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【1話目】

コイツら悪さするの!?

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 どんどんどんどん寄り集まって。
 どんどんどんどん大きくなって。
 大きく大きくなりすぎた黒いモヤモヤは、『イキモノから追い出された悪い感情』ではなく、『悪意』と言う名の別の集まりになって、質が変化してしまう。
 そうなってしまうと、ただ『目』がいいだけの者には、ほとんど視えなくなってしまうらしい。

「オレ程度やと、そこにおる・・のがわかるくらいやな。視えとるモンは、こっちから関わりに行かなんだら害にもならんとソコに居るだけやけど、こそこそ隠れるようなモンは、こっちが関わらんでも悪さしてきよる。ちゅうか、悪さするために姿を隠しとるんやろな」

「えッ。コイツら悪さするの!?」

「するする。人を不幸にしたり、怒りっぽくしたり、好き放題しよる。んで、『嫌なヤツ』ができあがるっちゅうわけや。ウチの共同住宅アパートにおったらまあ、何が来てもたぶん大丈夫やけどなあ」

「ウチの共同住宅アパートってそんなすごいんだ?」

「そらそうや。廉太郎おまえ、この共同住宅アパートの名前言うてみ?」

「んーと、『フェアリーゴッドマザーハウス』……だったはず」

「せや。つまりは『妖精母さんの家』やで?」

「あー……」

 藤堂と話ながらも鏡を見てせっせと黒いモヤモヤをはたいていた廉太郎は、ぬっと現れた背後の影に、納得顔でうなづく。

 熊のように大きな体は、人間用の小さな姿見には収まりきらないのだろう。
 姿見の中に見えるのは、お腹の真っ白な毛並みのみだ。
 でも、この真っ白な毛並みを、廉太郎はよく知っている。
 廉太郎がこの共同住宅アパートで生まれて初めて出会った、不可思議ふかしぎな存在だ。

 背後を振り返ってみれば、思った通り。
 愛用の『しゃもじ』を構え、いまにも振り下ろそうとしているネコのダイフク・・・・・・・がいた。
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