黒に染まる

曙なつき

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第1章 騎士団長と不吉な黒をまとう少年

第16話 昼食会

 国王ロベルトの子、王女にして聖女たるマリアは、非常に美しい少女だった。
 たっぷりとした蜂蜜色の髪に、淡い緑色の瞳、ふっくらとした薔薇色の頬をした彼女は、妖精のように可憐で、聖女として認定を受ける前には、妖精姫と呼ばれて愛されていた。

 今年十五歳になるという彼女は、光魔法を使い、傷ついた人間を癒すことができた。
 彼女の母親である王妃も高名な光魔法の使い手であった。当然その血を引く彼女もまた、光魔法を使うことができたわけだった。
 国王には正妃を含めて妃が五人おり、いずれも光魔法を使う娘を選んでいる。身分の高低は問わずに、妃として迎え入れたという話だった。
 それほど王は、光魔法の使い手を欲していた。

 彼自身、危惧をしていたのかも知れない。
 “ライシャ事変”で、王族が聖人の命を奪ったという事実は重く、結果的に聖女・聖人が出現しない状態が続くかもしれないということを。実際、事変が発生してから、十五年もの間、聖女・聖人が立つことはなかった。
 だから、王家はその力を持つ者を産み出せないかと考え、光魔法の使い手の娘を続々と輿入れさせたという話が密かに囁かれていた。
 

 
 ロベルト国王から招かれた昼食会の席で、近くに座ったマリア王女は、興味津々という様子でヴェルディ騎士団長に話しかけていた。

「ヴェルディ様には恋人ができたというもっぱらの噂ですわ」

 会う人みんなにその話をされるヴェルディは、いささかげんなりとしていた。
 最初に言いふらした副官のリステルが憎い。いくら首を絞めても、絞め足りないことがない。

 侯爵家出身のヴェルディは、子供の頃からロベルトの側近として過ごしていた。上に二人の王子がいたため、ロベルトが国王になることはないと思っていたが、人生何が起こるかわからないものである。
 第三王子であるロベルトは国王となり、その側近であるヴェルディは宮廷の中でも確たる地位を得ることになった。
 とはいえ、宮廷の中での椅子争いから、実力で得た騎士団長という身分の自分はだいぶ外れていると思っている。ロベルト国王には目をかけてもらっていることは確かではあったが、彼の力が無ければ得られない地位であったわけではない。だからこそ、自分は忌憚なく王に意見が言えるし、王もまたそんな自分を重用している。そのような関係だった。

「王女殿下の元まで噂が届くとは思っておりませんでした」

 ため息混じりに杯を煽ると、マリア王女は笑った。十五歳という彼女は、眩しいほどに美しい姫だった。
 彼女は小声で囁いた。

「あら、噂話はすぐに届きますわ。他にも、わたくしをヴェルディ様の許に嫁がせようという話もあったのですよ」

「ご冗談を。私は貴方様のお父上と同い年ですよ。そんな年寄りの許に、王女殿下が嫁がれるのはお可哀想です」

「政略結婚ではお歳の離れたお方に嫁ぐのはよくあることですわ。それに、わたくし、ヴェルディ様は素敵だと思っておりますもの」

「……御戯れはおよしください」

「ヴェルディ様の恋人は、わたくしよりも年下だという話を聞きましたわ」

 それに、一瞬動きを止めた。

 なぜ、ルースの年を知っている。
 ルースが恋人となった今、ヴェルディは彼を屋敷の外へ出すことは、ほとんどなくなった。以前は許していた、神殿へ行くことや、お使いに出すことを彼は禁じた。
 彼が再び、凶行に遭って命を落とすことをヴェルディは病的なほど恐れるようになっていた。

 王家には、“王家の影”と呼ばれる密偵がいる。それをまさか、放ったのだろうか。

 まさか、自分の恋人ごときに。

 ヴェルディは内心の疑いを否定して、杯を再度煽った。

「よくご存じですね、王女殿下。そうです、私の恋人は年下のかわいい子ですよ」

「どんな子なの?」

 そう問いかけたのは王女の隣の席の、末王子のキリアンだった。国王と同じ金の髪に碧眼の美しい子供だった。彼は無邪気に尋ねてくる。そして周囲の姉妹の王女達も耳を澄ましている。
 ロベルト国王には、二男四女の子供達がいた。

「優しい子ですよ。それだけです」

 マリア王女はすかさず言葉を重ねた。

「平民だって聞いているわ。ヴェルディ様がお好きになるんですもの、きっと素晴らしく綺麗な子なのでしょうね!!」

 やめてくれ。
 そんな大きな声で話すのは、どうかやめてくれ。

 その日は、離宮に暮らしている、国王の兄で王位継承権を放棄したというライト公爵も昼食会の席についていた。
 細身のライト公爵は、興味深そうにその目を光らせていた。傍らの王女方と負けず劣らず白い肌をしている公爵は、にんまりと笑っていた。

「ヴェルディ騎士団長の恋人か。是非話を聞かせてもらいたいな」

「公爵閣下にお話しできることはございません。面白い話の一つもありませんから」

「私は、君はもう、生涯恋をしないと思っていた。弟から君に恋人ができたと聞いた時には、心底驚いたよ。仰天したと言ってもいい」

 ライト公爵は、ヴェルディをじっと見つめながら話し続ける。
 
「君と私は同類だったからね」



 そう、ルーディス神官長に密かに想いを寄せていたのは、自分だけではなかった。
 このライト公爵、元は第二王子ライトも、ルーディスを愛していた。
 一時期、ライトは真剣に、ルーディスを神殿から還俗させて伴侶にしようと考えていたという。
 それは神殿から強硬な反対にあって叶うことはなかった。
 当然だった。“聖人”であるルーディスを、還俗させて、伴侶にする?
 考えられないだろう。


「同類ってなんなのですか」

 そこに食いついてきたのが、ライト公爵のそばにいる他の王女達で、ヴェルディは早く昼食会が終わることを願っていた。
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