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回帰前 リゼが亡くなった後②
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あれから三ヶ月後、屋敷内にいるキャンディは顔を青ざめていた。
「え?え?私が買った、土地は私のものじゃないってどういうこと!?所有権は私でしょ!?お金が無くなってるって‥‥それに、リプトン家がいつのまにか借金ですって?お母様、それ本当に!?」
「本当よ!!私も最近知ったのよ?!お金も何も無くなったわ!しかも王太子が我が家を色々と疑ってるのよ!」
オレンジペコー家が混乱していた時、酒ばかり飲んでいたアッサムが現れ笑って現れた。
「あはは!ほら、見ろ。キャンディ、君に当主なんて無理さ。領民達も怒り狂ってるみたいだしなあ~君は無能だ無能」
キャンディは近くにあったグラスを、アッサムに投げつけて、パリンとグラスが割れる音が響く。そんなキャンディをアッサムは睨む。
「‥‥リゼがいればこんなことにならなかったんだ。人殺しめ」
「何よ!みんな、リゼリゼリゼ!!うんざり!私はリゼお姉様じゃないの!」
涙を流すキャンディにアッサムは呆れて無視をし、自分の部屋に戻ろうとした時アッサムの前には果物を持ち歩く自分の娘を久しぶりに会うアッサムは舌打ちをする。
生まれつき足に障害をもつ娘に嫌悪感を抱きながら、娘を見てため息を出す。
「‥欠陥品が‥!リゼなら完璧だったんだ‥‥リゼと結婚をしていたら‥‥もっと‥」
そう吐き捨て去っていく父の姿を見つめながら、果物を大事そうにもつ女の子は寂しげな表情をしていた。
「‥あい、どぉぞ‥‥ありあとー‥‥あい、どぉぞ‥」
そうしょんぼりと、肩を落としてトボトボと乳母と自分の部屋へと戻る。
ドン!!
「なんだ!?爆発音がしたぞ!」
「別館からだ!」
真夜中、鐘の音が鳴ると同時に別館の方から、爆発音がした。
オレンジペコー家の護衛騎士達が別館へ向かっている中、キリス団長だけは本館の前に立って誰かを待っていた。
屋敷に黒いマントと顔を隠している男が現れるとキリス団長はタバコを吸い出して男に話しかける。
「よう、久しぶりだな。昔の情けで、同志だった騎士達を殺さないように遠い別館を移動させるため、爆破したのか?‥セイロン」
「‥‥‥でも貴方はここに残っておりますね」
「ばーか。何年、お前を見ていた」
そう言いながらキリスは剣を鞘から出して構える。セイロンも無言のまま剣をキリス団長に向ける。
「‥‥まだこんな腐った屋敷にいるとは思いませんでした」
「ハッ!愛しい女に死なれ狂ってしまった馬鹿が帰ってこれる場所くらい‥‥あったほうがいいだろ?」
そう二人は言葉を交わした後、剣と剣がぶつかり合う。剣を教え叩きこんだキリス団長の前でもセイロンは迷わず剣を向けていた。
かつては師だったキリスにセイロンは無言のまま、彼のお腹を突き刺した。
「‥‥っガハっ‥‥!!」
沢山の血が流れながらもキリスは本館へ向かうセイロンをフラフラしながら、止める。
「‥‥‥‥キリス団長、どいてください。昔と違い貴方より私の方が強いんですよ」
「‥‥‥ばっかやろ‥‥!『馬鹿息子』が間違い‥を‥止めんのが親ってもんだろっ‥‥!」
「‥‥‥」
セイロンは無言のまま、邪魔をしようとしたキリスをもう一度‥‥‥剣を握りしめて刺した。
