってはからきしですもの。なんでもできるカミラ様が羨ましくてよ。ところで、火の魔法だと練習場所に困らなくて?私いつもどこで練習しようか迷ってしまいますの。うっかりどこかに燃え移ってしまったら大惨事でしょう?みんなどうしているのかなと思って聞いてみたかったんですの。」

 カミラの嫌味を上手いことかわし、そのまま話を進める。今までの人見知りクラリスじゃあできなかった業だ。いつもと違う様子にカミラも少し驚いたようだが、話の先が気になったようですぐ話を続けた。
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