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人間
十二日目
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十時に学校近くの歩道橋集合と言われて、十分前に着くように出たはずなのに、十五分前に着いてしまった。
そこには既に人影があった。
「おーっす。早いねぇ、まだ十五分前だけど」
俺はその人影にうかつに近づいたことを後悔した。
「今日は永峯さんも一緒なんですね」
俺はなるべく平常心を保ったまま、そいつに話しかける。自分がどんな顔で話しているのか分からなかった。
「あははは、『永峯さん』って、固すぎるだろ」
そう言ってそいつは、腹をよじりながら笑った。
いつも通り、不気味だった。
「なあ、お前は頭良いから勘づいてっかもしれねぇけど、お前のスマホに桜の連絡先入れたの、オレだから。安心して」
やっぱりか、と思った。
どうやったかは知らないが、おそらく学校でこっそりと俺のスマホを抜き取って、連絡先を追加したのだろう。こういうことがあるから、面倒でも画面ロックはするべきなのだろうと思った。
「ってかおめぇ、スマホロックしてねぇんだもんな! スルって開いたからビックリしちまったよ!」
「永峯さんって、頭良いことを隠そうとしてるんですか?」
気づいた時にはもう、口が勝手に動いていた。言った途端に、自分が何を言ったのかほとんど忘れてしまっていた。
俺は怖かったのかもしれない。知らない、知れない、という状態を解消するために、体が反応せざるを得なかったのかもしれない。
そいつは驚いたように口を半開きにして固まって、少し経つと、
「ストレートに聞くかぁ? 普通」
と、いつもの調子に戻った。
「まあ、そうだね、隠してるっちゃあ隠してるのかもなぁ」
そいつは、やけにあっさりと肯定した。
「ただ、自分で隠せるんだったら、もっと上手く隠したいけどね」
俺はそいつが言っている意味が、やっぱりよく分からなかった。俺がもっと頭良くなれば、もしかしたら分かるのかもしれないなと思った。
そいつは少し気遣うような顔をして、「あーこっちの話ね」と言った。それから、思い出したかのようにハッとした後、少し偉そうな態度でこっちを指さした。
「遊ぶ前なのにそんな辛気臭ぇ顔すんじゃねぇよ! おめぇには、オレからとっておきの宿題を出してやっからよ。内容は単純だ、オレのスマホのパスワードを当てるだけ。もし当てたら、言うことなんでも聞いてやるよ」
「…………え?」
俺は突然すぎて、あまり話を飲み込めていなかった。
「制限時間は…………三日かな! 来週の水曜の朝に答え合わせ」
それよりも、こいつが言うことが全て怪しく思えた。
小学校のときに、「なんでも言うことを聞く」と言って、実際になんでも言うことを聞いてくれる人はいなかった。
「あー、お前、オレのこと疑ってんだろ! 約束破るんじゃねぇかって」
心の中を見透かすように、そいつはズバリ俺が思っていたことを当てた。
「安心しろ。オレは約束は破らねぇし、なんならヒントを与えてやってもいい。ただし、お前がそれ相応のもんを賭けられるならな」
なるほど、一応考えられてはいるのだなと俺は関心した。
当てるためにはヒントが必要だが、ヒントを得るためには、こちらもそっちの土俵に乗って勝負を受けなければならない、ということなのだろう。
「さあ、どうする。ちなみに、パスワードは四桁な」
四桁。0000から9999まであるから、確率は10000分の1。当てずっぽうじゃ厳しいだろう。
「わかった。負けたら俺も、なんでも言うこと聞く」
「そう来なくっちゃな! よっしゃー!」
そいつがあまりにも乗り気だったので、俺は堪らず承諾した。考え無しに、好奇心に任せた返事だったのだろう。
「じゃあお望み通り、ヒント教えてやる」
この迂闊な返事のせいで、俺の日常がもっと壊されるのかもと、心の中で少しだけ心配になった。
「ヒントは、『5、4、9』。さあ、陰キャには解けっかなぁ?」
