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外伝 その王子と恋に落ちたら大変です 第九章 蝶の夢(上)
第二十話 国土防衛
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十日ぶりに目覚めたゴルティニア王国シルヴェスター国王が、まずしたことの一つに、王国の北東プトレイセン王国への対応があった。
シルヴェスター国王が人前から姿を消したという話は、幾ら隠そうとしても隠しきれず、ゴルティニア王国の異変としてその話は静かに各国へ広がっていた。そのことを好機として、ゴルティニア王国北東のプトレイセン王国、プトレイセン王国の北に位置するイーサ王国とフェルゼナ王国の三か国が、プトレイセン王国からゴルティニア王国へ流入した難民の保護を目的に、ゴルティニア王国の国境を越えて侵攻した。
当然のように、ゴルティニア王国軍が三か国の軍に応戦する。
本来ならば、国を守る黄金竜が、ゴルティニア王国の国土への侵入を許すはずもなかった。だがこの時、黄金竜の“金色の芽”が現れて敵兵を駆逐することはなかった。それも、シルヴェスター国王が姿を見せなくなった時と同時期であったため、異変に対して王国の人々も不安におびえる様子を見せた。
国王不在の中、国境地域を守るゴルティニア王国軍は果敢に三か国と戦い続けた。それでも押し込まれるような様子で苦戦を見せ始めた時に、ようやく、目覚めたシルヴェスター国王が人々の前に姿を現わしたのだった。
シルヴェスター国王の前で、白銀竜の化身だというエリザヴェータと、その弟コンラートは、赤い絨毯の上で膝をつき、頭を下げながら、国王に進言した。
ゴルティニア王国に害する国の始末を、どうか自分達に任せて欲しいと。
その進言をシルヴェスター国王は受け入れた。
王城の、重臣達や貴族の居並ぶ前で、エリザヴェータとコンラートは銀の鱗を輝かせる竜の姿にその身を変え、次の瞬間には、消え去った。
シルヴェスター国王は、玉座に座ったまま、半刻ほど待った。
そして次にエリザヴェータとコンラートが白銀竜の姿で現れた時、二頭は口から、血に塗れた王冠を絨毯の上に落として見せた。見事な細工の王冠が無造作にゴロリゴロリと転がり落ちる。
それも三つもの王冠だった。
まさかというような眼差しで見遣る重臣達の前で、エリザヴェータとコンラートは再び人の姿に戻り、シルヴェスター国王の前で報告した。
「プトレイセン王国、イーサ王国、フェルゼナ王国の王達の冠です。三か国の王族達は憂いなきよう、すべて始末して参りました。ここに」
コンラートは、懐から書状を取り出して捧げ持って宣言した。
「三か国の無条件降伏文書があります」
しんと、玉座の間は静まり返る。
驚きと、恐怖の眼差しで、人々は白銀竜エリザヴェータとコンラートの姿を凝視している。
たった半刻の間に、目の前の白銀竜の化身達は、プトレイセン王国、イーサ王国、フェルゼナ王国の王族達すべてを始末したというのだ。ゴルティニア王国国境軍が苦戦している報告を受けている中での、敵国王族の殲滅である。無条件降伏文書があるということは、これにて戦の終了でもある。
本来ならば、ゴルティニア王国の勝利に、皆、喝采の声を上げるところだったろう。
しかし、今、王城の中は声もなく静まり返る。声を上げてしまったら、それは慄きのような響きを帯びてしまうことを恐れているかのように、息を潜めている。
エリザヴェータとコンラートは、人間達のそのような様子など、微塵も気にしていなかった。
所詮、彼らは自分達とまったく違う、人間という弱い生き物だからだ。気に掛ける必要など一切ない。
エリザヴェータとコンラートにとって大切なのは、国王たるシルヴェスターの存在だけだった。
彼のために尽くしたい、彼を喜ばせたい、彼から褒めて認めてもらいたい。
その一心で、エリザヴェータとコンラートは人間の国の敵の王達を殺してきたのだ。
プトレイセン王国、イーサ王国、フェルゼナ王国の三か国の城の中は、男も女も子供も老人も全て、殺され、生きている者は一人もいない。王達は命乞いをしたが、降伏文書を書かせた後はすべて容赦なく殺害した。一度でもゴルティニア国王シルヴェスターに逆らった者など、許しておくことは出来なかったからだ。
三か国の王達の血に塗れた冠と、降伏文書を一瞥して、シルヴェスター国王は「ご苦労だった」と白銀竜達を労わった。
恭しく頭を下げるエリザヴェータとコンラート。
シルヴェスターは官僚達に、降伏文書を渡し、その後の処理について進めさせる。
その時、頭の奥の方で、ズキンと痛みが走った。
誰かの声がした。
『それはだめだ』
『たとえ君が大陸の全てを征服したとしても、そこに住む人々すべてに対して責任は持てないだろう』
優しくも厳しく、言い聞かせる声。たしなめる声。
それが一体、誰の声なのか分からない。
ただ、その声を聞いたことがあった。
よく知っている、懐かしい声だとも思った。
『そんな簡単な話じゃないんだよ』
その言葉に、自分は反駁した。嗚呼、あの時、反駁したのは自分だったのだろうか。
よく分からない。
『でも、そんなことがお出来にならないことは貴方もよくお分かりでしょう』
