34 / 52
第2章 騎士団長と神の怒り
第13話 三つ頭の魔獣との闘い(中)
副官のリステルは、もうボロボロだった。剣は欠け、防具はへこみ、破れている箇所もある。
ケルベロスの尾で跳ね飛ばされた時に痛めたのか、右胸が息を吸うと痛いし、足もひきずっている。
剣を地面に突き立て、それによりかかるようにリステルは立ち上がろうとした。
手練れの同僚達がケルベロスを弱らせ、まさに倒そうとしている様子を見て、安堵していた。
剣を振るう騎士達の中には、傷だらけの騎士団長のヴェルディもいる。
彼は、怒ると怖い人だったけど、確かに強い人なのだと思った。仲間にいて心強い存在だ。
そう思いながら倒す様子を眺めている時に、森が震え、黒い鳥が一斉に灰色の空に飛び立った。
なんだろうと視線をやった時に、リステルは目を見開き、呆然と現れたソレを眺めていた。
「え……ちょっと……」
それが幻だと思い込みたかった。
そこには、二頭のケルベロスがいたのだった。
同じように、現れた魔獣を目にした騎士達は立ち尽くしていた。
ケルベロスは六つの頭を上に向け、咆哮している。
ビリビリビリと空気が震えた。黒い瘴気が猛烈な勢いで湧き上がる。
もう無理だ
さすがに
もう無理だ
聖水の効力も切れはじめている。
なんとか一頭のケルベロスを倒したと思ったところで、追加の二頭とか、冗談ではない。
あり得ない。
リステルの目が早々に諦めの光を浮かべ、彼はへたりこんだ。
どうせ死ぬなら、一口で喰われて死にたい。
噛みつかれ、生きながら貪り食われるとか、そんな死に様はいやだった。
心が折れてしまった騎士達の中で、団長だけは違った。
彼は苦しそうに歯を食いしばり、前を真っ直ぐ向いて、ケルベロスを睨みつける。
ああ、どうして団長はそんなに強いんですか。
誰もが諦めて、もはやこれまでだと心の中で呟いている中、彼だけは諦めていない。
きっと最後まで、剣を振るおうとするだろう。
もしかして、結婚したからかな。
守りたい人がいるから、心が強くなったのか。
もしも、王都に無事戻れたら、絶対に結婚しよう。
リステルは明後日の方向のことを考え、現実から逃避しようとしていた。
ヴェルディ団長は剣を構え、突進してくる二頭のケルベロスの前に立った。
ケルベロスが大きな口を開け、真っ赤な口内を晒して牙を剥き出しにしたその時、その場にいた騎士達は奇跡が起きたのを見た。
「……」
真っ白な光が辺り一面を包んだ。眩しくて目を瞑ってしまう。
そして再び開けた時、剣を構えるヴェルディ騎士団長の後ろに、長い長い銀の髪をした美しい人が現れていた。
彼の後ろから、両手を伸ばし、彼を抱きしめるように立つ。けぶる睫毛の下の瞳は、菫の花のような紫色をしていた。
裾の長い白い服を着ている。細やかな刺繍の施されたベルトを締め、胸元には銀のメダルを下げている。
気品に満ちたその姿。
年配の騎士が、囁くように呟いた。
「……ルーディス……神官長?」
その名前を知っていた。
彼を見たことがある。そう、新年の行事の際に、神殿で祝福の祝詞を唱えた、とても美しい神官長だった。
子供の頃に、ステンドグラスの前で、説法をする彼の姿を覚えている。
彼は……彼は、十五年前に亡くなっていたはず。実際、目にする彼の姿は若かった。十代後半の若者の姿だった。
銀の髪をした美しい若者は、団長の耳元で何かを囁いて、そして、睨むようにケルベロスを見つめた。
途端、空間を白い光が線のように地面を走り、地平線を走り抜けていく。それに触れた瘴気が溶けてジュワッと音を立てて消えていく。
「穢れが祓われている。浄化されているんだ!!」
リステルは喜びの声をあげた。
気が付くと、痛めたはずの胸の痛みは消え、足も痛くない。傷がみるみる小さくなっていく。
浄化の光が森の方に向かい、奥へ奥へと進み、瘴気が、穢れが散らされていく。遠くその果てまでその線は走り抜けていく。
穢れが祓われた中、立っているケルベロスはその大きさをだいぶ小さくしていた。そう、出てきた時の半分以下の大きさになっている。
「倒すぞ!!」
ヴェルディ団長は雄たけびを上げ、怪我を回復させた騎士達も続いた。剣を構えて突き進んだのだった。
ケルベロスの尾で跳ね飛ばされた時に痛めたのか、右胸が息を吸うと痛いし、足もひきずっている。
