黒に染まる

曙なつき

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第2章 騎士団長と神の怒り

第14話 三つ頭の魔獣との闘い(下) 

 二頭のケルベロスが現れた時、さすがに覚悟を決めた。
 聖水の効果が切れ始めていた中での、新たな敵の出現である。
 騎士達も満身創痍の中、二頭のケルベロスの出現は厳しすぎた。
 だが、呆然としている騎士達の中、私は諦めなかった。

 ここで止めなければ、魔獣は西進し、王都へ向かう。
 そうなると、王都にいるルースの身が危うい。
 刺し違えても、相手を倒さなければ。
 私は剣を構えた。



 その時、ふわりとしたものが私の頬に触れ、耳元で囁いた。

「手のかかる騎士団長殿だ」

 その声は、ルーディスのものだった。






 
 信じられなかった。
 私の後ろに、漂うようにいる彼は、かつての彼の姿をとっていた。
 長い銀の髪は腰ほどまで届くほど長く、裾の長い純白の神官服をまとい、胸には銀のメダルを下げている。
 あの、神官長の姿をとっている。

 だが、姿形こそ以前の神官長のルーディスであったが、中身は違った。どこか冷ややかに笑う彼はあの“もう一人のルーディス”だった。
 菫色の瞳でケルベロスを睨み、浄化の力をふるう。その効果は凄まじく、あれほど穢れに汚染されていた土地は、その力でみるみるうちに祓われていく。
 明らかに世界は変化していた。
 木々の緑は鮮やかになり、空気の匂いすら、清々しいものに変わっていた。

「なぜだ」

 ルースの中から現れた時には、黒髪黒目の、光すらない闇の色で現れていたのに、なぜ今は姿が違うのだと問いかけると、“もう一人のルーディス”は言った。

「お前の守り袋の、かつてのルーディスの髪を媒介に現れているからだ」

 守り袋の中の髪は、銀色をしていた。だから、かつての彼の姿をとったという。

「…………そうなのか」

「ああ。そして、今、その髪に浄化の力が込めた。騎士達に分け与えるがいい」

「絶対にいやだ」

 即、否定の言葉を言う私に、“もう一人のルーディス”は眉根を寄せた。

「それを使うことが正しい。わかったな」

 言い聞かせるような言葉だった。
 だけど、私は子供のように「いやだ」と言い続けた。
 これは、彼の遺品だった。彼の生きていた証として持っている唯一のもの。絶対に失いたくないものだった。
 最後に、彼が私にくれたものなのだ。それしか、私には残されていなかったのだ。
 だから絶対にいやだった。



 彼はしばらく私を見つめ、それから言った。

「それは諦めろ。お前にはもう、ルースがいる」

 そう言って、彼は空気に溶けるよう、姿を消した。
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