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留学生
第57話 呼吸
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「その格好で戦う気か?」
前方に立つ巨漢――ゲオルギオスが眉根を顰める。
自分の能力を知っていながら何故?
そう言いたげだ。
「この戦いはリベンジだからな。可能な限り、同条件で戦いたかったのさ」
「なるほど、戦士としての矜持か」
「そんないい物じゃない」
矜持どころか、こだわりですらない。
気分的にそうしたいからする。
その程度の事だった。
もし本気で条件を合わせる気なら、そもそも水中戦の訓練をする事自体アウトだ。
鍛え直すならともかく、ピンポイントで水中戦対策の訓練をするのはどう考えても同じ条件とは言えないだろう。
だからと言って、対策なしでもう一度戦ってもまた負けるのは目に見ていた。
戦うからには勝ちを目指したい。
その為に、私は鏡に師事を仰いだのだ。
勝つために足掻く。
そこに矜持などという崇高な物はない。
制服を着て戦うのは、本当に気分の問題だけだった。
「開始!」
時間が来て、氷部が勝負開始の合図を送る。
私はゲオルギオスへと、ゆっくり歩いて近づいた。
槍が届くか届かないかの間合い。
そこで私は歩みを止める。
ここは奴の――水の領域の間合いだ。
「いいのか?」
「言っただろう。出来るだけ同じ条件で戦うと」
相手は水中戦を得意とする。
本来なら間合いを離し、闘気による遠距離戦をしかけるのが正道だろう。
だがそれでは意味がない。
せっかく鏡に鍛えて貰ったのだ。
相手の得意とする水中戦にて、奴を倒す。
「そうか、ならば遠慮はしない」
ゲオルギオスの全身から水が溢れ出す。
それは球体となって私達を包み込んだ。
私はその直前に大きく息を吐きだし、全身に闘気を巡らせた。
今の私に酸素は必要ない。
むしろ邪魔だ。
闘気を血中に巡らせ、酸素の代わりを務めさせる。
前回の戦いで私が敗れた要因の一つ。
それは水中での活動時間だった。
私の場合、通常なら10分ほど。
戦闘なら2-3分が限界だ。
前回の戦いにおいて、ゲオルギオスは息を乱さず顔色ひとつ変えていなかったと言う。
鏡の見立てでは、奴の水中での活動時間は10分を超えるそうだ。
動きでも差があるうえに、活動限界にまで差があったのでは話しにならない。
その打開策が――闘気を酸素の代わりにするという物だった。
原理は鏡自身にも分かっていないらしいが、酸素の無い状態で全身に闘気を巡らせると、何故か闘気が酸素の代わりをしてくれるのだ。
自らの生み出した闘気というエネルギーが、肉体を維持するための代謝に変わる。
これにより、肉体は呼吸を必要としなくなる。
正に永久機関だ。
まあそれは言い過ぎか。
体を維持できるとはいえ、闘気を生み出し続けるのだ。
当然スタミナは消耗してしまう。
今の私が戦いながら全身に闘気を巡らせ続ける事が出来るのは、精々30分がいい所だ。
だがそれでも以前の10倍はある。
活動時間としては十分だ。
因みに、鏡は24時間呼吸しなくても余裕だそうだ。
それを聞いた時、思わず「こいつ本当に人間か?」と疑ってしまった。
とにかく、奴は全てにおいて規格外だ。
荒木真央との戦いを見て分かってはいた事だが、それを改めて痛感させられる。
いつか私もあいつの様に……っと、今は目の前の戦いに集中するとしよう、
「……」
「……」
前回は直ぐに動き出したゲオルギオスだが、今回は動かず、此方の様子を見ている。
リベンジマッチ。
しかも此方は避ける事無く相手の得意な水中戦を受けているのだ。
警戒するのは当然の事だろう。
――よし、行くか。
今回は前回の様な厳しい時間的制限がないとはいえ、睨めっこしていても埒が明かない。
今回は此方から仕掛けさせて貰う。
私は手の中に槍を生み出した。
さあ勝負だ!
