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第二章 竜騎兵団の見習い
第一話 見送り
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アルバート王子は十歳になり、彼は紫竜ルーシェを連れて竜騎兵団へ旅立った。
少年王子のそばには、護衛を務める騎士バンナム、そして魔術師レネがいる。
竜騎兵団のある北方は、極寒の地である。
冬ともなれば雪に覆いつくされる北方地方の、さらに山脈沿いにある竜騎兵団の拠点。
雪解けの春を迎えたとしてもまだまだ肌寒い。
レネはその細い身体に何枚も防寒具を巻きつけ、着ぶくれした姿で現れた。
それを見て、リヨンネは笑い転げていた。
「そんな恰好で竜に乗っていくんですか。いやはや、雪だるまが竜に乗っているみたいに見えますよ」
リヨンネはわざわざ、アルバート王子達が竜騎兵団へ向かう時に見送りに来てくれた。
マリアンヌ王女も同行を望んでいたが、遠い北方地方であるからして、彼女と母親のマルグリッド妃は王宮から王子の出立を見送り、時間のある学者リヨンネは竜騎兵団の麓の村までわざわざ見送りのために来てくれたのだ。
そしてそこで、着ぶくれしているレネを見て笑い声を上げていたというわけだった。
「そんなに笑うことはないでしょう、リヨンネ先生、失礼ですよ」
怒った口調のレネを前にしても、リヨンネは笑っていた。
そしてアルバート王子の身支度の手伝いをしているバンナムに声をかける。
「レネ先生は竜騎兵団は初めてです。バンナム卿、お手数をかけますが、レネ先生のことをお願いします。レネ先生はあそこでは右も左も分からないでしょうから」
何故そこでバンナム卿に声をかけるんだ!!
そうレネが思っている前で、心優しく真面目なその騎士は「はい、分かりました」と返事をしている。
その返事を聞いてなおもリヨンネがニマニマとしているのが腹立たしかった。
絶対にこの男は、面白がっている。
レネが赤くなっている様子に、バンナムが近づいてきて「レネ先生、やはり少し着すぎではありませんか」と言って、上着の一枚を脱がせようとしていたので、更にレネは慌てて真っ赤になっていた。
それを見てリヨンネは、部屋の壁を叩くようにして笑っていた。
竜騎兵団がある山から、竜騎兵達が竜に跨ってやって来た。
今、アルバート王子達がいるのは竜騎兵団の拠点に最も近い村であり、この村には竜騎兵団へ運ぶ物資を入れておくための一時的な倉庫と待合所が設けられている。
その待合所にアルバート王子達はいたのだった。
王宮まで迎えに来るという話もあったが、王子はそれを断った。
出来るだけ他の竜騎兵の見習い達と同じような待遇でありたかったからだ。
すでに、アルバート王子が護衛騎士バンナムと魔術師のレネを伴っていること自体が特別な扱いであり、さらには竜騎兵団の寮でも個室が与えられることになっている。通常見習いは、見習い同士の相部屋であった。
王族の一員が、竜騎兵団の竜騎兵になるのは初めてのことである。
齢九歳で、生まれたばかりの紫竜に選ばれるということも今までにない出来事であったが、十歳の入寮までの一年間、時間が稼げたという点では、竜騎兵団側にとっても王族を迎え入れる準備のための時間がとれたことで良かったと思われていた。
村の待合所に姿を現したのは、副騎兵団長のエイベルであった。
以前、王子はウラノス騎兵団長のいる団長室で、エイベル副騎兵団長にも会ったことがある。その時にも驚いた記憶があった。
平民出身だというその副騎兵団長は、貴族的な美貌の持ち主だったのだ。ウラノス騎兵団長はいかつい、いかにも武道に長けた筋骨逞しい男であった。そのウラノスは伯爵家の嫡男である。だかこういってはなんだが、平民出身のエイベル副騎兵団長の方こそ貴族出身だといっても良い雰囲気を持っていた。
長い銀の髪を後ろに結わえ、スラリとした肢体を軍衣に包む副騎兵団長の登場に、レネも少し驚いていた。
彼はアルバート王子に一礼した後、一行を運ぶという他の竜騎兵達を紹介した。
話を聞くアルバート王子の胸元には、以前来た時と同じように斜めに掛けた布袋の中に小さく姿を変えた紫竜を入れている。
紫竜は大人しくしていた。
また今回も、アルバート王子は彼を運んでくれるという竜騎兵の竜の背に設置された四角い籠の中に座る。
今回はエイベル副騎兵団長の竜が、彼を運んでくれるらしい。
そして前回同様、護衛騎士バンナムは、弟の竜騎兵ベイグラムの竜の鞍に命綱と共に跨り、レネは別の竜の背にバンナムと同じように、命綱を付けて鞍に座ることになった。
命綱を付けると聞いて、レネは真っ青になっていた。
自分を運んでくれる竜騎兵に尋ねる。
「このロープが命綱なんですか。切れたりとかしませんよね」
「大丈夫です。滅多に切れません」
滅多にって、切れたことがあるの!?
