黒に染まる

曙なつき

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第3章 騎士団長と別離の言葉

第6話 死してなお絡みつく(上)

 建物に近づくにつれ、特別審理官ダルクの顔は引きつって、強張ったものになっていった。

「前言を撤回します。あそこで死ぬのはいやですね」

「ほぉ、すごいのう。ここまで凄いと、お主らにも感じ取れるのではないか」

 グレゴリウスの言葉に、シューマッハとヴェルディはうなずいた。

「穢れがここに広がっていますね。私でも感じ取れます。アレはマズイですよ。神殿騎士団をこちらに派遣してもらいましょうか」

「“鳥”を飛ばそう。そなたの声で、神殿騎士団に報告するといい」

 グレゴリウスは閉じた掌の中に、白く小さな鳥の姿を魔法で作り上げると、それをシューマッハに差し出した。
 シューマッハはその鳥に何事か報告し、鳥は空に向かって羽ばたいていった。

「便利なものがあるんですね。僕も使えたらいいのにな」

 ダルクは羨ましそうに眺めていた。

「魔力がなければだめだな」

 シューマッハがそう答える。魔法の“鳥”は、ある程度魔力が無ければ作ることができない。

「僕、少し魔力あるんですよね。訓練したら使えるようになるかな」

「訓練次第だろう」

「そうじゃな。訓練次第じゃ」

 一行は白の離宮の手前の茂みに身を隠した。
 茂みに入ると、グレゴリウスはまた閉じた掌を開き、再び白く小さな鳥を魔法で作り上げていた。

「これは、伝書以外にも使えるのじゃよ。目になる」

「…………そんなこともできるんですか」

「相当魔力がいるから、普通の人間には無理だな」

 どこか呆れたようにシューマッハは言う。白髭の老人は何度も掌を閉じて開く作業をして、三羽の小さな鳥を作り上げ、それを白の離宮に向けて飛ばした。

「三羽併用とか、呆れるほどの魔力量ですね」

「元王宮魔術師だぞ。侮るな」

 グレゴリウスは眉間に皺を寄せ、しばらく黙り込んでいたが、やがて言った。

「二階には公爵はいない。一階もいなさそうだな。……半地下があるのか。そこに……いそうだ」

「行こう」

 逸る気持ちでヴェルディはそう言う。公爵がルーディスの魂の入った珠を持っていることが、非常に気に食わなかった。
 胸にこみあげる不安感すらあった。

「出入口は一か所のようだ。神殿騎士団の応援を待った方がいいような気もするが……。まぁ、待て……もう少し“鳥”が中に入れぬか見てみる」

 またしばらくの間、グレゴリウスは黙りこむ。
 そして顔を上げた。心底、驚いたような顔をしていた。
 口元に手を当て、彼はどこか言い淀んでいた。
 
「…………これは……なんというか」

「何があったんですか」

 前方を見張りながら、シューマッハが問うと、グレゴリウスは言った。

「半地下の部屋はなかなかに広い。明かりをとる窓もあり、床には絨毯が敷かれ、植物の植えられた鉢がそこかしこにあった。テーブルに椅子、寝台が置かれ、そこで生活ができるようになっている」

「……誰かの部屋だったんでしょうかね」

「大きな寝台が置かれていて、そこに横たわっていたのは……」

 一度、言葉を区切り、それから告げた。

「神官長のルーディスじゃった」

「…………」

 ヴェルディとシューマッハは目を瞠った。

「それはどういうことですか」

「そのまんまじゃ。ルーディス神官長の遺体はここにあったんじゃよ。生きてはおらぬ。時魔法で時を止めているのじゃろうな。それらしき魔道具が寝台のそばに置かれていた。ああ、だから、聖人の御徴は十五年もの間、維持できていたのじゃろうな。彼の遺体の手に戻して、それで時を止めたまま十五年持っていたのか」

「………そのためにルーディスの遺体を十五年間も葬らずに置いていたのか……」

 放心したような顔で、ヴェルディは呟く。

「…………」

 それにグレゴリウスは答えなかった。
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