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第1章 騎士団長と不吉な黒をまとう少年
第19話 婚姻(中)
その日、ルースは昼過ぎまで眠り続けた。
執事のハンスや、召使達から少し白い目で見られている気がする。
確かに、昨日いささか乱暴にして、無理をさせ過ぎたかも知れない。
ヴェルディは、屋敷の者達の冷たい視線を無視しながら、ルースの黒髪をそっと撫でた。
今朝方の“もう一人のルーディス”の出現のこともあり、どうにも落ち着かず、ヴェルディは今日の騎士団への出勤をとりやめた。
どちらにしろ書類仕事が溜まっていた。副官に命じて、書類の山を屋敷に運ばせて、ルースが眠る部屋で作業を進めていた。
目を覚ました彼は、いつものルースだった。そのことに少しだけ安堵しながら、彼の額をそっと撫でた。
「大丈夫か」
「……すみません、随分眠ってしまったようですね」
身を起こし、彼は小さく息をつく。ぶ厚いカーテンの向こうから昼の眩しい光が漏れていることに、困ったような顔をしていた。
「無理をさせた。すまないな」
そっと額に口づけする。
それに、ルースは顔を瞬時に赤く染めて、身体を強張らせていた。
「どうした」
「いえ、なんでもないです」
顔を別の方向に向けて、裸体にシーツを巻き付けている。
ふと、“もう一人のルーディス”が告げた言葉を思い出した。
『ルースの寝ている間に、お前がルースをいかに愛しているか、映像にして何度もあれに見せてやろう。洗脳しておいてやる』
まさかと思った。
だが、ルースが、まるで自分を意識しているように顔を真っ赤にしている様子に、そうなのだろうと思った。
“もう一人のルーディス”が眠っている彼に、どんな映像を見せたのか気になったが、これは好機だった。
ヴェルディは口元に手を当て、彼にぽつりぽつりと話しかける。
「……お前を愛しているから、ついつい無理をさせてしまう」
「…………」
シーツの中のルースがふるふると震えている。
なんだかすごくかわいかった。
「ルース、私はお前を愛している」
「…………」
「誰よりも、何よりも、心から、愛し、敬い、貞節を誓う。お前だけがすべてだ」
まるで婚礼の誓いの言葉のような真剣な響きに、彼はシーツの中から顔を上げた。
「……あなたの想いを僕は知っているよ。いまはもう、全部知っている」
「いや、まだ知らない。これからも囁こう。幾千、幾万と、この想いを」
彼の頬を両手で包み、その唇に唇をそっと重ねる。
「私の愛が永遠に続くことを」
「ヴェルディ……あなたの言葉はすごく……、女殺しだ。どうしてそんな言葉をすらすらと言えるんだ」
顔を赤らめ、ルースは目を別の方向に向けてそう言う。
「言っただろう。お前だけがすべてだと」
「…………ああ、それも……知っている」
*
夢の中で繰り返し見た、彼の僕を見つめる眼差し。胸が切なくなるほどの想いで彼は僕をずっと見つめていた。
学園の中でも、神殿の中でも、彼はずっと僕を見つめていた。それに僕は気づかなかった。
だけど、彼は秘めたる想いを胸に、僕を見つめるだけだった。
口には出せなかった。それは言ってはならないと知っていたから。
そして、白い墓標の前で静かに、声も無く彼は泣いていた。
膝まづいて、彼は神を呪っていた。
どうして、何故なのだと。
あまりの嘆き悲しみように、僕は彼を抱きしめようとしたけれど、その身が透き通り、何もつかめず、声をかけることもできず、ただそこに在るだけのことに絶望した。
そんなに悲しまないで。
僕は……再び……
*
「ルース、私とこれからも共に生きてほしい」
ルースの黒い瞳から、ぽろりと涙が零れ落ちた。
まさか泣くとは思っていなかったヴェルディは、少し慌てる様子を見せる。
そんな彼に、ルースは微笑んで言った。
