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第22話 今の私の変化を、お父さんとお母さんにも見てほしかった。
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さっき机の上で触れた荒木くんの指先からの小さな感触は、私の神経を落ち着かせる電気信号のように伝わってきた。
恥ずかしくてすぐに手を引いてしまったけれど、心臓はまだ激しく脈打っている。明日香の方を盗み見ると、案の定、彼女は笑いをこらえながらこちらを観察していた。
「コホン! それじゃあ決定ね? うちのクラスはヴィンテージ風の『メイド&執事カフェ』をやります!」投票の結果を受けて、学級委員長が声を上げた。
クラス中が賛成の声を上げた。けれど、私の思考はすぐに別のところへ飛んだ。メイド? ということは、あの可愛い給仕服を着なきゃいけないの? 私は今の自分の姿を見下ろした。長めに直した制服のスカート、そして厚化粧をしていない顔。以前の「五木アイ」に戻ってしまうような感覚にならずに、私はやり遂げられるだろうか?
***
昼休み、明日香が突然自分の椅子を私の机の近くまで引き寄せた。悟もストロベリーミルクのパックを二つ持って、彼女の後ろからついてくる。
「アイちゃん! アイちゃんって呼んでもいい?」明日香が瞳を輝かせて聞いてきた。
「えっ? もちろん、明日香さん」私は緊張しながら答えた。
「明日香でいいよ! 私たち友達でしょ」彼女は満面の笑みを浮かべ、それからお弁当を開こうとし
ている荒木くんの方を向いた。
「荒木、アイちゃんを私たちのグループに誘うために、ちょっと『誘拐』しても文句ないわよね?」
荒木くんは軽く肩をすくめた。「ちっ。何を言ってるんだ明日香。彼女は俺の所有物じゃない、誰と友達になろうが彼女の自由だろ」
「むぅー……相変わらずつまんない回答」明日香が不満げにこぼした。彼女はまた私の方に向き直った。
「アイちゃん、放課後、被服室に付き合ってくれる? 祭りの衣装のサイズを測らなきゃいけないの。それと悟……あんたも来るのよ!」
「御意、お姫様」悟は明日香の頬を愛おしそうに つねりながら、気楽に答えた。
二人の、少し騒がしいけれど愛情に満ちたやり取りを見て、私は思わず微笑んでしまった。
明日香はとても感情表現が豊かだ。いつも気持ちを押し殺してしまう私とは正反対。彼女は人前でもためらわずに悟の腕を掴んだり、肩に寄りかかったりする。
「荒木くん」明日香が悟と楽しそうに話している隙に、私は小声で呼んだ。
「あんたも……執事の衣装を着るの?」荒木くんはご飯を口に運ぶ手を止めた。彼は無表情に私を見つめ、それから自分が蝶ネクタイをしたフォーマルなスーツを着ている姿を想像したらしい。
「ふむ……クラスの出し物なら、選択肢はないな。どうした? 俺のそんな姿が見たいのか?」
「ち、違うよ! そういうわけじゃ……」また顔が熱くなった。「ただ……あんたがフォーマルな格好をしてるの、見たことないから」
「アイさんが自信を持ってメイド服を着るっていうなら、俺も着るよ」彼は、クラスの騒音に紛れるほどの小さな声で囁いた。
***
放課後、布の山が積み上げられた被服室。明日香は忙しそうに私のウエストを測っていた。
「うわああ、アイちゃん! ウエスト細すぎ! このドレス、絶対似合うよ。すっごく可愛くなるって」明日香が心から褒めてくれた。
「あ……ありがとう、明日香。でも私……また昔みたいに、みんなに体型とか変なこと言われないか、ちょっと怖くて」私は亮太の侮辱を思い出し、俯いた。明日香が手を止めた。彼女は私の両肩を掴み、真剣な目で私の目を見つめた。
「アイちゃん、聞いて。あんたが綺麗なのは、今のあんたが自分自身でいるからだよ。メイクや派手な服のせいじゃない。あんたをバカにする奴がいたら、私と悟――それからもちろん、あんたの『陰気な騎士(ナイト)』様が黙ってないから!」
「陰気な騎士?」私は呆然としてから、小さく笑った。
「そうよ、荒木以外に誰がいるの! いっつも仏頂面だけど、あんたのことは誰より大事にしてるでしょ?」明日香はウィンクしてみせた。
部屋の外では、廊下の壁に寄りかかって待っている悟と荒木くんの姿が見えた。 悟は身振り手振りを交えて熱心に話し、荒木くんはそれを静かに聞いていた。
私は気づいた。私は荒木くんという「家」を見つけただけでなく、この新しい友達を通じて、もっと広い「世界」を見つけ始めているのだ。
一度は壊れてしまった自尊心が、一欠片ずつ、ゆっくりと組み直されていくのを感じる。
(お母さん、お父さん……アイに友達ができたよ。今の私を見てほしかったな……)
けれど、被服室を出た時、廊下でレナとすれ違った。彼女は何も言わなかったけれど、その冷たい眼差しは、文化祭で私の幸せをぶち壊してやると企んでいるように見えた。
恥ずかしくてすぐに手を引いてしまったけれど、心臓はまだ激しく脈打っている。明日香の方を盗み見ると、案の定、彼女は笑いをこらえながらこちらを観察していた。
「コホン! それじゃあ決定ね? うちのクラスはヴィンテージ風の『メイド&執事カフェ』をやります!」投票の結果を受けて、学級委員長が声を上げた。
クラス中が賛成の声を上げた。けれど、私の思考はすぐに別のところへ飛んだ。メイド? ということは、あの可愛い給仕服を着なきゃいけないの? 私は今の自分の姿を見下ろした。長めに直した制服のスカート、そして厚化粧をしていない顔。以前の「五木アイ」に戻ってしまうような感覚にならずに、私はやり遂げられるだろうか?
