47 / 52
第3章 騎士団長と別離の言葉
第6話 死してなお絡みつく(上)
建物に近づくにつれ、特別審理官ダルクの顔は引きつって、強張ったものになっていった。
「前言を撤回します。あそこで死ぬのはいやですね」
「ほぉ、すごいのう。ここまで凄いと、お主らにも感じ取れるのではないか」
グレゴリウスの言葉に、シューマッハとヴェルディはうなずいた。
「穢れがここに広がっていますね。私でも感じ取れます。アレはマズイですよ。神殿騎士団をこちらに派遣してもらいましょうか」
「“鳥”を飛ばそう。そなたの声で、神殿騎士団に報告するといい」
グレゴリウスは閉じた掌の中に、白く小さな鳥の姿を魔法で作り上げると、それをシューマッハに差し出した。
シューマッハはその鳥に何事か報告し、鳥は空に向かって羽ばたいていった。
「便利なものがあるんですね。僕も使えたらいいのにな」
ダルクは羨ましそうに眺めていた。
「魔力がなければだめだな」
シューマッハがそう答える。魔法の“鳥”は、ある程度魔力が無ければ作ることができない。
「僕、少し魔力あるんですよね。訓練したら使えるようになるかな」
「訓練次第だろう」
「そうじゃな。訓練次第じゃ」
一行は白の離宮の手前の茂みに身を隠した。
茂みに入ると、グレゴリウスはまた閉じた掌を開き、再び白く小さな鳥を魔法で作り上げていた。
「これは、伝書以外にも使えるのじゃよ。目になる」
「…………そんなこともできるんですか」
「相当魔力がいるから、普通の人間には無理だな」
どこか呆れたようにシューマッハは言う。白髭の老人は何度も掌を閉じて開く作業をして、三羽の小さな鳥を作り上げ、それを白の離宮に向けて飛ばした。
「三羽併用とか、呆れるほどの魔力量ですね」
「元王宮魔術師だぞ。侮るな」
グレゴリウスは眉間に皺を寄せ、しばらく黙り込んでいたが、やがて言った。
「二階には公爵はいない。一階もいなさそうだな。……半地下があるのか。そこに……いそうだ」
「行こう」
逸る気持ちでヴェルディはそう言う。公爵がルーディスの魂の入った珠を持っていることが、非常に気に食わなかった。
胸にこみあげる不安感すらあった。
「出入口は一か所のようだ。神殿騎士団の応援を待った方がいいような気もするが……。まぁ、待て……もう少し“鳥”が中に入れぬか見てみる」
またしばらくの間、グレゴリウスは黙りこむ。
そして顔を上げた。心底、驚いたような顔をしていた。
口元に手を当て、彼はどこか言い淀んでいた。
「…………これは……なんというか」
「何があったんですか」
前方を見張りながら、シューマッハが問うと、グレゴリウスは言った。
「半地下の部屋はなかなかに広い。明かりをとる窓もあり、床には絨毯が敷かれ、植物の植えられた鉢がそこかしこにあった。テーブルに椅子、寝台が置かれ、そこで生活ができるようになっている」
「……誰かの部屋だったんでしょうかね」
「大きな寝台が置かれていて、そこに横たわっていたのは……」
一度、言葉を区切り、それから告げた。
「神官長のルーディスじゃった」
「…………」
ヴェルディとシューマッハは目を瞠った。
「それはどういうことですか」
「そのまんまじゃ。ルーディス神官長の遺体はここにあったんじゃよ。生きてはおらぬ。時魔法で時を止めているのじゃろうな。それらしき魔道具が寝台のそばに置かれていた。ああ、だから、聖人の御徴は十五年もの間、維持できていたのじゃろうな。彼の遺体の手に戻して、それで時を止めたまま十五年持っていたのか」
「………そのためにルーディスの遺体を十五年間も葬らずに置いていたのか……」
放心したような顔で、ヴェルディは呟く。
「…………」
それにグレゴリウスは答えなかった。
「前言を撤回します。あそこで死ぬのはいやですね」
「ほぉ、すごいのう。ここまで凄いと、お主らにも感じ取れるのではないか」
グレゴリウスの言葉に、シューマッハとヴェルディはうなずいた。
