黒に染まる

曙なつき

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第3章 騎士団長と別離の言葉

第8話 死者の手(上)

「神殿騎士団へ飛ばした“鳥”によると、どんなに急いでも白の離宮への到着まで二刻はかかるらしい。また、同時に王家への破門宣告及び王家一族の討伐もするそうじゃ」

 王家への対応に、及び腰だった神殿が急に動きだしたことに驚いた。王家の破門宣告や討伐まで動くとは思っていなかった。

「うへぇ、すごい大事ですね。内戦状態になるんじゃないですか」

 眉を寄せてダルクは言う。

「大事は大事じゃのう。さ、人目がなく行けそうじゃのう」

 グレゴリウスの“鳥”は本当に便利で、離宮にいる人間が途切れた合間合間をうかがい、先を進むことができた。
 そして、地下へ続く階段の鉄扉を開けた。鍵はかかっていなかった。

 扉を開けた瞬間、突然特別審理官のダルクが、ひどく気分が悪そうに口を押さえだした。
 視る力を持つ能力者であるダルクは、この半地下の部屋に、特に忌まわしいものを感じ取っていた。
 一歩足を進めるごとに、胸の上に何かが重さを増してのしかかってくるものを感じる。
 吐き気がひどい。

「……ああ、ここはちょっと、僕にはまずいかも知れません」

 階段の壁に手をやり、蒼白となって、ずるずるとしゃがみこむダルクに、シューマッハは「大丈夫か」と声をかけている。

「……ちょっと……しんどいので、先にいってください」

 吐き気をこらえるようにダルクを口を押さえ、壁に背中をもたれさせて座っている。
 幸いなことに、ちょうど扉と扉を繋ぐ階段部分である。離宮の住人達に気づかれにくい場所だった。

「わかった。少しここで休んでいろ。我々で先に部屋に入っている」

「……すみません、よくなったらすぐに……追いかけます」

 階段を下りていく。先の扉も鍵はかかっていなかった。
 扉の小窓から覗くと、まだ公爵ライトは寝台の横に座り、寝台に横たわるルーディスの遺体へ話しかけていた。

 扉を音を立てないように、開ける。
 先頭にヴェルディが立つ。声が彼の耳に届いた。


「ほら、ルーディス、もう少しで準備ができるよ」




 その時、後ろから、転がるようにダルクが真っ青な顔で扉を開けて駆けこんで来た。
 
「気づかれてます!! 部屋に入ってきますよ」

 ヴェルディ達が半地下の部屋に入ると同時に、入口の扉が開いて人影が見えたのだ。
 もしかして、我々が半地下の部屋に入ることを待ち伏せていた?
 今となってはわからない。
 ただ、警戒で飛ばしていた“鳥”達からの映像では捉えられていなかった。何らかの魔法的な措置を使って近寄ってきたのかもしれない。ならば、やはり待ち伏せていたのだろう。

 ダルクは慌てて、部屋に入り、入ると同時に吐き気が耐えきれずに部屋の隅にしゃがみこんで吐き始めた。
 彼がのいたその階段から、剣を手にした男達が入ろうとしてくる。
 
 シューマッハは円錐形の水晶の魔道具をかざして、精神汚染鑑定を手早く行った。そして淡々と告げた。

「全員、汚染が見られます」

「巣窟というわけか」

 苦々しい顔でヴェルディは答え、剣を抜いた。


 ライトは立ち上がると、男達に命じた。

「そいつらを全員倒せ」


 無表情で突進してくる男を、ヴェルディは抜いた剣で無造作に叩き斬った。肩から斜めに切り、大量の血潮が吹き上がる。
 だが、それでも突進してくる男に異様なモノを感じた。

「おい、不死なんじゃないか」

「不死ではない。ダメージは入っている。だが、痛覚がにぶいという話は聞いている。しばらくは動き続けるだろう」

 シューマッハの言葉に厄介だと感じて、ヴェルディは男の首を刎ねた。

「……強引だな」

「首を刎ねれば問題ないだろう」

 出入口が狭いことが幸いした。四人全員が一斉にやってくるわけではない。また剣を専門に嗜んだ者ではなかったため、騎士団長ヴェルディの敵ではなかった。やすやすと二人目、三人目と倒している様子に、ライトは立ち尽くしていた。

「くそっ」

 寝台にのぼり、ルーディスの遺体を抱きしめ、ギラギラと輝く瞳を向けている。

「邪魔するな」

 シューマッハは、ライト公爵に、精神汚染鑑定の魔道具を向ける。
 そして驚いた。

「……精神汚染を受けていないのか」

 それに、ライトは大きな声で笑った。

「ハハハハハハハッ、この私が精神汚染を受けるはずがないだろう。ちゃんと私は精神汚染を受けないように、防ぐ魔道具を身に付けていたさ。王族だからな」

「……汚染を受けずにして、お前はこんな穢れた場所にいて……周りは汚染を受けている者ばかり抱えて、おかしいだろう」

 信じられないといったようにシューマッハは呟く。
 それに、床によつんばになり、胃液まで吐いて苦しそうな様子だったダルクが、真っ青な顔を憎々し気に引きつらせて言った。

「シューマッハさん、そいつを殺して下さい!! そいつは、そいつは……人の皮を被った悪魔だ!!」

 目には涙を浮かべ、震えながら言う。

「そいつがルーディス神官長を殺したんだ!!」

 それには、ライトはくるりと振り向いて、ダルクを見つめて言った。
 瞳孔が開き切っているかのような異常な様子だった。心外だという口調で呟く。

「私は殺していないさ」

「お前が殺したも同然だろう。部屋にいる者達がそう言っている」

「…………ああ、お前は死者を視ることができるのか。まだこの部屋にはあいつらがいるのか? 死してなおも、ルーディスに仕えようとしているのか? ああ、ルーディスは素晴らしい主人だったからな。あいつらが死んだ後も、彼のそばに残ることは理解できる。ルーディスは本当に素晴らしかった」

 彼らの言葉を聞いて、シューマッハはぞくりと背筋を震わせた。
 視ることができるダルクが部屋に入るのを、吐き気がするほど嫌がっていた理由は、この部屋に死者の魂が留まっていたせいだ。
 ルーディスが素晴らしい主人だという言葉から、“ライシャ事変”の際に、犠牲になった神殿の人間だったのだろうか。

「……お前を僕は絶対に許さない。絶対に、許さない」

 ダルクは瞳から涙を流し続け、叫んでいた。

「神官長を脅すために、こいつは子供達を一人ずつ殺したんだ……孤児院からさらってきた子供達を、一人ずつ……耐えられない……こんなこと……」

「それも視えるのか。すごいな、お前は」

 ライトは感心したように言った。

「神殿からさらってきた神官どもは、さっさと自害したから、残されたのは子供しかいなかったんだ。いたいけな子供達をばらすのは、私も心が痛んだ」

「……ふざけるなよ」

 ざわりとダルクの髪が逆立った。

「いかん!!」

 グレゴリウスが手を伸ばし、ソレを止めようとしたが、ダルクの方が早かった。
 彼の瞳が炯々けいけいと輝き、呟いた。

「お前は死ね」

 そう呟いた瞬間、ライトのそばに取り巻いていた魂達が実体化した。
 それにはライトは驚愕し、目を見開き、口を可能な限り大きく開き、絶叫した。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
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