「ッ‥‥‥セイ‥ロン、おま‥‥っ‥なんて顔してやがる。馬鹿か、情けね‥‥」
キリスを刺したセイロンの表情を見て、虚な目で死ぬ間際でも笑い自分を殺すセイロンを子供のように優しく頭を撫でた彼は、息をひきとり亡くなった。
「キ、キリス団長が殺されたぞー!構え!侵入者だ!」
何処からか本館所属の騎士達も大人数でセイロンを攻撃するものの、あっという間にセイロンは次々と殺していく。
屋敷にいる無関係なメイド、執事達でさえも。
「いやああああ!殺さないで!」
「だ、誰か!王家所属の騎士達を‥!ぎゃあ!」
無言のまま、返り血を浴び廊下を歩くセイロンの前に、ウサギのぬいぐるみを抱いてるキャンディとアッサムの娘が寝ぼけて起きてきた。
「‥‥ん~‥‥‥?あ、セイッ」
血だらけのセイロンに話しかけ、近づこうとした時、女の子の乳母と思われる女性が、女の子を抱きしめて庇う。
「ここここ、この子だけは‥‥お、お嬢様は‥‥こ、ころさないでください!あ、足は不自由ですが‥‥優しいこで‥とても素直な子なんです!だ、だから、あのーー」
そう乳母が話している途中、乳母の首が飛んだ。剣を持って乳母を殺したのはアッサムだった。
「‥なんだい?屋敷内騒がしいと思えば、ちっ‥お前は誰だ?何者だ!?」
乳母を殺されたのを見て、泣きだす娘にアッサムは「うるさい!」と怒鳴り散らしていた。
セイロンは、黒いタオルを女の子がこれ以上血を見ないようにと、かけてあげる。
「‥‥相変わらず、女性を不幸にするのが得意なようですね」
「は?なんだと!?」
「‥‥‥‥‥私は貴方になりたかった。その金髪もその瞳も、あの方はずっと貴方に恋焦がれて見つめていたから‥‥とても羨ましかったです」
そう言いながら、セイロンはアッサムの手をすぐに切り落とす。
「っぎゃああああ!なななな手が!‥僕の手が!」
無表情のまま、もう一度アッサムに剣を向けるセイロンを見てハッと思い出すアッサムは顔を青ざめた。
「なっ!?お前、以前いたこの屋敷の騎士団の!?ガハッ!!」
もう一度剣を振りかざしてアッサムを殺したセイロンはプルプルと目を瞑る女の子を抱き寄せる。
次にキャンディの母親が現れ、すぐに殺し、セイロンの前にキャンディが顔を青ざめながら現れた。
「な、なんで‥?ロン様?」
返り血を沢山浴びながら不気味な笑顔をするセイロンにキャンディは怖がっていた。
「‥‥‥そこにいらしたんですね。キャンディお嬢様」
「は?え、ちょ‥‥ま‥お嬢様?」
屋敷内にはキャンディとセイロン‥‥そしてキャンディの娘一人だけだった。
「‥‥なな何が目的なの!?お金?ならあげるわ!あぁ、子供ね!その子は体も弱くて、駄目な子だからあげるわ!」
そうキャンディが答えるものの、セイロンは無言のまま睨んでいた。
ようやく殺せると。
全てを奪い、ようやく殺せると、セイロンはキャンディを無残な姿で殺した。
「ぅうぁああん!!」
「‥‥‥」
屋敷の外から、声が聞こえてきた。
「ダージリン王太子!向こうです!不審者は!」
誰かが王家直属の部隊を呼んできた。王太子も来ていたようだった。
バン!と扉を開くと、小さな女の子を抱えた怪しい男が返り血を浴びている姿を見たダージリン王太子はすぐに剣を向けて攻撃をする。
カキン!と片腕で剣を持ち攻撃を軽く交わす、セイロンにダージリン王太子は驚きながらも声をかけた。
「‥お前、殺人とかでなんて、‥勿体ないな!!俺んとこ来いよな?!」
「‥‥お断りいたします」