涙目のレネの肩に、リヨンネが優しく手を置いた。
「大丈夫です。先生はたくさん着込んでいますから、もしロープが切れても、命は助かるでしょう」
そんな意地悪なことを言って、レネにポカポカと叩かれているのだった。
三人三様で迎えにやって来た竜の背に跨ったところで、リヨンネは別れの挨拶を述べた。
「皆さん、お身体に気を付けてお元気でお過ごしください」
それに、いつも意地悪なことばかり言われているレネでさえも目元を潤ませた。
リヨンネとこの場で別れれば、竜騎兵団に赴くレネは、二年間会うことが出来なくなるかも知れないのだ。
「リヨンネ先生もお元気で。今まで大変お世話になりました」
「本当ですよ」
実際、レネの背中をいつもグイグイと押していたのはリヨンネだった。
彼が背中を押してくれたから、レネはバンナム卿に酒の席の誘いをすることが出来た。その後の飲み場所の選定だってお世話になった。さらには気になるバンナム卿の過去の話まで、リヨンネはどこからか聞いてきてくれたのだ。
今回のレネの北方行きだって、リヨンネの後押しのおかげだった。
リヨンネとレネはしばらくの間、静かに見つめ合う。
「……リヨンネ先生、本当にありがとうございました」
「そんなシリアスに言われると、湿っぽくなるから嫌だな。レネ先生、明るく言って下さい」
「だって、貴方としばらく会えなくなるかと思うと、いくら私だって悲しいですよ」
その言葉に、リヨンネはニヤリと笑った。
「来月には会えます」
「………………………え?」
レネが目を丸くしていると、その驚きの表情がツボであったのか、またリヨンネは笑い声を上げていた。
「野生竜の定点観測地に行く予定があるんです。来月、竜騎兵団の拠点にも立ち寄りますのでよろしくお願いします」
「は? 何ですか、それは。私の御礼の言葉を返して下さい。皆さんは知っていましたか」
レネの問いかけに、バンナムとアルバート王子は頷いていた。
少しだけ済まなそうにバンナムが言った。
「リヨンネ先生から内緒にするように言われて。申し訳ありません」
「なっ、なっ、なんで私にだけ内緒にする必要があるんですか!!!!」
「おそらく、レネ先生のその反応が見たくてしたことだと」
アルバート王子が冷静にそう答えた。レネがリヨンネの方を向いて何かまくしたてようとしたところで、いい加減二人のやりとりに時間がかかっていることに痺れを切らした竜騎兵達が、竜を飛び立たせる。
「うわ、うわわわわわ」
慌ててレネは自分の前の、竜の背に跨る竜騎兵の背中にしがみつき、叫んだ。
「リヨンネ先生えぇぇぇぇぇ!!」
彼の名を叫ぶ声が、遠く尾を引いて聞こえた。
そしてバッサバッサと音を立てて羽ばたいていく竜を見送り、リヨンネは手を振っていた。
彼らの姿が点のようになり、やがて見えなくなると、やはりリヨンネは少しだけ寂しそうにしていた。
なんやかんやとレネのことが気に入っているリヨンネ。
彼には是非、バンナム卿とくっついて欲しいと願う一方で、いつまでも恋する乙女のように真っ赤になって、動揺するレネをこれから先も眺めていたい気持ちもある。
彼らの様子を見るため、竜騎兵団の拠点にすぐにいけないのが残念だ。
でも、少しだけそれにホッとする思いもある。
(紫竜の姿は見られなかった)
