12 / 52
第1章 騎士団長と不吉な黒をまとう少年
第11話 その身を手に入れる(上)
目が覚めた時、すぐ目の前にヴェルディの顔があったことに驚いた。
彼はずっと、眠っていた僕のことを見つめていたようだった。
「……」
柔らかな寝台の上に横になっている。この大きくて立派な寝台は、ヴェルディの部屋の、ヴェルディのものだった。
彼の従者である自分が横になっていいものではない。
慌てて身を起そうとする僕を、ヴェルディは手で制した。
「まだ寝ていていい」
「そんなわけにはまいりません」
「いいんだ、ルーディス」
その名を呼ばれた僕は、動きを止めた。
「…………」
じっと、彼の青い瞳を見つめる。
彼は柔らかな笑みを浮かべた。それは、かつての彼がよく見せていた表情だった。
「昨日のことは覚えていないのか、ルーディス。相変わらず、酒に呑まれる男だな」
「…………」
僕の額に汗が浮かぶ。焦ったような様子に、彼はますます笑みを深くしていた。
「学生時代と変わらないじゃないか。酒を飲んだら口が軽くなって、いい気分になって歌をうたい、眠ってしまう。お前は変わらない」
「…………僕は、ルースです」
突然ヴェルディは、僕の上にのしかかった。寝台に手を押さえつけられる。ふいの拘束に驚く。
「お前がルースであって、ルーディスであることはわかっているんだ。そうなのだろう? 過去の……ルーディスの記憶を持つルース」
僕は目を大きく見開いて、彼の真剣な顔を見上げるしかなかった。
「……どうしてわかったんですか」
観念したような声で尋ねる。
「わからない方がおかしいだろう。いつもお茶を入れてくれたお前の、その茶の味を忘れるはずがない。ロザンナだって気が付いたくらいだぞ。気が付かないと思っている方がおかしい」
「……そうなんだ」
ふいに、ヴェルディの顔が近づいた。息がかかるくらいの近さに驚く。
「なっ」
「ルーディス……お前を私のものにしたい」
「…………え?」
彼は耳元に唇を近づけ、言葉を続けた。
ヴェルディの言っている言葉がよくわからなかった。
お前を私のものにしたいって、何?
何を言っているんだ、彼は?
「前世では、お前は神に仕える身で、清らかでなければならなかった。だから、私はお前を見守るしかなかった。それで……後悔したよ。お前を失ってから、きちんと言葉にして伝えておくべきだったと」
囁く声が近い。身をよじろうにも、押さえつける男の手の力の方が強かった。
「お前を愛している、ルーディス。私のものになってくれ」
「無理です。僕は、神に仕える身です」
「もう、見習い神官ではないだろう」
確かにそうだった。
僕はあの青い色の神官服を手放していた。神殿にも足を運ぶことはない。神への愛は未だにあれど、その身はすでに神官ではなくなっていた。どこか頼りない身だった。
そして、僕は、彼の囁かれる愛の言葉に、動揺していた。
「……あなたのことは、ずっといい友人だと思っていました。恋愛対象として見たことはありません」
強張った声ではっきりと告げた言葉に、ヴェルディは小さく笑った。
「それも知っているよ、ルーディス。我が愛しの神官長殿。あなたが、神に仕える敬虔な民であることを私はずっと知っていた。でも、今はもう違う」
ヴェルディは僕の手を片手でひとまとめにした。そしてもう片方の手が腰に回る。
びくんと反応する僕の顔を見て、ヴェルディはうっそりと微笑んでいた。そんな笑みする彼を僕は今まで知らなかった。足の間に腰を進め、足が閉じられないようにされる。
手は腰から前にいき、僕の股間に触れ出した時、僕は青ざめ、身体を強張らせた。
「や……やめろ、ヴェルディ」
「清らかな神官長殿は、本当に何も知らないのだろうね。こうして触れたことはあるの? 自分で慰めたことは?」
手がズボンの前を開き、中に入る。
僕はひゅっと息を吸い込んだ。
「いやだ、ヴェルディ、やめろ!!」
下着の上から、そっと触れていく。僕は身をよじり、羞恥と屈辱に彼を睨みつけた。
「離せ」
「いやだ。お前を堕とさなければ、私はもう耐えられない」
彼がひどく苦し気な顔をしていることに、その時気が付いた。
「……どうして?」
「私の手に堕ちてくれ。私のものになるんだ、ルーディス。もう、お前を失うのは耐えられないんだ」
そして彼は唇を重ねてくる。それは驚くほどひどく優しいものだった。
啄むように重ねた後、舌が唇の間から入ってきた。
「…………ん」
切ないような、耐えるような、苦し気な彼の表情を見た時、僕は一瞬で抵抗する気持ちが消え失せた。
僕は、僕の死が、彼をどんなに深く傷つけたのか、知っていた。
神殿へ馬車に乗ってやって来た時の、あの張り詰めた様子の彼。墓石に毎年花をたむける彼。寝室の横の部屋に、絵を飾り、過去を追憶する彼。懐かしいとお茶を飲む彼。そして、泣きそうになった顔を手で隠した彼。
僕は、もう、どんなにも彼が僕のことを想っていたのか知っている。その愛が、どんなに大きくて、重くて、彼を苦しめ続けたのか。
