黒に染まる

曙なつき

文字の大きさ
14 / 52
第1章 騎士団長と不吉な黒をまとう少年

第13話 王の声掛け

 僕は相変わらず、ヴェルディの側付きであったけれど、時々、彼の夜伽も務めることになった。
 毎日ではない。毎日だと、僕のような華奢な人間には負担が大きすぎるからだ。それは、執事のハンスがヴェルディに重々注意しているようだった。
 従者の立場にあるものが、主人の性欲処理のために、夜伽を務めることは、よくある話らしい。
 屋敷の執事も召使も、庭師も、僕達の関係を黙って見守っていた。
 僕はため息だった。

 
 ヴェルディは、ルーディスの魂を持ち、ルースとして生まれた僕を、まとめてルースと呼ぶことにした。
 まぁ、これまで十四年間僕はルースとして生きてきたわけだし、対外的にもルースであるのだから、十五年前に亡くなった神官長の名で僕を呼ぶことには問題があるだろう。
 ヴェルディとこのような関係になるとは、思いもよらなかった。
 学生時代、僕に邪な想いを抱く者は確かにいたし、そういう人間は、ヴェルディ達が遠ざけてくれた。
 神殿にいる頃は、僕が“聖人”ということで、そうした輩は特に近寄らせないように注意が払われていた。
 神の御前で、清く正しく生きていく。
 今まで、僕もそうして生きてきた。
 なのに、こんなことになるとは……。本当、まったく思ってもみなかった。

 寝台の上で、僕の身体を組み伏せ、唇を這わせていく。舌で舐め、甘く噛む。
 燻るような熱が身体の内に起こることが信じられなかった。
 ヴェルディの目が、欲に満ちて僕を見つめる。

「ルース」

 彼は、僕が快楽に乱れることを好んでいた。
 この身体は感じやすい。それがきつかった。耐えようとしても耐えられるものではない。
 唇を噛み締め、どんなに耐えようとシーツを鷲掴んでも、最後は堕ちてしまう。
 
 彼はひどく優しく、そして残酷にそれを僕に教え込む。
 何も知らない僕は、彼にとって赤子に等しい容易い相手だった。

 また脚を開かされ、濡れほぐれたそこに、固くそそり立った男根を咥え込ませる。

「う……ああっ」

 それが気持ちいいことは認めざるを得なかった。
 中を擦られ、いいところを責められると、僕はあっという間にイってしまう。最近は奥まで犯され、その部分で感じるように教えられた。
 逞しい男の身体の下で、僕は涙を流して啼き声をあげるしかなかった。

 

 こうまで肉欲に溺れてしまった僕は、もう神殿に戻ることはできないと思った。
 


  *



「団長」

 副官のリステルがにこにこしてヴェルディ騎士団長の傍らを歩く。
 その笑顔を怪訝そうにヴェルディは見た。

「機嫌がいいな、リステル」

「いやだって、団長がここしばらくご機嫌だから、僕らもつられて機嫌がよくなりますよ。ねぇ?」

 そう他の騎士達に話を向けると、騎士達もうなずいていた。

「……そうか」

 ヴェルディ騎士団長は、口元に手を当てて、目元を朱に染める。

「ええっ、団長が照れてる。ヤバい、照れてるよ」

 ひそひそと騎士達も話し合っている。

「いや、まぁ、その……たいしたことではない」

「団長、恋をしているんですね!!」
 
 リステルの発言に、騎士達は動きを止めた。
 え、あのいつもムッスリ不機嫌の団長が恋? 
 相手はどこの誰なんだ?
 視線がヴェルディの元に集中する。彼は口元に手を当てたまま、黙して語らず、そのまま団長室に足早に歩いていった。

「ちょっと、団長、答えてくださいよ」

 慌ててリステルは追いかけていった。


 その日の午後、ヴェルディは陛下に呼ばれた。
 若き国王ロベルトは、おかしそうな顔をしていた。
 ここはロベルトとヴェルディ、そして護衛の騎士と女官達しかいない。
 テーブルの上には茶器と菓子が並んでいる。
 じっくりとヴェルディから話を聞きたい。そんな様子の王に、ヴェルディはすっと視線を逸らしていた。

「お前が恋に落ちているという話が、宮廷中駆け巡っているぞ。相手は誰だ」

 女官が、お茶をいれる。良い薫りがたちのぼる。
 さすが王の御前に供されるだけあって、良い茶葉を使っているし、ティーカップも繊細な花の絵が絵付けされた見事なものだった。

「……どこからそのような話を聞きましたか」

「お前の副官がいたるところで吹聴しているようだ」

 ヴェルディはぎりっと奥歯を噛み締めた。
 あとで副官はキツク絞られそうだ。

 だが、問題はそこではない。ロベルトはティーカップを手に、温かな茶を口にした。

「お前は、恋などもうしないと思っていた」

「……」

 学園で同年だったロベルトは、ヴェルディの秘めた想いに気が付いていた。そしてその恋が無残にも終わったことも。

 ロベルトは晴れやかな笑みを浮かべて言った。

「だから、心から祝いたい。お前が“新しい恋”を知ったというのならば。是非、相手を紹介してくれるか」

「とんでもございません、陛下」

 ヴェルディはそう答えて頭を下げる。

「私に紹介できないような相手なのかい」

「そうですね。平民ですし、とても殿下の御前にはお連れできません」

 そして、ルースを会わせたいという気持ちはなかった。
 ルースが神官長ルーディスの魂を持つことは、誰にも知られたくなかった。

「平民なのか。どこで知り合ったんだ」

「陛下、それ以上はご勘弁ください」

 興味津々と尋ねてくる国王の言葉に、ヴェルディは困ったように眉を寄せた。
 部屋の中に詰めている女官や護衛騎士達も、澄ました顔をしながらも耳を大きくして聞いている様子が感じられる。
 不愛想な騎士団長の恋の相手を、皆知りたい気持ちでいっぱいのようだった。