「穢れがここに広がっていますね。私でも感じ取れます。アレはマズイですよ。神殿騎士団をこちらに派遣してもらいましょうか」
「“鳥”を飛ばそう。そなたの声で、神殿騎士団に報告するといい」
グレゴリウスは閉じた掌の中に、白く小さな鳥の姿を魔法で作り上げると、それをシューマッハに差し出した。
シューマッハはその鳥に何事か報告し、鳥は空に向かって羽ばたいていった。
「便利なものがあるんですね。僕も使えたらいいのにな」
ダルクは羨ましそうに眺めていた。
「魔力がなければだめだな」
シューマッハがそう答える。魔法の“鳥”は、ある程度魔力が無ければ作ることができない。
「僕、少し魔力あるんですよね。訓練したら使えるようになるかな」
「訓練次第だろう」
「そうじゃな。訓練次第じゃ」
一行は白の離宮の手前の茂みに身を隠した。
茂みに入ると、グレゴリウスはまた閉じた掌を開き、再び白く小さな鳥を魔法で作り上げていた。
「これは、伝書以外にも使えるのじゃよ。目になる」
「…………そんなこともできるんですか」
「相当魔力がいるから、普通の人間には無理だな」
どこか呆れたようにシューマッハは言う。白髭の老人は何度も掌を閉じて開く作業をして、三羽の小さな鳥を作り上げ、それを白の離宮に向けて飛ばした。
「三羽併用とか、呆れるほどの魔力量ですね」
「元王宮魔術師だぞ。侮るな」
グレゴリウスは眉間に皺を寄せ、しばらく黙り込んでいたが、やがて言った。
「二階には公爵はいない。一階もいなさそうだな。……半地下があるのか。そこに……いそうだ」
「行こう」
逸る気持ちでヴェルディはそう言う。公爵がルーディスの魂の入った珠を持っていることが、非常に気に食わなかった。
胸にこみあげる不安感すらあった。
「出入口は一か所のようだ。神殿騎士団の応援を待った方がいいような気もするが……。まぁ、待て……もう少し“鳥”が中に入れぬか見てみる」
またしばらくの間、グレゴリウスは黙りこむ。
そして顔を上げた。心底、驚いたような顔をしていた。
口元に手を当て、彼はどこか言い淀んでいた。
「…………これは……なんというか」
「何があったんですか」
前方を見張りながら、シューマッハが問うと、グレゴリウスは言った。
「半地下の部屋はなかなかに広い。明かりをとる窓もあり、床には絨毯が敷かれ、植物の植えられた鉢がそこかしこにあった。テーブルに椅子、寝台が置かれ、そこで生活ができるようになっている」
「……誰かの部屋だったんでしょうかね」
「大きな寝台が置かれていて、そこに横たわっていたのは……」
一度、言葉を区切り、それから告げた。
「神官長のルーディスじゃった」
「…………」
ヴェルディとシューマッハは目を瞠った。
「それはどういうことですか」
「そのまんまじゃ。ルーディス神官長の遺体はここにあったんじゃよ。生きてはおらぬ。時魔法で時を止めているのじゃろうな。それらしき魔道具が寝台のそばに置かれていた。ああ、だから、聖人の御徴は十五年もの間、維持できていたのじゃろうな。彼の遺体の手に戻して、それで時を止めたまま十五年持っていたのか」
「………そのためにルーディスの遺体を十五年間も葬らずに置いていたのか……」
放心したような顔で、ヴェルディは呟く。
「…………」
それにグレゴリウスは答えなかった。
あなたにおすすめの小説
俺以外を見るのは許さないから
朝飛
BL
赤池凌平は、成瀬真介と出会い、緩やかに親交を深めてやがて恋人同士になるのだったが、時折違和感を抱いていた。
その違和感の正体が明らかになる時には、もう何もかも手遅れになってしまい……。
(女性と付き合うシーンもあります。)
※ネオページ、エブリスタにも同時掲載中。マイペースに更新します。
すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
溺愛アルファの完璧なる巣作り
夕凪
BL
【本編完結済】(番外編SSを追加中です)