それも十五年間も。
ああ、これは同情なのかも知れない。
この身を捧げることにより、彼の魂を少しでも慰めたいという。
きっとそうなのだろう。
彼はずっと、眠っていた僕のことを見つめていたようだった。
「……」
柔らかな寝台の上に横になっている。この大きくて立派な寝台は、ヴェルディの部屋の、ヴェルディのものだった。
彼の従者である自分が横になっていいものではない。
慌てて身を起そうとする僕を、ヴェルディは手で制した。
「まだ寝ていていい」
「そんなわけにはまいりません」
「いいんだ、ルーディス」
その名を呼ばれた僕は、動きを止めた。
「…………」
じっと、彼の青い瞳を見つめる。
彼は柔らかな笑みを浮かべた。それは、かつての彼がよく見せていた表情だった。
「昨日のことは覚えていないのか、ルーディス。相変わらず、酒に呑まれる男だな」
「…………」
僕の額に汗が浮かぶ。焦ったような様子に、彼はますます笑みを深くしていた。
「学生時代と変わらないじゃないか。酒を飲んだら口が軽くなって、いい気分になって歌をうたい、眠ってしまう。お前は変わらない」
「…………僕は、ルースです」
突然ヴェルディは、僕の上にのしかかった。寝台に手を押さえつけられる。ふいの拘束に驚く。
「お前がルースであって、ルーディスであることはわかっているんだ。そうなのだろう? 過去の……ルーディスの記憶を持つルース」
僕は目を大きく見開いて、彼の真剣な顔を見上げるしかなかった。
「……どうしてわかったんですか」
観念したような声で尋ねる。
「わからない方がおかしいだろう。いつもお茶を入れてくれたお前の、その茶の味を忘れるはずがない。ロザンナだって気が付いたくらいだぞ。気が付かないと思っている方がおかしい」
「……そうなんだ」
ふいに、ヴェルディの顔が近づいた。息がかかるくらいの近さに驚く。
「なっ」
「ルーディス……お前を私のものにしたい」
「…………え?」
彼は耳元に唇を近づけ、言葉を続けた。
ヴェルディの言っている言葉がよくわからなかった。
お前を私のものにしたいって、何?
何を言っているんだ、彼は?
「前世では、お前は神に仕える身で、清らかでなければならなかった。だから、私はお前を見守るしかなかった。それで……後悔したよ。お前を失ってから、きちんと言葉にして伝えておくべきだったと」
囁く声が近い。身をよじろうにも、押さえつける男の手の力の方が強かった。
「お前を愛している、ルーディス。私のものになってくれ」
「無理です。僕は、神に仕える身です」
「もう、見習い神官ではないだろう」
確かにそうだった。
僕はあの青い色の神官服を手放していた。神殿にも足を運ぶことはない。神への愛は未だにあれど、その身はすでに神官ではなくなっていた。どこか頼りない身だった。
そして、僕は、彼の囁かれる愛の言葉に、動揺していた。
「……あなたのことは、ずっといい友人だと思っていました。恋愛対象として見たことはありません」
強張った声ではっきりと告げた言葉に、ヴェルディは小さく笑った。
「それも知っているよ、ルーディス。我が愛しの神官長殿。あなたが、神に仕える敬虔な民であることを私はずっと知っていた。でも、今はもう違う」
ヴェルディは僕の手を片手でひとまとめにした。そしてもう片方の手が腰に回る。
びくんと反応する僕の顔を見て、ヴェルディはうっそりと微笑んでいた。そんな笑みする彼を僕は今まで知らなかった。足の間に腰を進め、足が閉じられないようにされる。
手は腰から前にいき、僕の股間に触れ出した時、僕は青ざめ、身体を強張らせた。
「や……やめろ、ヴェルディ」
「清らかな神官長殿は、本当に何も知らないのだろうね。こうして触れたことはあるの? 自分で慰めたことは?」
手がズボンの前を開き、中に入る。
僕はひゅっと息を吸い込んだ。
「いやだ、ヴェルディ、やめろ!!」
下着の上から、そっと触れていく。僕は身をよじり、羞恥と屈辱に彼を睨みつけた。
「離せ」
「いやだ。お前を堕とさなければ、私はもう耐えられない」
彼がひどく苦し気な顔をしていることに、その時気が付いた。
「……どうして?」
「私の手に堕ちてくれ。私のものになるんだ、ルーディス。もう、お前を失うのは耐えられないんだ」
そして彼は唇を重ねてくる。それは驚くほどひどく優しいものだった。
啄むように重ねた後、舌が唇の間から入ってきた。
「…………ん」
切ないような、耐えるような、苦し気な彼の表情を見た時、僕は一瞬で抵抗する気持ちが消え失せた。
僕は、僕の死が、彼をどんなに深く傷つけたのか、知っていた。
神殿へ馬車に乗ってやって来た時の、あの張り詰めた様子の彼。墓石に毎年花をたむける彼。寝室の横の部屋に、絵を飾り、過去を追憶する彼。懐かしいとお茶を飲む彼。そして、泣きそうになった顔を手で隠した彼。
僕は、もう、どんなにも彼が僕のことを想っていたのか知っている。その愛が、どんなに大きくて、重くて、彼を苦しめ続けたのか。
