|共同住宅《アパート》『フェアリーゴッドマザーハウス』の不可思議な日常茶飯事

ふゆき

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【2話目】

あわてて走って転ばんようにな~

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「藤堂のおっちゃん、ありがとう! 後で自分でも言うけど、ダイフクにもありがとうって言っといて!」

 バイクのシートからおろしてもらい、廉太郎はきちんと藤堂の目を見てお礼を告げる。
 絶対に間に合わないと思っていたら、約束の時間前に到着できた。

 ダイフクが着替えを手伝ってくれなければ廉太郎はまだ洋服と格闘していただろうし、藤堂が送ってくれなければ、必死になって公園までの道のりを走ることになっていただろう。
 廉太郎が間違った事をしていたらちゃんと注意してくれるし、困っていたら当たり前みたいな顔をして助けてくれる。
 廉太郎にとって藤堂は、こんな風になりたいと思わせる、『かっこいい』大人のひとりだ。
 オジサンや他の住人たちも、廉太郎がいままで見てきた大人とはまるで違う。
 皆、さらりとかっこいいことを言うし、やることなすことすべてがいきである。
 その中でも、藤堂はずば抜けてかっこいい。
 立ち振舞いもおしゃれなら、口にする言葉も、軽い口調なのになぜか頭の中に染み込んでくる。
 さっきも、注意してきたのが藤堂でなければ、廉太郎は邪気にそそのかされるまま、ひどい言葉を口にしていただろう。
 すっかり邪気の影響もなくなって、廉太郎は素直な気持ちのまま、にぱっと笑う。

 廉太郎の『家族』はバラバラになってしまったけれど、廉太郎には大切な『仲間』がいる。
 血のつながりよりもあやふやで。
 でも、心がけひとつでなによりも強い『縁』になるもの。
 廉太郎はソレを、共同住宅アパート『フェアリーゴッドマザーハウス』で、現在進行形で学んでいる。

「おうよ。あわてて走って転ばんようにな~」

「はーい」

 おしゃれなハーフヘルメットをちょいとあげて片目をつぶってみせた藤堂に元気よく返事をして、廉太郎は待ち合わせ場所へと駆け出す。
 公園に設置された時計は、待ち合わせ時間までまだ三分あるのを教えてくれている。
 急がなくてももう、遅刻する心配はない。
 でも、待ち合わせ場所のベンチの近くにはすでに、いくつかの人影があって。
 遅れたわけではなくとも、人を待たせていると思うと、廉太郎の足は自然と駆け足になった。
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