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その8. 分かること、分からないこと、分かったこと

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 また五ヶ月ちょっと前に別れた男の顔が浮かびそうになったので、慌てて鯖の竜田揚げに箸をつけた。その場で食べるのではない、買って帰るのが前提のお店で作られた惣菜だけに、しっかりと下味をつけて中まで火が通って、最後はカラリと揚がっている。

 美晴はご飯に集中しながら、そっとスマホのメールアプリを立ち上げた。犬が笑っているイラストのアイコンを開けて、日曜日に届いたメッセージを読み直す。

『水曜日に、コンビニで待っていてもらってもよいですか?』

 その下に続く美晴の返信は、

『OK』

 のスタンプのみ。文字や、感情の透けて視えるスタンプでは返事が出来なかった。なんと言い訳をすればよいのか、どんなスタンプで誤魔化せばいいのか分からなかったから。

「ほんと、酷い……」

 スマホの画面を見つめ、ぽつりとつぶやいた。



 ◇◇◇◇◇


 そして翌日、水曜日の十二時十分。コンビニの店内には入らずに、美晴は日傘をさして店の前に立ち、健斗を待っていた。道の向こうの公園から聞こえる蝉の声がうるさい。その公園沿いの道から走ってくる男の姿を見つけ、二週間前と同じ光景だなとふと思った。

「美晴さん」

 駆け寄って、呼びかけて、その後どうすればよいのか何も考えていなかったことに気が付いて戸惑っている。そんな健斗の様子に、美晴は申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

「この度は、ご迷惑をおかけしました」
「え?」
「酔った勢いで羽目を外しました」
「ちょ、ちょっと待って!」

 頭を下げる美晴の上で、健斗の焦った声が聞こえる。ゆっくりと顔を上げると、耳まで真っ赤になった健斗が眉を寄せてこちらを見つめていた。

「やっぱり、酔って羽目を外していたんですね」
「それは、もう……」

 でなければ初めてご飯を食べに行った相手となんて、そう簡単に寝ないだろう。

「これ、返そうと思って」

 健斗は尻ポケットから二つ折りした封筒を取り出すと、美晴に差し出した。

「これは」
「美晴さんが置いていったお金です」

 説明する声の固さに、ビクリとした。やはり失礼だったのだ。もう少し冷静に考えれば良かった。

「ごめんなさい……」

 目を伏せて、もう一度謝罪する。どんなに呆れられたのか、分からない。でも罵られてもきちんとそれを受け止めないと、と思った。

「美晴さん」
「はい」

 健斗の呼びかける声が、柔らかく耳に響く。怒りの色が無いことが、美晴には不思議に感じられた。

「美晴さんは、なんで俺とそういうことをしようと思ったんですか」
「え」

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