誰がそんなことを言ったのか、思い出せない。
どうしても。
ただ、思い出そうとすると、頭が痛くて仕方なかった。
シルヴェスター国王が人前から姿を消したという話は、幾ら隠そうとしても隠しきれず、ゴルティニア王国の異変としてその話は静かに各国へ広がっていた。そのことを好機として、ゴルティニア王国北東のプトレイセン王国、プトレイセン王国の北に位置するイーサ王国とフェルゼナ王国の三か国が、プトレイセン王国からゴルティニア王国へ流入した難民の保護を目的に、ゴルティニア王国の国境を越えて侵攻した。
当然のように、ゴルティニア王国軍が三か国の軍に応戦する。
本来ならば、国を守る黄金竜が、ゴルティニア王国の国土への侵入を許すはずもなかった。だがこの時、黄金竜の“金色の芽”が現れて敵兵を駆逐することはなかった。それも、シルヴェスター国王が姿を見せなくなった時と同時期であったため、異変に対して王国の人々も不安におびえる様子を見せた。
国王不在の中、国境地域を守るゴルティニア王国軍は果敢に三か国と戦い続けた。それでも押し込まれるような様子で苦戦を見せ始めた時に、ようやく、目覚めたシルヴェスター国王が人々の前に姿を現わしたのだった。
シルヴェスター国王の前で、白銀竜の化身だというエリザヴェータと、その弟コンラートは、赤い絨毯の上で膝をつき、頭を下げながら、国王に進言した。
ゴルティニア王国に害する国の始末を、どうか自分達に任せて欲しいと。
その進言をシルヴェスター国王は受け入れた。
王城の、重臣達や貴族の居並ぶ前で、エリザヴェータとコンラートは銀の鱗を輝かせる竜の姿にその身を変え、次の瞬間には、消え去った。
シルヴェスター国王は、玉座に座ったまま、半刻ほど待った。
そして次にエリザヴェータとコンラートが白銀竜の姿で現れた時、二頭は口から、血に塗れた王冠を絨毯の上に落として見せた。見事な細工の王冠が無造作にゴロリゴロリと転がり落ちる。
それも三つもの王冠だった。
まさかというような眼差しで見遣る重臣達の前で、エリザヴェータとコンラートは再び人の姿に戻り、シルヴェスター国王の前で報告した。
「プトレイセン王国、イーサ王国、フェルゼナ王国の王達の冠です。三か国の王族達は憂いなきよう、すべて始末して参りました。ここに」
コンラートは、懐から書状を取り出して捧げ持って宣言した。
「三か国の無条件降伏文書があります」
しんと、玉座の間は静まり返る。
驚きと、恐怖の眼差しで、人々は白銀竜エリザヴェータとコンラートの姿を凝視している。
たった半刻の間に、目の前の白銀竜の化身達は、プトレイセン王国、イーサ王国、フェルゼナ王国の王族達すべてを始末したというのだ。ゴルティニア王国国境軍が苦戦している報告を受けている中での、敵国王族の殲滅である。無条件降伏文書があるということは、これにて戦の終了でもある。
本来ならば、ゴルティニア王国の勝利に、皆、喝采の声を上げるところだったろう。
しかし、今、王城の中は声もなく静まり返る。声を上げてしまったら、それは慄きのような響きを帯びてしまうことを恐れているかのように、息を潜めている。
エリザヴェータとコンラートは、人間達のそのような様子など、微塵も気にしていなかった。
所詮、彼らは自分達とまったく違う、人間という弱い生き物だからだ。気に掛ける必要など一切ない。
エリザヴェータとコンラートにとって大切なのは、国王たるシルヴェスターの存在だけだった。
彼のために尽くしたい、彼を喜ばせたい、彼から褒めて認めてもらいたい。
その一心で、エリザヴェータとコンラートは人間の国の敵の王達を殺してきたのだ。
プトレイセン王国、イーサ王国、フェルゼナ王国の三か国の城の中は、男も女も子供も老人も全て、殺され、生きている者は一人もいない。王達は命乞いをしたが、降伏文書を書かせた後はすべて容赦なく殺害した。一度でもゴルティニア国王シルヴェスターに逆らった者など、許しておくことは出来なかったからだ。
三か国の王達の血に塗れた冠と、降伏文書を一瞥して、シルヴェスター国王は「ご苦労だった」と白銀竜達を労わった。
恭しく頭を下げるエリザヴェータとコンラート。
シルヴェスターは官僚達に、降伏文書を渡し、その後の処理について進めさせる。
その時、頭の奥の方で、ズキンと痛みが走った。
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『それはだめだ』
『たとえ君が大陸の全てを征服したとしても、そこに住む人々すべてに対して責任は持てないだろう』
優しくも厳しく、言い聞かせる声。たしなめる声。
それが一体、誰の声なのか分からない。
ただ、その声を聞いたことがあった。
よく知っている、懐かしい声だとも思った。
『そんな簡単な話じゃないんだよ』
その言葉に、自分は反駁した。嗚呼、あの時、反駁したのは自分だったのだろうか。
よく分からない。
『でも、そんなことがお出来にならないことは貴方もよくお分かりでしょう』
誰がそんなことを言ったのか、思い出せない。
どうしても。
ただ、思い出そうとすると、頭が痛くて仕方なかった。
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