そう言いながらセイロンは、屋敷の裏に用意していた馬の方へ乗り逃げる。
「あ!?こら待て!」
「‥‥あぁ、そうだ。ダージリン王太子、私よりも、応接間へといかれては?とても大事な貴族達の裏の取引証拠書類があるので」
「‥なんだと?!あ、こらーー!」
雨がポツポツと降り出してきた。馬に乗り、女の子を抱えて森の中へと逃げるセイロンの脇腹にはキリス団長にやられた怪我が広がっていた。
「‥‥くっ‥‥油断していたら、いつのまにかやられてたとは」
馬を走らせる事が出来ないセイロンは女の子が、雨に濡れないように自分のフードを覆い被せる。
「‥‥ヒック‥‥うぇ‥セイ‥」
「‥‥‥泣かないでください」
「いたいいたい?」
「‥‥私は君が嫌いです。あの女と男の子供なんて‥‥」
「セイ‥いーこいーこ」
「‥‥‥‥‥君は、生まれてるところを、間違えたんでしょうかね‥」
雨と一緒に涙を流しているセイロンに、女の子は頭を撫でて笑いかける。そんな女の子にセイロンは申し訳なさそうに頭を下げる。
「‥‥っ」
「セイ?たい?いたい?」
「‥‥‥っ‥‥ごめ‥‥ごめん‥‥‥。君の親を‥‥沢山の人を殺して‥‥‥‥ごめん‥‥うっ‥‥こんな事をしても‥‥戻ってこないのはわかってたんだ‥‥」
ぎゅっと女の子に抱きしめるセイロンに女の子は頬を撫でた。
真夜中の大雨の中、ウバがいる教会へと足を運ぶセイロンに、ウバは驚いた。
「‥‥なっ!?こんな真夜中に誰かと思えば‥!セイロン!あんた!」
血だらけで、怪我を負っているセイロンがなぜか小さな女の子を抱いて現れたからなのか、ウバひ周りに誰もいないのか警戒していた。
「‥‥‥ウバさん‥‥この子をお願いします」
「は?!この子って‥‥え?リゼ‥‥お嬢様‥?いや、違うわよね。でもそっくり‥‥そっくりじゃないか。セイロンこの子はーー」
フラフラとまた雨の中へといくセイロンに女の子はセイロンの腕をぎゅっと握る。
「‥‥‥‥ぱ‥‥ぱ‥‥!」
そう自分を父だと呼ぶ女の子に困った顔をしてクスッと笑うセイロン。
「‥‥私は‥君の父親じゃないよ」
「‥??ばーばい?またね、ばーばい」
小さな手を振る女の子を見向きもせず、セイロンは出ていった。
ズブ濡れの小さな女の子にウバは声をかける。
「きちんと挨拶をして偉いね。名前はなんていうんだい?」
「んー?」
「‥‥名前がないのかい?ならば‥‥そうだねえ、、ルフナ、なんてどうだい?」
「いーいーよー!」
「さあ、もう寝よか‥いい子はもう寝る時間だよ」
ウバはぎゅっと、リゼを思い出しながら女の子が寝付くまで抱きしめていた。
オレンジペコー家を残虐に殺した罪として、罪人セイロンはその朝自ら捕まった。
「父上!まってくれ!そいつは無罪にすべきだ!」
ダージリン王太子は必死に国王陛下に訴えるものの、セイロンの罪はあまりにも大きいとなっていた。
国王陛下達の前で手首を縛られて、斬首刑目前でもセイロンは無表情のままだった。
「‥‥ふむ。罪人セイロン、何か言いたい事はあるか?」
「特にありません」
彼は静かに目を閉じて、自分の死刑を受け入れた。
彼はリゼを思い出す。
茶色の髪に紫色の瞳を輝かせて笑顔の彼女を。
「‥‥‥‥‥‥リゼお嬢様‥‥お慕いしておりました」
そう誰にも聞こえないよう呟いた後、彼の首は刎ねられた。
ある者は彼を悪党だと呼ぶ者もいれば、ある者は彼を英雄だとも呼んでいた。
セイロンという大罪人は、今世に語り継がれる。