袋から顔も出さなかったので、おそらく、アルバート王子の肩から斜めに掛けられた布袋の中で、丸くなったまま眠ってしまったのだろう。
王子は、紫竜ルーシェが胸元の袋の中に入ると、人肌の温かさに安心してよく眠ってしまうと話していた。
紫竜の姿を見られなくて残念だったが、一方でそれでよかったのかも知れないと思っていた。
リヨンネは、自分がレネのことを馬鹿に出来ないと思う気持ちがあった。
リヨンネは、自覚していた。
成竜となったルーシェは、神々しいまでに美しかった。
今まで一度として見たことのない、美しく優雅な竜。
一瞬たりとも目が離せないほど、それは素晴らしい竜だった。
あたかもまるで、それは一目で恋に堕ちたかのように、リヨンネは成長したあの紫竜に魅了されていた。
それがマズイという気持ちが、リヨンネにもあった。
すでに人間のパートナーを選んだ竜である。
それも貴重な紫竜。
その竜が、今後、王子以外の人間をパートナーに選ぶことはない。
竜の人間のパートナーを選ぶ力はとても強いもので、他人が竜に想いを寄せても、パートナーを選択した後の竜の心は決して揺るがない。もう決して、他のパートナーを選ぶことはないのだ。そのことを竜の生態学者であるリヨンネほど理解している者はいなかった。
そう、この想いは無駄なのだ。
絶対に叶うことのない想いなのだ。
それに、人の姿であるならまだしも、人外である成竜に想いを寄せるというのはおかしいだろう。
しばらくあの紫色の小さな竜とは距離を置いて、この感情が鎮まるまで待とう。
そう思う一方で、北方地方の野生竜の定点観測地に行く仕事に、リヨンネは率先して手を挙げていた。
理性では押しとどめられないその感情。
実際、王宮魔術師として優秀であったレネでさえも、恋をしたらあんな風になってしまっている。
(恋は人を愚かにするとは、よく言ったものだ)
まったくもって、リヨンネはそう思うのだ。
少年王子のそばには、護衛を務める騎士バンナム、そして魔術師レネがいる。
竜騎兵団のある北方は、極寒の地である。
冬ともなれば雪に覆いつくされる北方地方の、さらに山脈沿いにある竜騎兵団の拠点。
雪解けの春を迎えたとしてもまだまだ肌寒い。
レネはその細い身体に何枚も防寒具を巻きつけ、着ぶくれした姿で現れた。
それを見て、リヨンネは笑い転げていた。
「そんな恰好で竜に乗っていくんですか。いやはや、雪だるまが竜に乗っているみたいに見えますよ」
リヨンネはわざわざ、アルバート王子達が竜騎兵団へ向かう時に見送りに来てくれた。
マリアンヌ王女も同行を望んでいたが、遠い北方地方であるからして、彼女と母親のマルグリッド妃は王宮から王子の出立を見送り、時間のある学者リヨンネは竜騎兵団の麓の村までわざわざ見送りのために来てくれたのだ。
そしてそこで、着ぶくれしているレネを見て笑い声を上げていたというわけだった。
「そんなに笑うことはないでしょう、リヨンネ先生、失礼ですよ」
怒った口調のレネを前にしても、リヨンネは笑っていた。
そしてアルバート王子の身支度の手伝いをしているバンナムに声をかける。
「レネ先生は竜騎兵団は初めてです。バンナム卿、お手数をかけますが、レネ先生のことをお願いします。レネ先生はあそこでは右も左も分からないでしょうから」
何故そこでバンナム卿に声をかけるんだ!!
