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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第九章 蝶の夢(上)
第十九話 上書きされる記憶
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黄金竜ウェイズリーの息子である、黄金竜ルドガーが、シルヴェスターの居室にかけられていた結界を解いた。それゆえ、白銀竜エリザヴェータとコンラートは、二人揃って扉をくぐり、するすると何ら問題なくシルヴェスターのいる寝台まで行くことが出来た。
寝台の上で、シルヴェスターは目を伏せ、眠っているように横たわっている。エリザヴェータはその枕元まで近寄ると、どこかウットリとした眼差しで、若く美しい王の姿を見下ろしていた。
白銀竜であるその若い女は、そっと手を伸ばしてシルヴェスターの頬に触れた。
彼の精神は今、黄金竜ウェイズリーと“融合”しようとしている。
そこにエリザヴェータは干渉した。
そして、シルヴェスターの中の黄金竜ウェイズリーの精神を摘まみ上げ(彼の力は、ユーリスを守るために分けられたため、通常の三分の二にまで減じられていた。それゆえ、エリザヴェータは黄金竜ウェイズリーの精神に干渉できた)、シルヴェスターの精神と“融合”しつつあったそれを再度、引き剥がし、それからウェイズリーのその精神を別の場所に閉じ込めた。閉じ込めた場所をぐるぐると重い鎖で巻きつけ、現れることのないようにする。
そして人の子の魂を持っていたシルヴェスターにも、エリザヴェータは手を伸ばした。
エリザヴェータは、一目、シルヴェスターを見た時から彼をとても気に入っていた。
初めて会った時、唇から零れた「どうかわたくしどもを、殿下のお側に置いて頂きとうございます」という言葉は、彼女の本心から出たものだった。
輝く黄金に碧眼の、見目麗しい王子。それが、再び会った時には、ゴルティニア王国の国王にまで昇りつめていた。それはそうだろう。彼は力ある勇猛果敢な黄金竜であったから、王の座に就くのは当然だ。
エリザヴェータと弟のコンラートが、仕えるにふさわしい王。
白銀竜の力で、さらに国が富むようにさせなければならない。
そう、白銀竜はこの若き王に仕えることを望むのだ。
それを拒否できぬように、エリザヴェータはシルヴェスターの精神に手を加えた。
その昔からそばにいて、彼に忠実に仕えていたのは、エリザヴェータとコンラートなのだ。シルヴェスターのそばにいたのは、ユーリスという伴侶ではない。ユーリスは、シルヴェスターの友人でもなく、恋人でもない。そのように、ユーリスに関する記憶の全てを書き換えていく。ユーリスの記憶を消し去ることは残念ながら出来ない。シルヴェスターの現在は、過去の上に成り立っているからだ。消し去ることによって、シルヴェスターの精神の安定さが損なわれてしまう。だから、ユーリスの記憶があった場所に、次々とエリザヴェータとコンラートは別の捏造した記憶を上書きしていく。
だが、黄金竜ウェイズリーの番であり、シルヴェスターの伴侶の位置に、エリザヴェータの存在を置くことは残念ながら出来なかった。番は、黄金竜にとって絶対なのだ。そこに偽りの記憶を押し込めれば、それもまたシルヴェスターの精神の安定さを損なってしまう。
だから、エリザヴェータはシルヴェスターの、忠実な僕で、信頼のおける友と定めた。
とりあえず、今はそうしておくしかない。
だが、エリザヴェータをそばに置くことになれば、そのうちきっと、シルヴェスターはエリザヴェータに近しい感情を覚えるようになるだろう。
なぜなら、シルヴェスターは番であるユーリスの記憶全てを失うのだから。
シルヴェスターの精神に上書きを重ねていくことには随分と時間がかかった。
当初、三日で居室から出るとシルヴェスターの口から伝えられていたが、エリザヴェータ達がシルヴェスターの精神に触れ、上書きする時間がかかったため、彼が王城の居室にとじこもった時間は三日から大幅に伸びて、十日近くになっていた。
当然その間、王城の人々は王の安否を心配したが、ルドガー王子が皆の心配をなだめ、シルヴェスターの無事を伝える。なんとかなだめられていた人々の前に、ようやくシルヴェスターが居室から現れた時、彼は出迎えた者達の前に、うねるように長い銀の髪を持つ乙女と、銀の髪の少年を引き連れていた。
当然のように、頭を上げ、王のそばに控える銀の髪の乙女と少年を、シルヴェスターは王城の者達に紹介した。
「私の親愛なる友であり、誰よりも忠実な部下であるエリザヴェータとコンラートを紹介しよう。彼らは白銀竜だ」
突然現れた新たな竜の名に、王城の人々は驚く。
