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第1章 ちびっこ怪獣三匹、異世界に降り立つ

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「なんの反応もなかったね」

 ぐったりと下草の上に座り込みながら、ユーゴが残念そうな顔をする。
 思いつく限りのことをやってみたが、どうやらこれ以上の発見はなさそうだった。

「あー。あとはもう、触ってみるくらいしかなくねえ?」

 『触っちゃう?』と、光太は脈打みゃくうつように明滅めいめつし続けている水晶玉を指差す。

「コウちゃんはまたもう……。なんで安全な場所から進んで出ていこうとするのかな」

 あやしい石の板につながった、怪しい祭壇さいだんのようなモノにはめ込まれた、怪しい水晶玉。
 普通は、自分から触ってみようだなんて思わない。

「でもまあ、思いつく限りのことはやってみたからなあ。コウちゃんの案もありだとは思うぞ。それに--……」

 ケースケは途中で言葉を切り、光太とユーゴを交互に見てから肩をすくめる。

「オレたちは、六年三組やんちゃ怪獣トリオだ」

 『六年三組やんちゃ怪獣』の名付け親は、クラスのみんなだ。
 いつもいつも騒動をおこしては先生に注意されている姿が絵本に出てくるやんちゃ怪獣みたいだと誰かが笑って、それがそのまま彼らのあだ名になった。

 絵本に出てくるやんちゃ怪獣は、騒動はおこしても、みんなの笑顔を守るために頑張っていた。

 だったら。

「だよな。だよな。やんちゃ怪獣だったらやることはひとつ。だろ?」

「まあ、そうなんだけど」

「なにがあっても、三人一緒なら大丈夫じゃないか?」

 ユーゴがしぶるのは、光太とユーゴを心配してだ。
 三人とも、自分だけならためらうことなく真っ先に、一番怪しい水晶玉を手に取っている。

 光太は、自分が突っ走ってふたりに迷惑をかけてはいけないと踏みとどまり、ケースケは、自分になにかあったらふたりが困るだろうとの判断をして手を出していなかった。
 ユーゴは、自分が欠けた場合、残ったふたりが起こすであろう行動の、最悪の事態までを考えて、怪しいモノからは遠ざかるようにしていた。

 でも、三人一緒ならどうだろう?

「しょうがないなあ。危ないと思ったらすぐ逃げる。オッケー?」

「「おう!」」

 光太が差し出した手にケースケが手を重ね、その上に、ユーゴがポン、と手を乗せる。

 六年三組やんちゃ怪獣、面目躍如。
 泣いている誰かがいるならば、突っ走るのがちびっこやんちゃ怪獣トリオのモットーだ。

「じゃあ、せーのでみんな一緒に触るよ。準備はいい?」

 重ねた手をそのまま水晶玉の上へと移動させ、お互いの目を見た三人が、こくりと頷く。

 何事も、やってみなければ結果なんてわからない。
 できることをやらないであきらめるより、やれることを全力でやった方が、失敗したって後悔は少ない。

 それに--三人いれば、大丈夫。きっとなんとかなるはずだ。

「せーのッ」

 ユーゴの声にあわせ、三人は重ねた手で水晶玉をぐっと握る。

 鬼が出るか蛇が出るか。
 中の光が満たされたタイミングで触れた水晶玉は、ひときわ明るく輝き--……光太たちだけでなく、草原一帯を白く染めあげる。

 そして--ちびっこ怪獣三人組は、自分たちが本当に異世界の地へと降り立ったことを、強制的に理解させられることとなった。

















《--------…………対象者複数の適性を確認。これより術式を展開します》
















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