恐ろしく、強く、だけど‥たった一人の女性を想い続けてきた男だと、とある教会のシスターがそう話していた。
これはリゼ•オレンジペコーが亡くなった後のお話‥‥。
「え?え?私が買った、土地は私のものじゃないってどういうこと!?所有権は私でしょ!?お金が無くなってるって‥‥それに、リプトン家がいつのまにか借金ですって?お母様、それ本当に!?」
「本当よ!!私も最近知ったのよ?!お金も何も無くなったわ!しかも王太子が我が家を色々と疑ってるのよ!」
オレンジペコー家が混乱していた時、酒ばかり飲んでいたアッサムが現れ笑って現れた。
「あはは!ほら、見ろ。キャンディ、君に当主なんて無理さ。領民達も怒り狂ってるみたいだしなあ~君は無能だ無能」
キャンディは近くにあったグラスを、アッサムに投げつけて、パリンとグラスが割れる音が響く。そんなキャンディをアッサムは睨む。
「‥‥リゼがいればこんなことにならなかったんだ。人殺しめ」
「何よ!みんな、リゼリゼリゼ!!うんざり!私はリゼお姉様じゃないの!」
涙を流すキャンディにアッサムは呆れて無視をし、自分の部屋に戻ろうとした時アッサムの前には果物を持ち歩く自分の娘を久しぶりに会うアッサムは舌打ちをする。
生まれつき足に障害をもつ娘に嫌悪感を抱きながら、娘を見てため息を出す。
「‥欠陥品が‥!リゼなら完璧だったんだ‥‥リゼと結婚をしていたら‥‥もっと‥」
そう吐き捨て去っていく父の姿を見つめながら、果物を大事そうにもつ女の子は寂しげな表情をしていた。
「‥あい、どぉぞ‥‥ありあとー‥‥あい、どぉぞ‥」
そうしょんぼりと、肩を落としてトボトボと乳母と自分の部屋へと戻る。
ドン!!
「なんだ!?爆発音がしたぞ!」
「別館からだ!」
真夜中、鐘の音が鳴ると同時に別館の方から、爆発音がした。
オレンジペコー家の護衛騎士達が別館へ向かっている中、キリス団長だけは本館の前に立って誰かを待っていた。
屋敷に黒いマントと顔を隠している男が現れるとキリス団長はタバコを吸い出して男に話しかける。
「よう、久しぶりだな。昔の情けで、同志だった騎士達を殺さないように遠い別館を移動させるため、爆破したのか?‥セイロン」
「‥‥‥でも貴方はここに残っておりますね」
「ばーか。何年、お前を見ていた」
そう言いながらキリスは剣を鞘から出して構える。セイロンも無言のまま剣をキリス団長に向ける。
「‥‥まだこんな腐った屋敷にいるとは思いませんでした」
「ハッ!愛しい女に死なれ狂ってしまった馬鹿が帰ってこれる場所くらい‥‥あったほうがいいだろ?」
そう二人は言葉を交わした後、剣と剣がぶつかり合う。剣を教え叩きこんだキリス団長の前でもセイロンは迷わず剣を向けていた。
かつては師だったキリスにセイロンは無言のまま、彼のお腹を突き刺した。
「‥‥っガハっ‥‥!!」
沢山の血が流れながらもキリスは本館へ向かうセイロンをフラフラしながら、止める。
「‥‥‥‥キリス団長、どいてください。昔と違い貴方より私の方が強いんですよ」
「‥‥‥ばっかやろ‥‥!『馬鹿息子』が間違い‥を‥止めんのが親ってもんだろっ‥‥!」
「‥‥‥」
セイロンは無言のまま、邪魔をしようとしたキリスをもう一度‥‥‥剣を握りしめて刺した。
「ッ‥‥‥セイ‥ロン、おま‥‥っ‥なんて顔してやがる。馬鹿か、情けね‥‥」
キリスを刺したセイロンの表情を見て、虚な目で死ぬ間際でも笑い自分を殺すセイロンを子供のように優しく頭を撫でた彼は、息をひきとり亡くなった。