それも十五年間も。
ああ、これは同情なのかも知れない。
この身を捧げることにより、彼の魂を少しでも慰めたいという。
きっとそうなのだろう。
あなたにおすすめの小説
俺以外を見るのは許さないから
朝飛
BL
赤池凌平は、成瀬真介と出会い、緩やかに親交を深めてやがて恋人同士になるのだったが、時折違和感を抱いていた。
その違和感の正体が明らかになる時には、もう何もかも手遅れになってしまい……。
(女性と付き合うシーンもあります。)
※ネオページ、エブリスタにも同時掲載中。マイペースに更新します。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
溺愛アルファの完璧なる巣作り
夕凪
BL
【本編完結済】(番外編SSを追加中です)
ユリウスはその日、騎士団の任務のために赴いた異国の山中で、死にかけの子どもを拾った。
抱き上げて、すぐに気づいた。
これは僕のオメガだ、と。
ユリウスはその子どもを大事に大事に世話した。
やがてようやく死の淵から脱した子どもは、ユリウスの下で成長していくが、その子にはある特殊な事情があって……。
こんなに愛してるのにすれ違うことなんてある?というほどに溺愛するアルファと、愛されていることに気づかない薄幸オメガのお話。(になる予定)
※この作品は完全なるフィクションです。登場する人物名や国名、団体名、宗教等はすべて架空のものであり、実在のものと一切の関係はありません。
話の内容上、宗教的な描写も登場するかと思いますが、繰り返しますがフィクションです。特定の宗教に対して批判や肯定をしているわけではありません。
クラウス×エミールのスピンオフあります。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/504363362/542779091
【完結】ダンスパーティーで騎士様と。〜インテリ俺様騎士団長α×ポンコツ元ヤン転生Ω〜
亜沙美多郎
BL
前世で元ヤンキーだった橘茉優(たちばなまひろ)は、異世界に転生して数ヶ月が経っていた。初めこそ戸惑った異世界も、なんとか知り合った人の伝でホテルの料理人(とは言っても雑用係)として働くようになった。
この世界の人はとにかくパーティーが好きだ。どの会場も予約で連日埋まっている。昼でも夜でも誰かしらが綺麗に着飾ってこのホテルへと足を運んでいた。
その日は騎士団員が一般客を招いて行われる、ダンスパーティーという名の婚活パーティーが行われた。
騎士という花型の職業の上、全員αが確約されている。目をぎらつかせた女性がこぞってホテルへと押しかけていた。
中でもリアム・ラミレスという騎士団長は、訪れた女性の殆どが狙っている人気のα様だ。
茉優はリアム様が参加される日に補充員としてホールの手伝いをするよう頼まれた。
転生前はヤンキーだった茉優はまともな敬語も喋れない。
それでもトンチンカンな敬語で接客しながら、なんとか仕事をこなしていた。
リアムという男は一目でどの人物か分かった。そこにだけ人集りができている。
Ωを隠して働いている茉優は、仕事面で迷惑かけないようにとなるべく誰とも関わらずに、黙々と料理やドリンクを運んでいた。しかし、リアムが近寄って来ただけで発情してしまった。
リアムは茉優に『運命の番だ!』と言われ、ホテルの部屋に強引に連れて行かれる。襲われると思っていたが、意外にも茉優が番になると言うまでリアムからは触れてもこなかった。
いよいよ番なった二人はラミレス邸へと移動する。そこで見たのは見知らぬ美しい女性と仲睦まじく過ごすリアムだった。ショックを受けた茉優は塞ぎ込んでしまう。
しかし、その正体はなんとリアムの双子の兄弟だった。パーティーに参加していたのは弟のリアムに扮装した兄のエリアであった。
エリアの正体は公爵家の嫡男であり、後継者だった。侯爵令嬢との縁談を断る為に自分だけの番を探していたのだと言う。
弟のリアムの婚約発表のお茶会で、エリアにも番が出来たと報告しようという話になったが、当日、エリアの目を盗んで侯爵令嬢ベイリーの本性が剥き出しとなる。
お茶会の会場で下民扱いを受けた茉優だったが……。
♡読者様1300over!本当にありがとうございます♡
※独自のオメガバース設定があります。
※予告なく性描写が入ります。
婚約破棄されたから能力隠すのやめまーすw
ミクリ21
BL
婚約破棄されたエドワードは、実は秘密をもっていた。それを知らない転生ヒロインは見事に王太子をゲットした。しかし、のちにこれが王太子とヒロインのざまぁに繋がる。
軽く説明
★シンシア…乙女ゲームに転生したヒロイン。自分が主人公だと思っている。
★エドワード…転生者だけど乙女ゲームの世界だとは知らない。本当の主人公です。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。