愚かな道化は鬼哭と踊る

ふゆき

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【六従兄弟姉妹(むいとこ)】

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 虎蔵と初めて顔を会わせたのは、オレが高校に入学した年。父方の、曾祖父だったか曾祖母だったかの法事でだ。

 まだ小学校低学年の子供を捨てて愛人に走った親父は、親戚一同から嫌われていた。離婚の理由が、『産まれてくる子供を父なし子にしたくない』だったせいだ。
 小学校低学年の子供を捨てておいてなにを言ってるんだと、そう思われたのだ。

 当時幼かったオレでもそう思ったくらいだ。良識ある大人たちの目に親父の行動がどう映るかなど、言わずもがな。
 面と向かって何か言う訳ではないにしろ、付き合い方を考えられてしまったのは仕方がない。

 親戚一同から揃って冷ややかな態度をとられれば、さしもの親父も敬遠されていることに気がついた。そこで態度を改めるなりなんなりすればいいものを。
 なにを考えていたのか親父は、オレが高校生になったのを機に、親戚付き合いを丸投げしてきた。
 オレだって、親戚中の持て余し者だったってのにだ。

 まあ、そのお陰で虎蔵と出会えたのだから、いまさら文句を言う気はないが。

「つまりなんだ。長年おまえとつるんでたせいで、霊感みたいなモノの経路が開いた--と?」

「たぶん?」

 目の前で、いい年をして小首を傾げてみせる無駄に整った顔の野郎を見ていると、コイツとの出会いが、オレにとって本当にいいものだったのか、考え直したくなってくる。

「たぶんてなんだ、たぶんて」

 半歩前を歩く虎蔵の頭を小突き、溜め息ひとつ。
 毎度のことながら、虎蔵は話したくない事柄や、都合の悪い事柄に関しては、極端に言葉足らずになる。
 いつもなら、話したくないならまあいいかと流してやるのだが。流石に今回は、話したくないならじゃあいいか、にはしてやれない。

 夜中だったらならいざ知らず…--夜中でもごめん蒙りたいが--白昼堂々、ホラー映画も真っ青な幽霊に襲われたのだ。このまま話を濁されたら、いくらなんでも座りが悪い。下手すりゃ夜もおちおち眠れなくなっちまう。

「せやかてオレ、あの手の連中と拳で語れるだけで、ちゃんとした専門知識とかあらへんもん」

「化け物相手に拳で語るな」

 春が終わり、初夏ともなれば日差しは強い。 怪異が去った後の古いビルは、あれほどの寒さが嘘だったかのように蒸し暑かった。
 出入り口の扉を開放してもさして温度は変わらず、血の痕も消えたことだし、場所を変えて話をしよう。そう言い出した虎蔵に連れられて近くのファミレスへと向かう道すがら。
 ぽつりぽつりと語られた内容を総合すると、薄っすらと繋がっている血の成せる業か。はたまた元々の素質か。
 虎蔵に感化され、いつ見えるようになってもおかしくない状態だったところへ、うかうかと怪異の影響が色濃い空間へ足を踏み入れたのが決定打になった、らしい。
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