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【短編】出会い編

竜族の番

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 竜騎士を輩出する竜族には、つがいを追い求める本能がある。

 今現在、私には番はいない。
 それには正直、ほっとする思いがある。

 私には兄が二人いて、その二人ともすでに番を見つけ、共に暮らしている。
 兄達は「番はいいぞ」「番を知らぬなんて人生を損している」「そばに番がいる生活は最高だ!!」とまで言っているが、番に振り回されている二人の兄は、傍から見ると滑稽なほどだった。

 あんな風になるなら、番なんていない方がマシだ。
 
 そう思って、そのことを友人のゲランに話すと、彼は肩をすくめた。

「まぁ、番がいない人はそう思いますよね」

 そう言うゲランには番がすでにいる。
 彼は幼馴染みが番だったという幸運の人だった。
 
 竜族の中には、番に巡り合うこともなく死を迎える者もいる。
 私もそのクチだろうと思っていたし、そのことをとりたて不幸とは思っていなかった。

 ただ、周囲の者はそうは思わないようで、何かの集まりの時には私を引きずるように連れていった。

「ここで番に会えるかも知れないぞ」
「そうだ、きっとお前の番はここにいる」
「間違いない。俺の竜族の勘がそう告げている」

 と、私の手を引きながら、暑苦しいほど熱弁を奮う兄達。
 だが、これまで、そうした何かしらの会合で私は番に会ったことはなかった。

 そして、何年も時が過ぎると、兄達もあまり私の番のことを言わないようになった。

 もしかしたら、弟は、番に一生巡り合わない、そういう竜族なのかも知れない。

 その思いが、心に浮かんだのだろう。
 彼らの目には哀れみがあったが、私はとりたててそれを気にしていなかった。

 番がなんだというのだろう。
 それがなくとも、私はこうして生きていけるのだから。


 だが、ゲランは私にこう話した。

「番は、私にとって全てですね。番がいなければ、生きてはいけない。朝起きてから夜寝る時まで常にそばにいて、常に寄り添い、死が二人を分かつその時まで、私達は一緒です」

 死が二人を分かつその時まで、一緒だと
 そう言い切るゲラン。

 彼は番と出会った時、自分にとって全てだという存在の番を、すぐにわかったのだろうか。

「わかりましたよ。一目で。きっと、ゼノンもわかると思います」

 その細胞の一つ一つが歓喜の思いに包まれるはずだから。






「勇者が異世界から召喚されたらしい」

 この世界に魔王が出現し、国々を荒らし回っている中、とうとう神殿は“伝家の宝刀”を抜いた。そう、それは異世界から勇者を召喚することだった。
 召喚された勇者は恐ろしいほど強いと言われる。
 魔獣など簡単に倒し、魔王も倒すだろうと期待された。

 異世界から召喚されたのは勇者たる黒髪の少年と、聖女たる黒髪の少女だった。
 彼らが“魔王討伐の旅”に出ると決められた時、我が竜族も一族最強の竜騎士をその旅の一行に加えることが決められ、その一員として、私が選ばれた。

 正直、あまり気が進まなかった。

 だが、父たる竜族の王からの直々の依頼であるならば、それを拒否することはできない。
 私は旅支度を整え、彼らがいるという、王城へ向かった。




 王城の中に入ると、そこにはすでに旅支度を終えたらしい勇者と聖女と魔法使いの姿があった。
 どうやら、自分が最後の到着だったらしい。
 急ぎ、足を進める。

「すまない、遅れたようだ」

 そう言って、真っ直ぐ視線を向けた時、私の目が大きく見開かれた。

(え?)


 マントを羽織り、すでに聖剣を腰に佩いている勇者。どこか凛とした面差しがある。
 茶色の瞳に黒髪の、細身の勇者はまだ子供のようにも思えた。

 足が止まる。

 ゲランの言葉が蘇る。

(その細胞の一つ一つが歓喜の思いに包まれるはずだから)


「竜騎士殿? どうなされた」

 怪訝そうな表情で、魔法使いの眼鏡の男が私に声をかける。
 私が立ち尽くしていたせいだろう。
 近寄れば、私の身体が細かく震え、その緑色の目の瞳孔が縦型になっていたことに……ひどく興奮していることに気が付いただろう。



(彼だ)

(彼だ)

(私の番は彼だ)

(間違いない)

(絶対に間違いない)


 彼を目にした瞬間、自分のすべてが歓喜した。
 細胞の一つ一つが、今まで知らなかった“番”の存在を知って興奮していた。

 私はすぐに彼のそばに近寄り、その身体を強く抱き締めて、耳元で囁いた。

「私の番……」

 ぎょっとしたような勇者の表情すら、愛おしく見える。
 ああ、こんなに驚いて、なんてかわいらしい。

「ど、どこさわっているんだ、こいつ? え、旅の仲間? 嘘だろ? 変質者じゃねぇか!!」

 彼は私の手を振り払い、近くの大臣に再度、本当かと聞き直している。

「マジでこいつが仲間なの? え、神託で絶対に一緒に行かないといけない?」

 なぜか横の聖女が、赤面して、くねくねと身をくねらせているのが謎だった。
 魔法使いの男は苦笑いしている。

「まぁ、一応仲間ですので、よろしくお願いします」

 彼は礼儀正しく頭を下げる。聖女も慌ててぺこりと頭を下げた。
 ただ、勇者だけがふるふると拳を震わせ、吐き捨てるように言っていた。

「俺は認めねぇ。なんでこんなヤローが仲間なんだ。どうせなら、美女の女竜騎士を連れてこいや」

 スッと私の表情が怖いものになったのか、聖女が怯えたような表情を見せる。

「あなたに女なんて、近寄らせるはずがないでしょう」

「…………大臣さん、マジでこのホモ竜騎士を仲間にしないといけないんでしょうか」

 勇者は大臣の首の根っこを掴んで揺すり始めていた。

「いや、神託なので」

 苦しそうな顔をして大臣が答えると、勇者はキッと私を睨みつけ、言った。

「いいか、ホモ竜騎士、俺の半径二メートル圏内に近寄るな!! おい、言ってるそばからどうして近寄る!!」

「あなたは私の番なのだから、そんな我儘をきくはずが……」

 近寄った私に対して、勇者は問答無用とばかりに、無詠唱で雷撃の高位魔法を落とした。私は雷に打たれて倒れ伏す。
 黒焦げになった私を見て、聖女は真っ青な顔で悲鳴をあげていた。

「キャー、旅の仲間になんてことを!!」

 魔法使いの眼鏡の男は頭を振っていた。

 勇者は、「俺は先に行く。お前達はこいつの看病でもした後に、追いついてきてくれ」と言って城を出ていった。
 翌日には全体力を復活させた私を見て、聖女は驚き、震えていた。

「もしかして、竜騎士ってゴキ……ごほんごほん、より強いみたいね。さすが、竜騎士!! 頼もしいわ」

「麗子ちゃん、そんなことを言ったらだめだよ」

 魔法使いの男がめっというような感じで聖女を叱っていた。
 私は慌てて新しい服を着て、マントを羽織り、勇者の後を追ったのだった。




 こうして、私と勇者と、そして聖女と魔法使いの旅は始まったのだった。
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