杞憂だと思い込んで、その心配事をどこかに放り投げた。
ただ、当てるだけ。
四つの数字を当てれば、何も問題は無いのだから。
そこには既に人影があった。
「おーっす。早いねぇ、まだ十五分前だけど」
俺はその人影にうかつに近づいたことを後悔した。
「今日は永峯さんも一緒なんですね」
俺はなるべく平常心を保ったまま、そいつに話しかける。自分がどんな顔で話しているのか分からなかった。
「あははは、『永峯さん』って、固すぎるだろ」
そう言ってそいつは、腹をよじりながら笑った。
いつも通り、不気味だった。
「なあ、お前は頭良いから勘づいてっかもしれねぇけど、お前のスマホに桜の連絡先入れたの、オレだから。安心して」
やっぱりか、と思った。
どうやったかは知らないが、おそらく学校でこっそりと俺のスマホを抜き取って、連絡先を追加したのだろう。こういうことがあるから、面倒でも画面ロックはするべきなのだろうと思った。
「ってかおめぇ、スマホロックしてねぇんだもんな! スルって開いたからビックリしちまったよ!」
「永峯さんって、頭良いことを隠そうとしてるんですか?」
気づいた時にはもう、口が勝手に動いていた。言った途端に、自分が何を言ったのかほとんど忘れてしまっていた。
俺は怖かったのかもしれない。知らない、知れない、という状態を解消するために、体が反応せざるを得なかったのかもしれない。
そいつは驚いたように口を半開きにして固まって、少し経つと、
「ストレートに聞くかぁ? 普通」
と、いつもの調子に戻った。
「まあ、そうだね、隠してるっちゃあ隠してるのかもなぁ」
そいつは、やけにあっさりと肯定した。
「ただ、自分で隠せるんだったら、もっと上手く隠したいけどね」
俺はそいつが言っている意味が、やっぱりよく分からなかった。俺がもっと頭良くなれば、もしかしたら分かるのかもしれないなと思った。
そいつは少し気遣うような顔をして、「あーこっちの話ね」と言った。それから、思い出したかのようにハッとした後、少し偉そうな態度でこっちを指さした。
「遊ぶ前なのにそんな辛気臭ぇ顔すんじゃねぇよ! おめぇには、オレからとっておきの宿題を出してやっからよ。内容は単純だ、オレのスマホのパスワードを当てるだけ。もし当てたら、言うことなんでも聞いてやるよ」
「…………え?」
俺は突然すぎて、あまり話を飲み込めていなかった。
「制限時間は…………三日かな! 来週の水曜の朝に答え合わせ」
それよりも、こいつが言うことが全て怪しく思えた。
小学校のときに、「なんでも言うことを聞く」と言って、実際になんでも言うことを聞いてくれる人はいなかった。
「あー、お前、オレのこと疑ってんだろ! 約束破るんじゃねぇかって」
心の中を見透かすように、そいつはズバリ俺が思っていたことを当てた。
「安心しろ。オレは約束は破らねぇし、なんならヒントを与えてやってもいい。ただし、お前がそれ相応のもんを賭けられるならな」
なるほど、一応考えられてはいるのだなと俺は関心した。
当てるためにはヒントが必要だが、ヒントを得るためには、こちらもそっちの土俵に乗って勝負を受けなければならない、ということなのだろう。
「さあ、どうする。ちなみに、パスワードは四桁な」
四桁。0000から9999まであるから、確率は10000分の1。当てずっぽうじゃ厳しいだろう。
「わかった。負けたら俺も、なんでも言うこと聞く」
「そう来なくっちゃな! よっしゃー!」
そいつがあまりにも乗り気だったので、俺は堪らず承諾した。考え無しに、好奇心に任せた返事だったのだろう。
「じゃあお望み通り、ヒント教えてやる」
この迂闊な返事のせいで、俺の日常がもっと壊されるのかもと、心の中で少しだけ心配になった。
「ヒントは、『5、4、9』。さあ、陰キャには解けっかなぁ?」
杞憂だと思い込んで、その心配事をどこかに放り投げた。
ただ、当てるだけ。
四つの数字を当てれば、何も問題は無いのだから。
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