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【2話目】
遅くなってごめん!
しおりを挟む「あ、廉太郎くんだ。こっちこっち~」
「転ぶな~」
バタバタと走る足音に気がついたのだろう。
人影の中心にいた人物ーーミサキちゃんが、廉太郎に向かって大きく手を振る。
ミサキちゃんと一緒になって手を振ってくれているのは、クラスの同じグループの女の子だ。
「遅くなってごめん!」
他にも何人か人がいたけれど、廉太郎は、出迎えてくれたふたりに向かって言葉を発する。
半数が知らない顔だということもあったが、基本的に廉太郎と親しく話してくれるのはこのふたりだからだ。
「ダイジョーブ。まだ時間前じゃん。最後じゃないんだし、気にしな~い」
手を振ってくれていた女の子、篠田香が、気安げに廉太郎の肩を叩く。
女の子にしてはパワフルで、ミサキちゃんと並んでグループの中心的な人物だ。
ミサキちゃんが静なら篠田さんは動。
グループに誘ってくれたのがミサキちゃんなら、廉太郎をグループに溶け込ませてくれたのは篠田さんだ。
篠田さんは、きりりとした目元に短く刈られた髪の毛の、可愛いというよりはボーイッシュな感じの女の子だ。
ほとんど人見知りをしないタイプで、内気な廉太郎にもさらりとなじんで、今では昔からの友だちのようにふるまってくれている。
「廉ちゃんが最後かと思ってたのに、案外はやかったねー」
ついでに、身も蓋もないことをけろっと言ってのけるが、本人に悪意がないからか嫌味な感じではなく、かえって小気味良く聞こえる。
そのせいか、廉太郎は篠田さんとはごく自然体で接することができた。
「ウチの人がバイクで送ってくれたんだ」
『ウチの人』のところで照れてちょっとどもりつつ、廉太郎はにぱりと笑う。
藤堂は共同住宅の住人なのだから、ウチの人であっているーーはずだ。
オジサンも藤堂も、共同住宅の住人たちは皆、共同住宅のことを『ウチ』と呼ぶ。
住んでいる場所だから『ウチ』。
なら、共同住宅の住人は皆、『ウチの人』だ。
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