ユリウスはその日、騎士団の任務のために赴いた異国の山中で、死にかけの子どもを拾った。
抱き上げて、すぐに気づいた。
これは僕のオメガだ、と。
ユリウスはその子どもを大事に大事に世話した。
やがてようやく死の淵から脱した子どもは、ユリウスの下で成長していくが、その子にはある特殊な事情があって……。
こんなに愛してるのにすれ違うことなんてある?というほどに溺愛するアルファと、愛されていることに気づかない薄幸オメガのお話。(になる予定)
※この作品は完全なるフィクションです。登場する人物名や国名、団体名、宗教等はすべて架空のものであり、実在のものと一切の関係はありません。
話の内容上、宗教的な描写も登場するかと思いますが、繰り返しますがフィクションです。特定の宗教に対して批判や肯定をしているわけではありません。
クラウス×エミールのスピンオフあります。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/504363362/542779091
【完結】ダンスパーティーで騎士様と。〜インテリ俺様騎士団長α×ポンコツ元ヤン転生Ω〜
亜沙美多郎
BL
前世で元ヤンキーだった橘茉優(たちばなまひろ)は、異世界に転生して数ヶ月が経っていた。初めこそ戸惑った異世界も、なんとか知り合った人の伝でホテルの料理人(とは言っても雑用係)として働くようになった。
この世界の人はとにかくパーティーが好きだ。どの会場も予約で連日埋まっている。昼でも夜でも誰かしらが綺麗に着飾ってこのホテルへと足を運んでいた。
その日は騎士団員が一般客を招いて行われる、ダンスパーティーという名の婚活パーティーが行われた。
騎士という花型の職業の上、全員αが確約されている。目をぎらつかせた女性がこぞってホテルへと押しかけていた。
中でもリアム・ラミレスという騎士団長は、訪れた女性の殆どが狙っている人気のα様だ。
茉優はリアム様が参加される日に補充員としてホールの手伝いをするよう頼まれた。
転生前はヤンキーだった茉優はまともな敬語も喋れない。
それでもトンチンカンな敬語で接客しながら、なんとか仕事をこなしていた。
リアムという男は一目でどの人物か分かった。そこにだけ人集りができている。
Ωを隠して働いている茉優は、仕事面で迷惑かけないようにとなるべく誰とも関わらずに、黙々と料理やドリンクを運んでいた。しかし、リアムが近寄って来ただけで発情してしまった。
リアムは茉優に『運命の番だ!』と言われ、ホテルの部屋に強引に連れて行かれる。襲われると思っていたが、意外にも茉優が番になると言うまでリアムからは触れてもこなかった。
いよいよ番なった二人はラミレス邸へと移動する。そこで見たのは見知らぬ美しい女性と仲睦まじく過ごすリアムだった。ショックを受けた茉優は塞ぎ込んでしまう。
しかし、その正体はなんとリアムの双子の兄弟だった。パーティーに参加していたのは弟のリアムに扮装した兄のエリアであった。
エリアの正体は公爵家の嫡男であり、後継者だった。侯爵令嬢との縁談を断る為に自分だけの番を探していたのだと言う。
弟のリアムの婚約発表のお茶会で、エリアにも番が出来たと報告しようという話になったが、当日、エリアの目を盗んで侯爵令嬢ベイリーの本性が剥き出しとなる。
お茶会の会場で下民扱いを受けた茉優だったが……。
♡読者様1300over!本当にありがとうございます♡
※独自のオメガバース設定があります。
※予告なく性描写が入ります。
婚約破棄されたから能力隠すのやめまーすw
ミクリ21
BL
婚約破棄されたエドワードは、実は秘密をもっていた。それを知らない転生ヒロインは見事に王太子をゲットした。しかし、のちにこれが王太子とヒロインのざまぁに繋がる。
軽く説明
★シンシア…乙女ゲームに転生したヒロイン。自分が主人公だと思っている。
★エドワード…転生者だけど乙女ゲームの世界だとは知らない。本当の主人公です。