そうレネが思っている前で、心優しく真面目なその騎士は「はい、分かりました」と返事をしている。
その返事を聞いてなおもリヨンネがニマニマとしているのが腹立たしかった。
絶対にこの男は、面白がっている。
レネが赤くなっている様子に、バンナムが近づいてきて「レネ先生、やはり少し着すぎではありませんか」と言って、上着の一枚を脱がせようとしていたので、更にレネは慌てて真っ赤になっていた。
それを見てリヨンネは、部屋の壁を叩くようにして笑っていた。
竜騎兵団がある山から、竜騎兵達が竜に跨ってやって来た。
今、アルバート王子達がいるのは竜騎兵団の拠点に最も近い村であり、この村には竜騎兵団へ運ぶ物資を入れておくための一時的な倉庫と待合所が設けられている。
その待合所にアルバート王子達はいたのだった。
王宮まで迎えに来るという話もあったが、王子はそれを断った。
出来るだけ他の竜騎兵の見習い達と同じような待遇でありたかったからだ。
すでに、アルバート王子が護衛騎士バンナムと魔術師のレネを伴っていること自体が特別な扱いであり、さらには竜騎兵団の寮でも個室が与えられることになっている。通常見習いは、見習い同士の相部屋であった。
王族の一員が、竜騎兵団の竜騎兵になるのは初めてのことである。
齢九歳で、生まれたばかりの紫竜に選ばれるということも今までにない出来事であったが、十歳の入寮までの一年間、時間が稼げたという点では、竜騎兵団側にとっても王族を迎え入れる準備のための時間がとれたことで良かったと思われていた。
村の待合所に姿を現したのは、副騎兵団長のエイベルであった。
以前、王子はウラノス騎兵団長のいる団長室で、エイベル副騎兵団長にも会ったことがある。その時にも驚いた記憶があった。
平民出身だというその副騎兵団長は、貴族的な美貌の持ち主だったのだ。ウラノス騎兵団長はいかつい、いかにも武道に長けた筋骨逞しい男であった。そのウラノスは伯爵家の嫡男である。だかこういってはなんだが、平民出身のエイベル副騎兵団長の方こそ貴族出身だといっても良い雰囲気を持っていた。
長い銀の髪を後ろに結わえ、スラリとした肢体を軍衣に包む副騎兵団長の登場に、レネも少し驚いていた。
彼はアルバート王子に一礼した後、一行を運ぶという他の竜騎兵達を紹介した。
話を聞くアルバート王子の胸元には、以前来た時と同じように斜めに掛けた布袋の中に小さく姿を変えた紫竜を入れている。
紫竜は大人しくしていた。
また今回も、アルバート王子は彼を運んでくれるという竜騎兵の竜の背に設置された四角い籠の中に座る。
今回はエイベル副騎兵団長の竜が、彼を運んでくれるらしい。
そして前回同様、護衛騎士バンナムは、弟の竜騎兵ベイグラムの竜の鞍に命綱と共に跨り、レネは別の竜の背にバンナムと同じように、命綱を付けて鞍に座ることになった。
命綱を付けると聞いて、レネは真っ青になっていた。
自分を運んでくれる竜騎兵に尋ねる。
「このロープが命綱なんですか。切れたりとかしませんよね」
「大丈夫です。滅多に切れません」
滅多にって、切れたことがあるの!?
涙目のレネの肩に、リヨンネが優しく手を置いた。
「大丈夫です。先生はたくさん着込んでいますから、もしロープが切れても、命は助かるでしょう」
そんな意地悪なことを言って、レネにポカポカと叩かれているのだった。
三人三様で迎えにやって来た竜の背に跨ったところで、リヨンネは別れの挨拶を述べた。
「皆さん、お身体に気を付けてお元気でお過ごしください」
それに、いつも意地悪なことばかり言われているレネでさえも目元を潤ませた。
リヨンネとこの場で別れれば、竜騎兵団に赴くレネは、二年間会うことが出来なくなるかも知れないのだ。
「リヨンネ先生もお元気で。今まで大変お世話になりました」
「本当ですよ」
実際、レネの背中をいつもグイグイと押していたのはリヨンネだった。
彼が背中を押してくれたから、レネはバンナム卿に酒の席の誘いをすることが出来た。その後の飲み場所の選定だってお世話になった。さらには気になるバンナム卿の過去の話まで、リヨンネはどこからか聞いてきてくれたのだ。
今回のレネの北方行きだって、リヨンネの後押しのおかげだった。
