愚かな道化は鬼哭と踊る

ふゆき

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【護り人形】

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「犬神ってあんなモノじゃないの?」

「九十九が、回復すれば見た目もちゃんと綺麗になるって言ってましたよ」

「いやだから。なんで怪異と普通に意志疎通できてるのさ」

「オレの式鬼だから?」

「えー」

 不満そうな顔をされても、九十九と狗呂とは、虎蔵だって佐久間のおっさんだって普通に意志の疎通が出来ている。
 そも、『見鬼』とは『視えて』『聞こえる』能力の事ではなんだから、自分の式鬼と意志の疎通くらいできて当然だと思うのだが、違うのだろうか。

「佐津川。盛り上がっているところ悪いが、ちょっと龍之介の『目』を貸してくれ」

 なんとも複雑な表情をする佐津川さんと見つめ合うことしばし。
 認識の違いか、オレの知識不足による齟齬か。お互い二の句が継げない状態だったところへ背後から声を掛けられ、ふたり揃って振り向く。

「あれ。尼子くんいつ来たの?」

 ちょうどオレの真後ろに気配もなく立っていたのは、佐津川さんと同じく、オレの先輩である尼子聖さんだった。

 波打つ豪華な黒髪に、内面の強さを表したようなつり上がった黒い瞳。鍛えあげられたスレンダーな肢体はしなやかで、弱々しさなど微塵も感じさせない風格の人物である。

「いま来たところだ。祓いを頼まれたんだが、どうにも悪い気配がしなくてね。祓って祓えないこともなさそうではあるんだけれど、こちらの力が強すぎると器まで壊してしまいそうなんで、一度龍之介に視てもらおうと思って持ってきた」

「ああ。尼子くんも力業なところがあるもんねえ」

 尼子さんは、いわゆる霊能者と分類される人だ。何処かに所属して修行を積んだとかではなく、ほぼ我流。尼子さんなりの手順はあるものの、ほとんどが力押し。
 なので、力加減を誤って、怪異が取り憑いている存在そのものを壊してしまうことが多々あった。
 壊してもいいと許可のあるものならまだしも、絶対に壊すなと念押しされるものの方がはるかに多く、さてどうしたものかと悩んでいたところへ、『見鬼』だという後輩--つまりはオレだ--が現れた。

 尼子さんの目で捉えられない存在でも、オレの『目』ならば視ることが出来る。ならば、視える人間に鑑定をさせてから祓えば、器まで壊すことも減るだろうと、尼子さんはしょっちゅうオレのところへやってくる。

「今回はなんですか?」

 前回は骨董品の、金額を三回も聞き直してしまったほど高価な茶碗で、その前は、これまた金額を聞き直してしまった高価な絵画。さらにその前は、やたらと値の張る電子機器だった。
 つまるところ、尼子さんがオレのところへ持ってくるのは、壊してしまったら怒られるだけではすまない高級品だ。正直、オレとしてはそんな高級品には触りたくもないのだが、そういう訳にもいかないのが悲しいところだ。
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