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その1. ポメラニアンとピレネー

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 店内に流れるJポップ曲と、DJのお喋り。そして自動ドアのひっきりなしの開閉音に、店員の挨拶の声。それらをBGMにしながら浅川あさかわ 美晴みはるはコンビニ店内で、カップのコーヒーを一口すすった。今は八月はじめの平日、昼の十二時十五分。昼休憩の会社員たちが次々に店内へ入ってゆき、それぞれ今日の昼食を選び、買ってゆく。

 美晴が座っているのは、このコンビニの窓側に作られたイートインコーナーだった。別の店でランチを済ませ、食後のコーヒーだけここで愉しむのだ。ガラス越しに、道の向こうにある公園の緑を眺めることができる、そんな穴場。早目の十一時半から昼休憩をとった美晴がここでゆっくりできる時間は、あと五分といったところ。職場に戻ったら歯磨きをして、仕事に戻らなければならない。それまでを店内のざわめきに耳をかたむけつつ、のんびりと過ごしていたかった。

「今日のおにぎりの具、なんにする?」

 高らかなチャイム音とともに、一組の客が入ってきた。

「たらこ。あと、高菜」

 問いかけられた方が短く答えるが、最初に問いかけた方がそれを遮るように小さく叫ぶ。

「ちょ、待てよ穴子があるぜ! 穴子!」
「新商品か」
「試さないと! お前も買う?」

 騒がしいその会話につられて、店内の商品を眺める振りをしてそちらを見る。そこにいるのは二人の男性客だった。

 背の大きいのと小さいのとのサラリーマンコンビ。大きい方が体付きもがっしりとしていてより大きく見えるせいか、多分標準体型であろうもう一人が、より小さく見える。

「なんだよ。クーポンの割引明日からじゃん」
「アプリの割引は?」
「お。あった」

 仲いいなぁ。

 そんなことをぼんやり思いながら、美晴はまたコーヒーをすすった。

 普段はお弁当を作ってくる彼女がこのコンビニを利用するのは、決まって水曜日。この週の中日だけお弁当作りをお休みして、ランチを外のお店で食べるのだ。そしてオフィスへ戻るついでに、コーヒーを買ってここで飲む。都内で一人暮らしをする二十八歳のOLにとって、それはささやかな贅沢だ。
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