愚かな道化は鬼哭と踊る

ふゆき

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【犬神】

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 朽ち果てかけていた古家が見る間に再構築されて立派な佇まいの和風旅館っぽい姿に変わったのは見て知っているが、常世側にまで増築されていたのは初耳だ。事と次第によっては佐久間のおっさん案件になる。
 そうなってくると、いままで通り野放しとはいかなくなってくるわけだが。

〖否。最初、在〗

 九十九はオレに、増築はいっさいしていないと伝えてきた。

「うん? もともとあった? 聞いてねえぞ」

〖姐〗

 ついでに、常世側の入り口についてベニ姐さんに報告をあげているイメージと、佐久間のおっさんが肩を竦めているイメージがふわりと脳裏に流れてくる。

「ベニ姐さんには言ってあるって……。あー、佐久間のおっさんか。おっさんがオレがごねると面倒くさいから黙っとけって言ったのか」

 取り出した野菜を刻み、解凍した魚に下味を付けてと忙しく手を動かしながら、眉を寄せる。
 この家の管理人を押し付けられた時。常世側にも出入り口があると知っていればオレは、通いで様子を見に来ても、住んだりはしなかった。
 ただでさえ仕事で怪異に関わって苦労させられてるんだ。誰が私生活まで怪異漬けにしたいものか。

〖九十九、龍、式鬼。一緒〗

 滑らかに手を動かし続けていたオレが、眉を寄せた難しい表情で手を止めたからか。出て行かせてなるものかと言わんばかりに、九十九の気配がどろりと揺らぐ。
 ソレは、オレがこの仕事を辞めようかどうか悩んでいた時の虎蔵の気配とよく似ていて。

「わかってるよ。今さらだ。出ていく気なんざさらさらねえからヤバい方へ傾くな」

 冷蔵庫から追加の食材を取り出しながら、なんだってこう、オレのまわりには病んだヤツしかいないのだろうと首を捻る。

〖九十九、龍、一緒。永〗

「へーへー。まあ、きちんと意志の疎通も出来るようになったこったし、仲良くやろうぜ」

 相変わらず、言葉の意味だけが擦り込まれてくるような感覚には違和感しかないが、なんだかんだで慣れてきているのも事実だ。虎蔵のようになんでもかんでも無条件で受け入れる程の度量はないが、意志の疎通が出来る相手なら、それなりに仲良くやっていける--ような気がしなくもない。

「つうか、ソレ用に作った作り置きがあるんだからよ。オレら用の常備菜と食材は食わせんな。こんな時間から買い出しに行ったって碌なものが残っちゃいねえし、作る余力のねえ日だってあるんだからな?」

 飢えてさ迷う連中にならまだしも。宴会目的の連中にタダで貪り食わせる食糧はない。
 その辺りの線引きをしっかりやってくれと念押しすれば、九十九も思うところがあったのだろう。

〖了〗

 あっさり了承してから、魑魅魍魎にも食べ物をふるまっていたのは、ご近所付き合いの一環だった旨を伝えてきた。
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