「キ、キリス団長が殺されたぞー!構え!侵入者だ!」
何処からか本館所属の騎士達も大人数でセイロンを攻撃するものの、あっという間にセイロンは次々と殺していく。
屋敷にいる無関係なメイド、執事達でさえも。
「いやああああ!殺さないで!」
「だ、誰か!王家所属の騎士達を‥!ぎゃあ!」
無言のまま、返り血を浴び廊下を歩くセイロンの前に、ウサギのぬいぐるみを抱いてるキャンディとアッサムの娘が寝ぼけて起きてきた。
「‥‥ん~‥‥‥?あ、セイッ」
血だらけのセイロンに話しかけ、近づこうとした時、女の子の乳母と思われる女性が、女の子を抱きしめて庇う。
「ここここ、この子だけは‥‥お、お嬢様は‥‥こ、ころさないでください!あ、足は不自由ですが‥‥優しいこで‥とても素直な子なんです!だ、だから、あのーー」
そう乳母が話している途中、乳母の首が飛んだ。剣を持って乳母を殺したのはアッサムだった。
「‥なんだい?屋敷内騒がしいと思えば、ちっ‥お前は誰だ?何者だ!?」
乳母を殺されたのを見て、泣きだす娘にアッサムは「うるさい!」と怒鳴り散らしていた。
セイロンは、黒いタオルを女の子がこれ以上血を見ないようにと、かけてあげる。
「‥‥相変わらず、女性を不幸にするのが得意なようですね」
「は?なんだと!?」
「‥‥‥‥‥私は貴方になりたかった。その金髪もその瞳も、あの方はずっと貴方に恋焦がれて見つめていたから‥‥とても羨ましかったです」
そう言いながら、セイロンはアッサムの手をすぐに切り落とす。
「っぎゃああああ!なななな手が!‥僕の手が!」
無表情のまま、もう一度アッサムに剣を向けるセイロンを見てハッと思い出すアッサムは顔を青ざめた。
「なっ!?お前、以前いたこの屋敷の騎士団の!?ガハッ!!」
もう一度剣を振りかざしてアッサムを殺したセイロンはプルプルと目を瞑る女の子を抱き寄せる。
次にキャンディの母親が現れ、すぐに殺し、セイロンの前にキャンディが顔を青ざめながら現れた。
「な、なんで‥?ロン様?」
返り血を沢山浴びながら不気味な笑顔をするセイロンにキャンディは怖がっていた。
「‥‥‥そこにいらしたんですね。キャンディお嬢様」
「は?え、ちょ‥‥ま‥お嬢様?」
屋敷内にはキャンディとセイロン‥‥そしてキャンディの娘一人だけだった。
「‥‥なな何が目的なの!?お金?ならあげるわ!あぁ、子供ね!その子は体も弱くて、駄目な子だからあげるわ!」
そうキャンディが答えるものの、セイロンは無言のまま睨んでいた。
ようやく殺せると。
全てを奪い、ようやく殺せると、セイロンはキャンディを無残な姿で殺した。
「ぅうぁああん!!」
「‥‥‥」
屋敷の外から、声が聞こえてきた。
「ダージリン王太子!向こうです!不審者は!」
誰かが王家直属の部隊を呼んできた。王太子も来ていたようだった。
バン!と扉を開くと、小さな女の子を抱えた怪しい男が返り血を浴びている姿を見たダージリン王太子はすぐに剣を向けて攻撃をする。
カキン!と片腕で剣を持ち攻撃を軽く交わす、セイロンにダージリン王太子は驚きながらも声をかけた。
「‥お前、殺人とかでなんて、‥勿体ないな!!俺んとこ来いよな?!」
「‥‥お断りいたします」
そう言いながらセイロンは、屋敷の裏に用意していた馬の方へ乗り逃げる。
「あ!?こら待て!」
「‥‥あぁ、そうだ。ダージリン王太子、私よりも、応接間へといかれては?とても大事な貴族達の裏の取引証拠書類があるので」