「喜んで」
そして、背伸びをして、唇を重ねたのだった。
執事のハンスや、召使達から少し白い目で見られている気がする。
確かに、昨日いささか乱暴にして、無理をさせ過ぎたかも知れない。
ヴェルディは、屋敷の者達の冷たい視線を無視しながら、ルースの黒髪をそっと撫でた。
今朝方の“もう一人のルーディス”の出現のこともあり、どうにも落ち着かず、ヴェルディは今日の騎士団への出勤をとりやめた。
どちらにしろ書類仕事が溜まっていた。副官に命じて、書類の山を屋敷に運ばせて、ルースが眠る部屋で作業を進めていた。
目を覚ました彼は、いつものルースだった。そのことに少しだけ安堵しながら、彼の額をそっと撫でた。
「大丈夫か」
「……すみません、随分眠ってしまったようですね」
身を起こし、彼は小さく息をつく。ぶ厚いカーテンの向こうから昼の眩しい光が漏れていることに、困ったような顔をしていた。
「無理をさせた。すまないな」
そっと額に口づけする。
それに、ルースは顔を瞬時に赤く染めて、身体を強張らせていた。
「どうした」
「いえ、なんでもないです」
顔を別の方向に向けて、裸体にシーツを巻き付けている。
ふと、“もう一人のルーディス”が告げた言葉を思い出した。
『ルースの寝ている間に、お前がルースをいかに愛しているか、映像にして何度もあれに見せてやろう。洗脳しておいてやる』
まさかと思った。
だが、ルースが、まるで自分を意識しているように顔を真っ赤にしている様子に、そうなのだろうと思った。
“もう一人のルーディス”が眠っている彼に、どんな映像を見せたのか気になったが、これは好機だった。
ヴェルディは口元に手を当て、彼にぽつりぽつりと話しかける。
「……お前を愛しているから、ついつい無理をさせてしまう」
「…………」
シーツの中のルースがふるふると震えている。
なんだかすごくかわいかった。
「ルース、私はお前を愛している」
「…………」
「誰よりも、何よりも、心から、愛し、敬い、貞節を誓う。お前だけがすべてだ」
まるで婚礼の誓いの言葉のような真剣な響きに、彼はシーツの中から顔を上げた。
「……あなたの想いを僕は知っているよ。いまはもう、全部知っている」
「いや、まだ知らない。これからも囁こう。幾千、幾万と、この想いを」
彼の頬を両手で包み、その唇に唇をそっと重ねる。
「私の愛が永遠に続くことを」
「ヴェルディ……あなたの言葉はすごく……、女殺しだ。どうしてそんな言葉をすらすらと言えるんだ」
顔を赤らめ、ルースは目を別の方向に向けてそう言う。
「言っただろう。お前だけがすべてだと」
「…………ああ、それも……知っている」
*
夢の中で繰り返し見た、彼の僕を見つめる眼差し。胸が切なくなるほどの想いで彼は僕をずっと見つめていた。
学園の中でも、神殿の中でも、彼はずっと僕を見つめていた。それに僕は気づかなかった。
だけど、彼は秘めたる想いを胸に、僕を見つめるだけだった。
口には出せなかった。それは言ってはならないと知っていたから。
そして、白い墓標の前で静かに、声も無く彼は泣いていた。
膝まづいて、彼は神を呪っていた。
どうして、何故なのだと。
あまりの嘆き悲しみように、僕は彼を抱きしめようとしたけれど、その身が透き通り、何もつかめず、声をかけることもできず、ただそこに在るだけのことに絶望した。
そんなに悲しまないで。
僕は……再び……
*
「ルース、私とこれからも共に生きてほしい」
ルースの黒い瞳から、ぽろりと涙が零れ落ちた。
まさか泣くとは思っていなかったヴェルディは、少し慌てる様子を見せる。
そんな彼に、ルースは微笑んで言った。
「喜んで」
そして、背伸びをして、唇を重ねたのだった。
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