剣を地面に突き立て、それによりかかるようにリステルは立ち上がろうとした。
手練れの同僚達がケルベロスを弱らせ、まさに倒そうとしている様子を見て、安堵していた。
剣を振るう騎士達の中には、傷だらけの騎士団長のヴェルディもいる。
彼は、怒ると怖い人だったけど、確かに強い人なのだと思った。仲間にいて心強い存在だ。
そう思いながら倒す様子を眺めている時に、森が震え、黒い鳥が一斉に灰色の空に飛び立った。
なんだろうと視線をやった時に、リステルは目を見開き、呆然と現れたソレを眺めていた。
「え……ちょっと……」
それが幻だと思い込みたかった。
そこには、二頭のケルベロスがいたのだった。
同じように、現れた魔獣を目にした騎士達は立ち尽くしていた。
ケルベロスは六つの頭を上に向け、咆哮している。
ビリビリビリと空気が震えた。黒い瘴気が猛烈な勢いで湧き上がる。
もう無理だ
さすがに
もう無理だ
聖水の効力も切れはじめている。
なんとか一頭のケルベロスを倒したと思ったところで、追加の二頭とか、冗談ではない。
あり得ない。
リステルの目が早々に諦めの光を浮かべ、彼はへたりこんだ。
どうせ死ぬなら、一口で喰われて死にたい。
噛みつかれ、生きながら貪り食われるとか、そんな死に様はいやだった。
心が折れてしまった騎士達の中で、団長だけは違った。
彼は苦しそうに歯を食いしばり、前を真っ直ぐ向いて、ケルベロスを睨みつける。
ああ、どうして団長はそんなに強いんですか。
誰もが諦めて、もはやこれまでだと心の中で呟いている中、彼だけは諦めていない。
きっと最後まで、剣を振るおうとするだろう。
もしかして、結婚したからかな。
守りたい人がいるから、心が強くなったのか。
もしも、王都に無事戻れたら、絶対に結婚しよう。
リステルは明後日の方向のことを考え、現実から逃避しようとしていた。
ヴェルディ団長は剣を構え、突進してくる二頭のケルベロスの前に立った。
ケルベロスが大きな口を開け、真っ赤な口内を晒して牙を剥き出しにしたその時、その場にいた騎士達は奇跡が起きたのを見た。
「……」
真っ白な光が辺り一面を包んだ。眩しくて目を瞑ってしまう。
そして再び開けた時、剣を構えるヴェルディ騎士団長の後ろに、長い長い銀の髪をした美しい人が現れていた。
彼の後ろから、両手を伸ばし、彼を抱きしめるように立つ。けぶる睫毛の下の瞳は、菫の花のような紫色をしていた。
裾の長い白い服を着ている。細やかな刺繍の施されたベルトを締め、胸元には銀のメダルを下げている。
気品に満ちたその姿。
年配の騎士が、囁くように呟いた。
「……ルーディス……神官長?」
その名前を知っていた。
彼を見たことがある。そう、新年の行事の際に、神殿で祝福の祝詞を唱えた、とても美しい神官長だった。
子供の頃に、ステンドグラスの前で、説法をする彼の姿を覚えている。
彼は……彼は、十五年前に亡くなっていたはず。実際、目にする彼の姿は若かった。十代後半の若者の姿だった。
銀の髪をした美しい若者は、団長の耳元で何かを囁いて、そして、睨むようにケルベロスを見つめた。
途端、空間を白い光が線のように地面を走り、地平線を走り抜けていく。それに触れた瘴気が溶けてジュワッと音を立てて消えていく。
「穢れが祓われている。浄化されているんだ!!」
リステルは喜びの声をあげた。
気が付くと、痛めたはずの胸の痛みは消え、足も痛くない。傷がみるみる小さくなっていく。
浄化の光が森の方に向かい、奥へ奥へと進み、瘴気が、穢れが散らされていく。遠くその果てまでその線は走り抜けていく。
穢れが祓われた中、立っているケルベロスはその大きさをだいぶ小さくしていた。そう、出てきた時の半分以下の大きさになっている。
「倒すぞ!!」
ヴェルディ団長は雄たけびを上げ、怪我を回復させた騎士達も続いた。剣を構えて突き進んだのだった。
あなたにおすすめの小説
俺以外を見るのは許さないから
朝飛
BL
赤池凌平は、成瀬真介と出会い、緩やかに親交を深めてやがて恋人同士になるのだったが、時折違和感を抱いていた。
その違和感の正体が明らかになる時には、もう何もかも手遅れになってしまい……。
(女性と付き合うシーンもあります。)
※ネオページ、エブリスタにも同時掲載中。マイペースに更新します。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
