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【1話目】
え! それは困る!
しおりを挟む「で、ふたつ目の約束だが……」
意味がわからず首を傾げる廉太郎にはおかまいなしで、オジサンが二本目の指を立てる。
「さっき、この共同住宅はどちらかというと、下宿みたいなものだと言ったろう? 各自の個室以外は全部、共同スペースになってるんだ。だから、『共同部分に関するルールはきちんと守ること』。コレがふたつ目の約束だ。コレも大事な約束だから、ちゃんと守ってくれよ。でないとオジサンも廉太郎も、この共同住宅を出て行かなきゃならなくなってしまう」
「え! それは困る!」
「オジサンも困る。他にも似たような『アパート』はあるだろうけど、食事がおいしくて居心地のいいところはめったにないからな」
「わかった。ちゃんと守るよ!」
やぶったら出て行かなければならないなんて、ネコよりこっちの約束の方がよほど大事ではないかと感じた廉太郎は、拳を握って力強くうなづく。
「うん、頼もしい返事だ。みっつ目は……一度にたくさん言っても覚えきれないだろうから、いまはいいか。さあ、こんなところで立ち止まってないで、中に入ろう。きっと気に入る」
「うん!」
オジサンに優しく背を押され、廉太郎は共同住宅に向かって駆け出す。
そうだ。今日からこの、物語に出てくるみたいな建物に住めるのだ。
両親の離婚が決まって、両親から見捨てられて。
悲しいのと不安なのでぐちゃぐちゃだった気持ちが、ふわりとほどけて溶けてゆく。
両親には捨てられてしまったけれど、廉太郎にはオジサンがいてくれる。
数回しか会ったことがなかったのに、わざわざ廉太郎を迎えに来てくれたオジサンが。
オジサンのためにも、この共同住宅の『お約束』は絶対守ろう。
そう決めた廉太郎は、オジサンにうながされ、元気よく玄関の扉を開けた。
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