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【1話目】

守れるよ! 守れるけど……ネコ?

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 もうずいぶんと長い間、両親にさえ向けられることのなかった温かい笑みは、廉太郎の胸の奥をキュッ、としめあげる。
 廉太郎の家庭はもっとずっと前。
 両親が廉太郎に微笑みかけてくれなくなった頃からもう壊れていたのだと、そう気づかされて。

「守れるよ! 守れるけど……ネコ?」

 泣きたくなった気持ちをグッと飲み込み、廉太郎はオジサンの目を見る。
 大丈夫。居場所のなくなった廉太郎に、新しい居場所をくれたのはオジサンだ。
 オジサンは、廉太郎を捨てていってしまった両親とは違う。
 わざわざ廉太郎を引き取りにきてくれて、こうやってまっすぐに目を見て話してくれる。

 だからきっと、オジサンが大事な約束だと言うのなら、それはとても大事な約束なのだ。
 いまはピンとこなくてもなくても、住んでいればそのうち意味がわかるようになるはずだーーたぶん。

 オジサンの口調から、もっと難しくて大げさな『お約束』があるのだろうと身構えていた廉太郎としては拍子抜けもいいところだが、難しいルールより、簡単なルールの方がいいに決まってる。
 幸いにして、廉太郎は動物好きだ。
 イヌも好きならネコも好き。
 鳥やハムスターなどの小動物だって好きである。
 共同住宅アパートにネコがいるなら、可愛がりまくる自信がある。
 でも、だけど。

 共同住宅アパートに住むためのお約束ーールールが、『ネコに逆らってはいけない』とは本気だろうか。

(あ! ひょっとして、構いまくって嫌われるなってことかも?)

 動物好きあるあるで、構い倒して動物から嫌われる、というのがある。
 廉太郎も、通学路でよく見かける野良ネコを構い倒して、嫌がられた経験がある。
 野良ネコならまだしも、家ネコに嫌われてしまったら、なにかと問題が出てくるのかもしれない。

 だからといって、一番大事で、絶対にやぶっちゃいけない約束が『ネコに逆らってはいけない』ってなんなんだろう?
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