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[挿話]

勇者へのインタビュー (3)

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 自衛隊勇者と呼ばれる佐久間柚彦に、『週刊ダンジョン』のインタビュー取材を引き受けて貰えたことには、『週刊ダンジョン』編集部員は勿論のこと編集長も小躍りしていた。
 民間雑誌に、彼のインタビュー記事が掲載されることは初めてのことだった。
 もちろん巻頭カラー記事での掲載を予定している。初回発行部数は倍に設定しなければと、編集長も営業担当と共に鼻息が荒い。
 佐久間柚彦は未婚。そして若く格好いい、実力もある、と三拍子揃っている。
 巻頭カラーは勿論のこと、ピンナップも付けましょうと言っている編集部員もいる。
 「購読用、保存用、布教用と、一人に付き三冊は売れます。もう三倍の発行部数で行きましょう!!」と目をギラつかせる営業担当が怖い。

 だが実際、佐久間柚彦にはファンが多かった。
 なにせ、未婚で、かつ恋の噂が今のところまったくない。煙も立っていない。
 若い時分から自衛隊に囲い込まれていた佐久間柚彦は、女性を一切近寄らせないように鉄壁のガードが張られていた。
 以前、“聖女”称号を持つ若い女性が、勇者である佐久間柚彦と共に魔王討伐に赴いた時、某掲示板ではその“聖女”女性への怨嗟の声が溢れていた。
 とにかく佐久間柚彦へ女性が近づくことには、ファンの女性達はキーキーと声を上げて激しく威嚇している様相があった。

(こんなに人気があるのだから、彼が結婚する時など大変だろう)

 なんとなしに同情めいた思いも、インタビュアーである編集者は持っている。
 インタビューをするに際して、佐久間柚彦の経歴を調べたのだが、彼は少年の時分に自衛隊の佐久間氏の元に引き取られていた。
 実親との関係は完全に切り離されているようで、養子縁組前の氏名について紙面に掲載することは許されていない。以前、実親のインタビューを試みた雑誌社があったそうだが、佐久間氏から実際に裁判を起こすと迫られたり、いろいろとその件についてはやりとりがあって、触れてはならないこととされている。
 佐久間氏と縁組をして以来、柚彦はその人生の全てを自衛隊に、モンスターの討伐に身を捧げているようなものだった。
 恋愛も許されず、青春時代もダンジョンに籠り切りの彼は、果たして幸せなのだろうか。

 なんとなしにインタビュアーの編集者はそんなことを思う。

 予定されているインタビューの質問内容については、事前に自衛隊広報部に流しており、内容についての承諾は得ていた。
 無難なインタビューの質問項目ばかりであった。
 その全てに柚彦が問題なく答えた後、インタビュアーの女性はほんの少しの悪戯心から彼に尋ねた。

「恋をしていますか」

 その瞬間、室内にいた広報担当の女性自衛官が予定されていなかった質問項目に憤って、「ちょっと」と制止しようと前へと歩み寄って来る。
 ただそれよりも先に、佐久間柚彦は微笑みながらハッキリと答えた。

「恋はしています」
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