愚かな道化は鬼哭と踊る

ふゆき

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【護り人形】

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 九十九は『迷い家』であって、旅館でもお食事処でもないんだ。飢えが未練となってさ迷う幽鬼が食べる物を求めて迷い込んでくるのはまだわかる。オレが思い浮かべた『迷い家』の特性に叶っているからだ。
 だが、物の怪の宴会場にされるのは、なにか違う。

「向こうはおかしいと思ってないよ。九十九くんの特性は、『困っている存在を助ける』なんだろう? なら、消滅しかかっている物の怪が糧を求めて頼ったって当然だと思われてるんじゃないかな」

「マジっすか」

「マジマジ。狗呂くんが前例になっちゃったんだろうねー」

「あー……」

 オレが狗呂に餌を与えていたのは主に、裏の雑木林でだ。
 それを見て『弱った物の怪にも糧を与えてくれる場所』だと思われたなら、なるほど。当たり前みたいな顔をして上がり込んでくるはずである。

「ほんと不思議なんだけど、『犬神』なんてどうやったら餌付けできるの? アレって蠱術こじゅつ--特定の動物の霊を使役する呪詛で、怨念の増した霊を呪物として使うから、普通は人になんて懐かないよ?」

「野良犬だと思って、懐かせて番犬代わりにウチで飼おうかなとか考えつつ餌をやってたら、いつの間にか懐いてましたけど?」

「う~ん。龍くん固有の特殊能力かなあ。九十九くんといい狗呂くんといい、あんまり強力な物の怪を増やしちゃダメだよー」

「意図して増やした事なんてありませんよ!」

 九十九にしろ狗呂にしろ、気が付いたら勝手にオレの式鬼面をしていただけだ。使役しようと思った事もなければ、使役したいとも思っていない。むしろ、何故オレなんぞに懐いて慕ってくるのかと、日々頭を悩ませているくらいだ。
 オレが好き好んで物の怪を集めているような言い方は心外である。

「違う違う。そっちじゃなくて強化の方。あの子たち、君になにかあったらあっさり一線越えて祟り神化しちゃいそうなんだもん。今でさえ、君の手綱が外れたら大変だなあってくらいには力をつけちゃってるし、ほんと気をつけてよ?」

 佐津川さんは、禰宜という神職にある人だ。代々続く神社の跡取りで、以前は、宮司である父親の補佐をしながら、外部委託としてここの仕事を手伝っていた。
 しかしながら佐久間さんの持ち込んでくる『仕事』が大変なモノばかりであった為、片手間では無理だと父親の引退に合わせて弟さんに跡目を譲り、本格的にこちらで働き始めたという奇特な人である。

 佐津川さん曰く、禰宜というのは宮司の命を受けて社務に従事する神職のことで、宮司の補佐をする人のことだそうだ。跡目を弟さんに譲って家を出たのなら、佐津川さんは禰宜ではなく、いわゆる霊能者と呼ばれる分類になるのではなかろうかと思ったのだが、禰宜でいいらしい。
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