「身分が低いというが、構わない。私に紹介しておくれ。一度くらい会ってみたい。私の信頼する騎士団長の恋人なのだから」

 そう国王ロベルトは言った。
感想 11

あなたにおすすめの小説

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

俺以外を見るのは許さないから

朝飛
BL
赤池凌平は、成瀬真介と出会い、緩やかに親交を深めてやがて恋人同士になるのだったが、時折違和感を抱いていた。  その違和感の正体が明らかになる時には、もう何もかも手遅れになってしまい……。 (女性と付き合うシーンもあります。) ※ネオページ、エブリスタにも同時掲載中。マイペースに更新します。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

溺愛アルファの完璧なる巣作り

夕凪
BL
【本編完結済】(番外編SSを追加中です) ユリウスはその日、騎士団の任務のために赴いた異国の山中で、死にかけの子どもを拾った。 抱き上げて、すぐに気づいた。 これは僕のオメガだ、と。 ユリウスはその子どもを大事に大事に世話した。 やがてようやく死の淵から脱した子どもは、ユリウスの下で成長していくが、その子にはある特殊な事情があって……。 こんなに愛してるのにすれ違うことなんてある?というほどに溺愛するアルファと、愛されていることに気づかない薄幸オメガのお話。(になる予定) ※この作品は完全なるフィクションです。登場する人物名や国名、団体名、宗教等はすべて架空のものであり、実在のものと一切の関係はありません。 話の内容上、宗教的な描写も登場するかと思いますが、繰り返しますがフィクションです。特定の宗教に対して批判や肯定をしているわけではありません。 クラウス×エミールのスピンオフあります。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/504363362/542779091

【完結】ダンスパーティーで騎士様と。〜インテリ俺様騎士団長α×ポンコツ元ヤン転生Ω〜

亜沙美多郎
BL
 前世で元ヤンキーだった橘茉優(たちばなまひろ)は、異世界に転生して数ヶ月が経っていた。初めこそ戸惑った異世界も、なんとか知り合った人の伝でホテルの料理人(とは言っても雑用係)として働くようになった。  この世界の人はとにかくパーティーが好きだ。どの会場も予約で連日埋まっている。昼でも夜でも誰かしらが綺麗に着飾ってこのホテルへと足を運んでいた。  その日は騎士団員が一般客を招いて行われる、ダンスパーティーという名の婚活パーティーが行われた。  騎士という花型の職業の上、全員αが確約されている。目をぎらつかせた女性がこぞってホテルへと押しかけていた。  中でもリアム・ラミレスという騎士団長は、訪れた女性の殆どが狙っている人気のα様だ。  茉優はリアム様が参加される日に補充員としてホールの手伝いをするよう頼まれた。  転生前はヤンキーだった茉優はまともな敬語も喋れない。  それでもトンチンカンな敬語で接客しながら、なんとか仕事をこなしていた。  リアムという男は一目でどの人物か分かった。そこにだけ人集りができている。  Ωを隠して働いている茉優は、仕事面で迷惑かけないようにとなるべく誰とも関わらずに、黙々と料理やドリンクを運んでいた。しかし、リアムが近寄って来ただけで発情してしまった。  リアムは茉優に『運命の番だ!』と言われ、ホテルの部屋に強引に連れて行かれる。襲われると思っていたが、意外にも茉優が番になると言うまでリアムからは触れてもこなかった。  いよいよ番なった二人はラミレス邸へと移動する。そこで見たのは見知らぬ美しい女性と仲睦まじく過ごすリアムだった。ショックを受けた茉優は塞ぎ込んでしまう。 しかし、その正体はなんとリアムの双子の兄弟だった。パーティーに参加していたのは弟のリアムに扮装した兄のエリアであった。 エリアの正体は公爵家の嫡男であり、後継者だった。侯爵令嬢との縁談を断る為に自分だけの番を探していたのだと言う。 弟のリアムの婚約発表のお茶会で、エリアにも番が出来たと報告しようという話になったが、当日、エリアの目を盗んで侯爵令嬢ベイリーの本性が剥き出しとなる。 お茶会の会場で下民扱いを受けた茉優だったが……。 ♡読者様1300over!本当にありがとうございます♡ ※独自のオメガバース設定があります。 ※予告なく性描写が入ります。

婚約破棄されたから能力隠すのやめまーすw

ミクリ21
BL
婚約破棄されたエドワードは、実は秘密をもっていた。それを知らない転生ヒロインは見事に王太子をゲットした。しかし、のちにこれが王太子とヒロインのざまぁに繋がる。 軽く説明 ★シンシア…乙女ゲームに転生したヒロイン。自分が主人公だと思っている。 ★エドワード…転生者だけど乙女ゲームの世界だとは知らない。本当の主人公です。

売れ残りオメガの従僕なる日々

灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才) ※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!  ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。  無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。