リヨンネとレネはしばらくの間、静かに見つめ合う。
「……リヨンネ先生、本当にありがとうございました」
「そんなシリアスに言われると、湿っぽくなるから嫌だな。レネ先生、明るく言って下さい」
「だって、貴方としばらく会えなくなるかと思うと、いくら私だって悲しいですよ」
その言葉に、リヨンネはニヤリと笑った。
「来月には会えます」
「………………………え?」
レネが目を丸くしていると、その驚きの表情がツボであったのか、またリヨンネは笑い声を上げていた。
「野生竜の定点観測地に行く予定があるんです。来月、竜騎兵団の拠点にも立ち寄りますのでよろしくお願いします」
「は? 何ですか、それは。私の御礼の言葉を返して下さい。皆さんは知っていましたか」
レネの問いかけに、バンナムとアルバート王子は頷いていた。
少しだけ済まなそうにバンナムが言った。
「リヨンネ先生から内緒にするように言われて。申し訳ありません」
「なっ、なっ、なんで私にだけ内緒にする必要があるんですか!!!!」
「おそらく、レネ先生のその反応が見たくてしたことだと」
アルバート王子が冷静にそう答えた。レネがリヨンネの方を向いて何かまくしたてようとしたところで、いい加減二人のやりとりに時間がかかっていることに痺れを切らした竜騎兵達が、竜を飛び立たせる。
「うわ、うわわわわわ」
慌ててレネは自分の前の、竜の背に跨る竜騎兵の背中にしがみつき、叫んだ。
「リヨンネ先生えぇぇぇぇぇ!!」
彼の名を叫ぶ声が、遠く尾を引いて聞こえた。
そしてバッサバッサと音を立てて羽ばたいていく竜を見送り、リヨンネは手を振っていた。
彼らの姿が点のようになり、やがて見えなくなると、やはりリヨンネは少しだけ寂しそうにしていた。
なんやかんやとレネのことが気に入っているリヨンネ。
彼には是非、バンナム卿とくっついて欲しいと願う一方で、いつまでも恋する乙女のように真っ赤になって、動揺するレネをこれから先も眺めていたい気持ちもある。
彼らの様子を見るため、竜騎兵団の拠点にすぐにいけないのが残念だ。
でも、少しだけそれにホッとする思いもある。
(紫竜の姿は見られなかった)
袋から顔も出さなかったので、おそらく、アルバート王子の肩から斜めに掛けられた布袋の中で、丸くなったまま眠ってしまったのだろう。
王子は、紫竜ルーシェが胸元の袋の中に入ると、人肌の温かさに安心してよく眠ってしまうと話していた。
紫竜の姿を見られなくて残念だったが、一方でそれでよかったのかも知れないと思っていた。
リヨンネは、自分がレネのことを馬鹿に出来ないと思う気持ちがあった。
リヨンネは、自覚していた。
成竜となったルーシェは、神々しいまでに美しかった。
今まで一度として見たことのない、美しく優雅な竜。
一瞬たりとも目が離せないほど、それは素晴らしい竜だった。
あたかもまるで、それは一目で恋に堕ちたかのように、リヨンネは成長したあの紫竜に魅了されていた。
それがマズイという気持ちが、リヨンネにもあった。
すでに人間のパートナーを選んだ竜である。
それも貴重な紫竜。
その竜が、今後、王子以外の人間をパートナーに選ぶことはない。
竜の人間のパートナーを選ぶ力はとても強いもので、他人が竜に想いを寄せても、パートナーを選択した後の竜の心は決して揺るがない。もう決して、他のパートナーを選ぶことはないのだ。そのことを竜の生態学者であるリヨンネほど理解している者はいなかった。
そう、この想いは無駄なのだ。
絶対に叶うことのない想いなのだ。
それに、人の姿であるならまだしも、人外である成竜に想いを寄せるというのはおかしいだろう。
しばらくあの紫色の小さな竜とは距離を置いて、この感情が鎮まるまで待とう。
そう思う一方で、北方地方の野生竜の定点観測地に行く仕事に、リヨンネは率先して手を挙げていた。
理性では押しとどめられないその感情。
実際、王宮魔術師として優秀であったレネでさえも、恋をしたらあんな風になってしまっている。
(恋は人を愚かにするとは、よく言ったものだ)
まったくもって、リヨンネはそう思うのだ。
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