溺愛アルファの完璧なる巣作り
夕凪
BL
【本編完結済】(番外編SSを追加中です)
ユリウスはその日、騎士団の任務のために赴いた異国の山中で、死にかけの子どもを拾った。
抱き上げて、すぐに気づいた。
これは僕のオメガだ、と。
ユリウスはその子どもを大事に大事に世話した。
やがてようやく死の淵から脱した子どもは、ユリウスの下で成長していくが、その子にはある特殊な事情があって……。
こんなに愛してるのにすれ違うことなんてある?というほどに溺愛するアルファと、愛されていることに気づかない薄幸オメガのお話。(になる予定)
※この作品は完全なるフィクションです。登場する人物名や国名、団体名、宗教等はすべて架空のものであり、実在のものと一切の関係はありません。
話の内容上、宗教的な描写も登場するかと思いますが、繰り返しますがフィクションです。特定の宗教に対して批判や肯定をしているわけではありません。
クラウス×エミールのスピンオフあります。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/504363362/542779091
【完結】ダンスパーティーで騎士様と。〜インテリ俺様騎士団長α×ポンコツ元ヤン転生Ω〜
亜沙美多郎
BL
前世で元ヤンキーだった橘茉優(たちばなまひろ)は、異世界に転生して数ヶ月が経っていた。初めこそ戸惑った異世界も、なんとか知り合った人の伝でホテルの料理人(とは言っても雑用係)として働くようになった。
この世界の人はとにかくパーティーが好きだ。どの会場も予約で連日埋まっている。昼でも夜でも誰かしらが綺麗に着飾ってこのホテルへと足を運んでいた。
その日は騎士団員が一般客を招いて行われる、ダンスパーティーという名の婚活パーティーが行われた。
騎士という花型の職業の上、全員αが確約されている。目をぎらつかせた女性がこぞってホテルへと押しかけていた。
中でもリアム・ラミレスという騎士団長は、訪れた女性の殆どが狙っている人気のα様だ。
茉優はリアム様が参加される日に補充員としてホールの手伝いをするよう頼まれた。
転生前はヤンキーだった茉優はまともな敬語も喋れない。
それでもトンチンカンな敬語で接客しながら、なんとか仕事をこなしていた。
リアムという男は一目でどの人物か分かった。そこにだけ人集りができている。
Ωを隠して働いている茉優は、仕事面で迷惑かけないようにとなるべく誰とも関わらずに、黙々と料理やドリンクを運んでいた。しかし、リアムが近寄って来ただけで発情してしまった。
リアムは茉優に『運命の番だ!』と言われ、ホテルの部屋に強引に連れて行かれる。襲われると思っていたが、意外にも茉優が番になると言うまでリアムからは触れてもこなかった。
いよいよ番なった二人はラミレス邸へと移動する。そこで見たのは見知らぬ美しい女性と仲睦まじく過ごすリアムだった。ショックを受けた茉優は塞ぎ込んでしまう。
しかし、その正体はなんとリアムの双子の兄弟だった。パーティーに参加していたのは弟のリアムに扮装した兄のエリアであった。
エリアの正体は公爵家の嫡男であり、後継者だった。侯爵令嬢との縁談を断る為に自分だけの番を探していたのだと言う。
弟のリアムの婚約発表のお茶会で、エリアにも番が出来たと報告しようという話になったが、当日、エリアの目を盗んで侯爵令嬢ベイリーの本性が剥き出しとなる。
お茶会の会場で下民扱いを受けた茉優だったが……。
♡読者様1300over!本当にありがとうございます♡
※独自のオメガバース設定があります。
※予告なく性描写が入ります。
婚約破棄されたから能力隠すのやめまーすw
ミクリ21
BL
婚約破棄されたエドワードは、実は秘密をもっていた。それを知らない転生ヒロインは見事に王太子をゲットした。しかし、のちにこれが王太子とヒロインのざまぁに繋がる。
軽く説明
★シンシア…乙女ゲームに転生したヒロイン。自分が主人公だと思っている。
★エドワード…転生者だけど乙女ゲームの世界だとは知らない。本当の主人公です。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。