そしてその人々の前で、エリザヴェータは銀色の瞳を輝かせ、微笑みを浮かべながら、呪いの言葉を王城に居る人々すべてにかけたのだった。
こうして、ゴルティニア王国の王と王城にいる者達は、白銀竜の姉弟の手の中に落ちていったのだった。
寝台の上で、シルヴェスターは目を伏せ、眠っているように横たわっている。エリザヴェータはその枕元まで近寄ると、どこかウットリとした眼差しで、若く美しい王の姿を見下ろしていた。
白銀竜であるその若い女は、そっと手を伸ばしてシルヴェスターの頬に触れた。
彼の精神は今、黄金竜ウェイズリーと“融合”しようとしている。
そこにエリザヴェータは干渉した。
そして、シルヴェスターの中の黄金竜ウェイズリーの精神を摘まみ上げ(彼の力は、ユーリスを守るために分けられたため、通常の三分の二にまで減じられていた。それゆえ、エリザヴェータは黄金竜ウェイズリーの精神に干渉できた)、シルヴェスターの精神と“融合”しつつあったそれを再度、引き剥がし、それからウェイズリーのその精神を別の場所に閉じ込めた。閉じ込めた場所をぐるぐると重い鎖で巻きつけ、現れることのないようにする。
そして人の子の魂を持っていたシルヴェスターにも、エリザヴェータは手を伸ばした。
エリザヴェータは、一目、シルヴェスターを見た時から彼をとても気に入っていた。
初めて会った時、唇から零れた「どうかわたくしどもを、殿下のお側に置いて頂きとうございます」という言葉は、彼女の本心から出たものだった。
輝く黄金に碧眼の、見目麗しい王子。それが、再び会った時には、ゴルティニア王国の国王にまで昇りつめていた。それはそうだろう。彼は力ある勇猛果敢な黄金竜であったから、王の座に就くのは当然だ。
エリザヴェータと弟のコンラートが、仕えるにふさわしい王。
白銀竜の力で、さらに国が富むようにさせなければならない。
そう、白銀竜はこの若き王に仕えることを望むのだ。
それを拒否できぬように、エリザヴェータはシルヴェスターの精神に手を加えた。
その昔からそばにいて、彼に忠実に仕えていたのは、エリザヴェータとコンラートなのだ。シルヴェスターのそばにいたのは、ユーリスという伴侶ではない。ユーリスは、シルヴェスターの友人でもなく、恋人でもない。そのように、ユーリスに関する記憶の全てを書き換えていく。ユーリスの記憶を消し去ることは残念ながら出来ない。シルヴェスターの現在は、過去の上に成り立っているからだ。消し去ることによって、シルヴェスターの精神の安定さが損なわれてしまう。だから、ユーリスの記憶があった場所に、次々とエリザヴェータとコンラートは別の捏造した記憶を上書きしていく。
だが、黄金竜ウェイズリーの番であり、シルヴェスターの伴侶の位置に、エリザヴェータの存在を置くことは残念ながら出来なかった。番は、黄金竜にとって絶対なのだ。そこに偽りの記憶を押し込めれば、それもまたシルヴェスターの精神の安定さを損なってしまう。
だから、エリザヴェータはシルヴェスターの、忠実な僕で、信頼のおける友と定めた。
とりあえず、今はそうしておくしかない。
だが、エリザヴェータをそばに置くことになれば、そのうちきっと、シルヴェスターはエリザヴェータに近しい感情を覚えるようになるだろう。
なぜなら、シルヴェスターは番であるユーリスの記憶全てを失うのだから。
シルヴェスターの精神に上書きを重ねていくことには随分と時間がかかった。
当初、三日で居室から出るとシルヴェスターの口から伝えられていたが、エリザヴェータ達がシルヴェスターの精神に触れ、上書きする時間がかかったため、彼が王城の居室にとじこもった時間は三日から大幅に伸びて、十日近くになっていた。
当然その間、王城の人々は王の安否を心配したが、ルドガー王子が皆の心配をなだめ、シルヴェスターの無事を伝える。なんとかなだめられていた人々の前に、ようやくシルヴェスターが居室から現れた時、彼は出迎えた者達の前に、うねるように長い銀の髪を持つ乙女と、銀の髪の少年を引き連れていた。
当然のように、頭を上げ、王のそばに控える銀の髪の乙女と少年を、シルヴェスターは王城の者達に紹介した。
「私の親愛なる友であり、誰よりも忠実な部下であるエリザヴェータとコンラートを紹介しよう。彼らは白銀竜だ」
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そしてその人々の前で、エリザヴェータは銀色の瞳を輝かせ、微笑みを浮かべながら、呪いの言葉を王城に居る人々すべてにかけたのだった。
こうして、ゴルティニア王国の王と王城にいる者達は、白銀竜の姉弟の手の中に落ちていったのだった。
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