「‥なんだと?!あ、こらーー!」
雨がポツポツと降り出してきた。馬に乗り、女の子を抱えて森の中へと逃げるセイロンの脇腹にはキリス団長にやられた怪我が広がっていた。
「‥‥くっ‥‥油断していたら、いつのまにかやられてたとは」
馬を走らせる事が出来ないセイロンは女の子が、雨に濡れないように自分のフードを覆い被せる。
「‥‥ヒック‥‥うぇ‥セイ‥」
「‥‥‥泣かないでください」
「いたいいたい?」
「‥‥私は君が嫌いです。あの女と男の子供なんて‥‥」
「セイ‥いーこいーこ」
「‥‥‥‥‥君は、生まれてるところを、間違えたんでしょうかね‥」
雨と一緒に涙を流しているセイロンに、女の子は頭を撫でて笑いかける。そんな女の子にセイロンは申し訳なさそうに頭を下げる。
「‥‥っ」
「セイ?たい?いたい?」
「‥‥‥っ‥‥ごめ‥‥ごめん‥‥‥。君の親を‥‥沢山の人を殺して‥‥‥‥ごめん‥‥うっ‥‥こんな事をしても‥‥戻ってこないのはわかってたんだ‥‥」
ぎゅっと女の子に抱きしめるセイロンに女の子は頬を撫でた。
真夜中の大雨の中、ウバがいる教会へと足を運ぶセイロンに、ウバは驚いた。
「‥‥なっ!?こんな真夜中に誰かと思えば‥!セイロン!あんた!」
血だらけで、怪我を負っているセイロンがなぜか小さな女の子を抱いて現れたからなのか、ウバひ周りに誰もいないのか警戒していた。
「‥‥‥ウバさん‥‥この子をお願いします」
「は?!この子って‥‥え?リゼ‥‥お嬢様‥?いや、違うわよね。でもそっくり‥‥そっくりじゃないか。セイロンこの子はーー」
フラフラとまた雨の中へといくセイロンに女の子はセイロンの腕をぎゅっと握る。
「‥‥‥‥ぱ‥‥ぱ‥‥!」
そう自分を父だと呼ぶ女の子に困った顔をしてクスッと笑うセイロン。
「‥‥私は‥君の父親じゃないよ」
「‥??ばーばい?またね、ばーばい」
小さな手を振る女の子を見向きもせず、セイロンは出ていった。
ズブ濡れの小さな女の子にウバは声をかける。
「きちんと挨拶をして偉いね。名前はなんていうんだい?」
「んー?」
「‥‥名前がないのかい?ならば‥‥そうだねえ、、ルフナ、なんてどうだい?」
「いーいーよー!」
「さあ、もう寝よか‥いい子はもう寝る時間だよ」
ウバはぎゅっと、リゼを思い出しながら女の子が寝付くまで抱きしめていた。
オレンジペコー家を残虐に殺した罪として、罪人セイロンはその朝自ら捕まった。
「父上!まってくれ!そいつは無罪にすべきだ!」
ダージリン王太子は必死に国王陛下に訴えるものの、セイロンの罪はあまりにも大きいとなっていた。
国王陛下達の前で手首を縛られて、斬首刑目前でもセイロンは無表情のままだった。
「‥‥ふむ。罪人セイロン、何か言いたい事はあるか?」
「特にありません」
彼は静かに目を閉じて、自分の死刑を受け入れた。
彼はリゼを思い出す。
茶色の髪に紫色の瞳を輝かせて笑顔の彼女を。
「‥‥‥‥‥‥リゼお嬢様‥‥お慕いしておりました」
そう誰にも聞こえないよう呟いた後、彼の首は刎ねられた。
ある者は彼を悪党だと呼ぶ者もいれば、ある者は彼を英雄だとも呼んでいた。
セイロンという大罪人は、今世に語り継がれる。
恐ろしく、強く、だけど‥たった一人の女性を想い続けてきた男だと、とある教会のシスターがそう話していた。
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