前方に立つ巨漢――ゲオルギオスが眉根を顰める。
自分の能力を知っていながら何故?
そう言いたげだ。
「この戦いはリベンジだからな。可能な限り、同条件で戦いたかったのさ」
「なるほど、戦士としての矜持か」
「そんないい物じゃない」
矜持どころか、こだわりですらない。
気分的にそうしたいからする。
その程度の事だった。
もし本気で条件を合わせる気なら、そもそも水中戦の訓練をする事自体アウトだ。
鍛え直すならともかく、ピンポイントで水中戦対策の訓練をするのはどう考えても同じ条件とは言えないだろう。
だからと言って、対策なしでもう一度戦ってもまた負けるのは目に見ていた。
戦うからには勝ちを目指したい。
その為に、私は鏡に師事を仰いだのだ。
勝つために足掻く。
そこに矜持などという崇高な物はない。
制服を着て戦うのは、本当に気分の問題だけだった。
「開始!」
時間が来て、氷部が勝負開始の合図を送る。
私はゲオルギオスへと、ゆっくり歩いて近づいた。
槍が届くか届かないかの間合い。
そこで私は歩みを止める。
ここは奴の――水の領域の間合いだ。
「いいのか?」
「言っただろう。出来るだけ同じ条件で戦うと」
相手は水中戦を得意とする。
本来なら間合いを離し、闘気による遠距離戦をしかけるのが正道だろう。
だがそれでは意味がない。
せっかく鏡に鍛えて貰ったのだ。
相手の得意とする水中戦にて、奴を倒す。
「そうか、ならば遠慮はしない」
ゲオルギオスの全身から水が溢れ出す。
それは球体となって私達を包み込んだ。
私はその直前に大きく息を吐きだし、全身に闘気を巡らせた。
今の私に酸素は必要ない。
むしろ邪魔だ。
闘気を血中に巡らせ、酸素の代わりを務めさせる。
前回の戦いで私が敗れた要因の一つ。
それは水中での活動時間だった。
私の場合、通常なら10分ほど。
戦闘なら2-3分が限界だ。
前回の戦いにおいて、ゲオルギオスは息を乱さず顔色ひとつ変えていなかったと言う。
鏡の見立てでは、奴の水中での活動時間は10分を超えるそうだ。
動きでも差があるうえに、活動限界にまで差があったのでは話しにならない。
その打開策が――闘気を酸素の代わりにするという物だった。
原理は鏡自身にも分かっていないらしいが、酸素の無い状態で全身に闘気を巡らせると、何故か闘気が酸素の代わりをしてくれるのだ。
自らの生み出した闘気というエネルギーが、肉体を維持するための代謝に変わる。
これにより、肉体は呼吸を必要としなくなる。
正に永久機関だ。
まあそれは言い過ぎか。
体を維持できるとはいえ、闘気を生み出し続けるのだ。
当然スタミナは消耗してしまう。
今の私が戦いながら全身に闘気を巡らせ続ける事が出来るのは、精々30分がいい所だ。
だがそれでも以前の10倍はある。
活動時間としては十分だ。
因みに、鏡は24時間呼吸しなくても余裕だそうだ。
それを聞いた時、思わず「こいつ本当に人間か?」と疑ってしまった。
とにかく、奴は全てにおいて規格外だ。
荒木真央との戦いを見て分かってはいた事だが、それを改めて痛感させられる。
いつか私もあいつの様に……っと、今は目の前の戦いに集中するとしよう、
「……」
「……」
前回は直ぐに動き出したゲオルギオスだが、今回は動かず、此方の様子を見ている。
リベンジマッチ。
しかも此方は避ける事無く相手の得意な水中戦を受けているのだ。
警戒するのは当然の事だろう。
――よし、行くか。
今回は前回の様な厳しい時間的制限がないとはいえ、睨めっこしていても埒が明かない。
今回は此方から仕掛けさせて貰う。
私は手の中に槍を生み出した。
さあ勝負だ!
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