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その20. 好きです

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 最初に自分の衣類等を干すと、最後にシーツを広げる。健斗の家の物干しはベランダの天井から吊り下げるタイプのものだ。さすがに自分の目線より上の高さの物干し竿にシーツをかけるのは、やり辛い。もたもたとしていると背後から腕が伸びてシーツが奪われた。

「これでおしまい?」

 背後から耳元に響く健斗の声。

「うん……」

 距離の近さに、美晴の心が揺さぶられる。耳たぶが熱を持ち、首筋や背中の神経が鋭敏になった気がした。またもや固まって動けなくなってしまった美晴越しに、健斗がシーツを物干し竿に掛ける。

「美晴さん」

 耳元に感じる健斗の息遣い。軽く肩を引かれ、お互いに向き合う。でも気恥ずかしさから美晴の目は伏せていた。

「俺、美晴さんのことが好きです」

 その言葉に弾かれたように顔を上げる。途端に、健斗の視線に絡め取られた。

「コンビニで一目惚れして、メシ誘って勢いで突っ走って、反省して仕切り直しが始まって。でもそこから、美晴さんのこと知れば知るほど好きになっていきました。昨日、久しぶりに美晴さんに会えてあらためて自分の気持ちを伝えようと思ったけれど、酒が入っちゃったんで……」
「あ……。昨日は、ごめんなさい」
「いや、良いんです。そういうんじゃないんです。ただ、俺も好きだって伝えたくて」

 そこで言葉を切ると、健斗が声のトーンを落としてそっと訊ねた。

「美晴さん俺のこと好きだって、本当に?」

 不安そうな、自信の無さそうな健斗の声。それはまるで捨てられる仔犬を連想させる。

 なんでこういう要所要所で、ワンコ属性を出してくるのかな。

 もはや腹立たしくなるくらい、美晴の心は健斗の言動に撃ち抜かれていた。自分の中で衝動が沸き起こり、美晴は顎を上げて目の前の男を見上げる。

「好きでなくちゃ、酔っていたってあんなことしない。それが分かったの。私もコンビニで健斗を見たときから好きだった!」

 それに気が付いたのは今さっきだけれど。そんな突っ込みを心の中でだけして、口をつぐむ。挑むように、睨み付けるように健斗を見つめていたら、彼の両手が中途半端に上がった。

「美晴さん、ぎゅっとしていい?」

 健斗の表情が、なにか衝動を抑えるように苦しそうになっている。それなのに、ぎゅっとしての言い方がなんだか可愛らしくて、また美晴の心が撃ち抜かれた。

「うん。ぎゅってして」

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