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【1話目】

どうせなら、飼い主を待って一緒に旅立てばいい

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 寿命は残り少なくとも、ネコマタとしての力はまだ残っている。
 しかも、九回生きたネコマタの力だ。
 そのすべてを譲り渡せば、姿すら定まらない小さな妖精を大妖精に押しあげるのも簡単なこと。
 残して逝く飼い主のために、ネコマタの『ダイフク』は、自分に残された力のすべてを、小さな妖精に譲り渡した。
 知識、経験、その他すべてを。

 飼い主を見守ってもらうには、ネコマタの『ダイフク』としての知識がいる。
 悪いモノをしりぞけるには、ネコマタの『ダイフク』としての経験がいる。
 ただただ存在していただけの小さな妖精では、よくないモノが家の中に入り込んでも、追い出すことすら出来ないだろう。
 だから。
 長く長く、気の遠くなるほど長く生きたネコマタの『ダイフク』は、残り少ない寿命を惜しむより、飼い主のためにすべてを差し出す事を選んだ。

 そうして小さな妖精は大妖精となりーー数ヶ月たったある日。
 もう生まれ直すことのない死出の旅へと向かおうとしていた『ダイフク』のたましいを、大妖精はそっと引き止めた。
 どうせなら、飼い主を待って一緒に旅立てばいい。
 いまの自分には、『ダイフク』が『ダイフク』のまま待っていられるよう、ちゃんと魂を守れる。
 だから、安心して自分の中ここにいればいいとそう言って、大妖精となった元小さな妖精は、寿命の尽きた小さなネコの身体と同化した。
 溶けてまざってひとつになって。
 ネコマタの『ダイフク』の記憶もなにもかもが、大妖精の『ダイフク』に染み込んで。
 感情を知らなかった小さな妖精は、そこではじめて自我を得た。

 それからいくらかの年月が過ぎ、ネコマタの『ダイフク』が飼い主と共に旅立った後。
 大妖精はネコの身体をそのまま貰い受け、いまのダイフクになった。

 ーー……共同住宅アパート『フェアリーゴッドマザーハウス』の管理人兼、料理人に。
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