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第一章

第十七話 求められる

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 それからも、懲りずにセスは私への奉仕を申し出た。
 拒絶しても、彼は私の前で跪き、その形の良い唇を開き、私の足の指を咥えて舐めた。
 爪先から太腿まで、唾液を滴らせて舐める彼のその姿は淫靡で、男を知らぬ私でもその姿には身体が熱くなる思いだった。

 目が見えぬはずなのに、彼は私の反応がわかるのか、笑みを浮かべている。
 まるで男娼のようだった。

 いや、実際、彼は奴隷としてその身を堕としている間、数々の主人にその身を捧げていたはずだ。

 エヴェリーナ

 小さな貴方が大好きだった、あの美しく気高い王子様はもうこの世にはいないのだ。
 目の前にいるのは、美しい蒼い目を失い、犬のように這いずり女の足の指を悦んで舐める愛玩物ペットだけ。

 元侯爵令嬢とはいえ、荒々しい男達の間で剣を振るう私にはふさわしい愛玩物かも知れない。
 
 私は手を伸ばして、彼の黄金の髪に触れた。
 その髪が、今も昔も大好きだった。

 声にならない声が呟く。

 セオルグ

 

 もし、彼の抉られた蒼い瞳が元に戻り、自分が犬のように舐めていた女が、かつての婚約者だと知ったら、彼はどんな顔をするだろう。
 私はその想像をしたことがあった。

 まず、驚くだろう。
 
 それから?

 それから、ドンと私の身体を押して、あのいつぞやの冷ややかな目で見つめるかも知れない。

 エヴェリーナ
 君はいったいどうしてここに?

 そしてなじるかも知れない。

 それ以上先は、想像できない。




 だから、今のままでいい。
 
 彼は私の愛玩物で、私のそばにいる。
 私は彼をぎゅっと抱きしめて、眠りにつく。
 大好きな黄金の髪を見つめながら、息を吐く。

 彼はそんな私に不満で、私からの愛を求めていたけれど、私はそれを与えるつもりはなかった。

 今がこれで幸せだったから。









 日々が淡々と流れていく中、三年ぶりにあの男がやって来た。
 かつて彼は、私を波乱の中に引き戻した。
 灰色の髪をした背の高い騎士、バルドゥル=レイゼンハイム。

 彼の鋭い瞳は、私を睨むように見つめる。
 

「ようやく、かの地に入れる目途がつきましたよ、お嬢様。今度はお約束通り、お付き合い願えますか」
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