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昼休み、明日香が突然自分の椅子を私の机の近くまで引き寄せた。悟もストロベリーミルクのパックを二つ持って、彼女の後ろからついてくる。
「アイちゃん! アイちゃんって呼んでもいい?」明日香が瞳を輝かせて聞いてきた。
「えっ? もちろん、明日香さん」私は緊張しながら答えた。
「明日香でいいよ! 私たち友達でしょ」彼女は満面の笑みを浮かべ、それからお弁当を開こうとし
ている荒木くんの方を向いた。
「荒木、アイちゃんを私たちのグループに誘うために、ちょっと『誘拐』しても文句ないわよね?」
荒木くんは軽く肩をすくめた。「ちっ。何を言ってるんだ明日香。彼女は俺の所有物じゃない、誰と友達になろうが彼女の自由だろ」
「むぅー……相変わらずつまんない回答」明日香が不満げにこぼした。彼女はまた私の方に向き直った。
「アイちゃん、放課後、被服室に付き合ってくれる? 祭りの衣装のサイズを測らなきゃいけないの。それと悟……あんたも来るのよ!」
「御意、お姫様」悟は明日香の頬を愛おしそうに つねりながら、気楽に答えた。
二人の、少し騒がしいけれど愛情に満ちたやり取りを見て、私は思わず微笑んでしまった。
明日香はとても感情表現が豊かだ。いつも気持ちを押し殺してしまう私とは正反対。彼女は人前でもためらわずに悟の腕を掴んだり、肩に寄りかかったりする。
「荒木くん」明日香が悟と楽しそうに話している隙に、私は小声で呼んだ。
「あんたも……執事の衣装を着るの?」荒木くんはご飯を口に運ぶ手を止めた。彼は無表情に私を見つめ、それから自分が蝶ネクタイをしたフォーマルなスーツを着ている姿を想像したらしい。
「ふむ……クラスの出し物なら、選択肢はないな。どうした? 俺のそんな姿が見たいのか?」
「ち、違うよ! そういうわけじゃ……」また顔が熱くなった。「ただ……あんたがフォーマルな格好をしてるの、見たことないから」
「アイさんが自信を持ってメイド服を着るっていうなら、俺も着るよ」彼は、クラスの騒音に紛れるほどの小さな声で囁いた。
***
放課後、布の山が積み上げられた被服室。明日香は忙しそうに私のウエストを測っていた。
「うわああ、アイちゃん! ウエスト細すぎ! このドレス、絶対似合うよ。すっごく可愛くなるって」明日香が心から褒めてくれた。
「あ……ありがとう、明日香。でも私……また昔みたいに、みんなに体型とか変なこと言われないか、ちょっと怖くて」私は亮太の侮辱を思い出し、俯いた。明日香が手を止めた。彼女は私の両肩を掴み、真剣な目で私の目を見つめた。
「アイちゃん、聞いて。あんたが綺麗なのは、今のあんたが自分自身でいるからだよ。メイクや派手な服のせいじゃない。あんたをバカにする奴がいたら、私と悟――それからもちろん、あんたの『陰気な騎士(ナイト)』様が黙ってないから!」
「陰気な騎士?」私は呆然としてから、小さく笑った。
「そうよ、荒木以外に誰がいるの! いっつも仏頂面だけど、あんたのことは誰より大事にしてるでしょ?」明日香はウィンクしてみせた。
部屋の外では、廊下の壁に寄りかかって待っている悟と荒木くんの姿が見えた。 悟は身振り手振りを交えて熱心に話し、荒木くんはそれを静かに聞いていた。
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けれど、被服室を出た時、廊下でレナとすれ違った。彼女は何も言わなかったけれど、その冷たい眼差しは、文化祭で私の幸せをぶち壊してやると企んでいるように見えた。
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