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ネメシス
第78話 冗談
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「やっとか……」
ギフテッド学園からヘリで移動し、途中空港で小型のプライベートジェット機に乗り換え移動していた。
話によると、荒木真央が4歳の誕生日に祖父から買って貰った物だそうだ。
ジェット機をポンと孫の誕生日にプレゼントするとは、流石真央グループだけはある。
そこからジェット機で約4程時間。
やっと目的の場所にたどり着いたのか、機体はゆっくりと見知らぬ場所に着陸する。
――そこは小さな空港だった。
周囲に現代的な建物は見当たらない。
発着場が荒野のど真ん中にある感じだ。
乗っていた時間的に、日本じゃないだろうとは思うが……
「どこだここは?」
ジェット機から降りた俺は、唯一の同行者である茨城恵子に尋ねてみた。
俺は何も知らされず連れてこられたが、流石に彼女はここがどこかぐらいは知っているだろう。
「日本の南西にある、トウタンという小さな国よ」
「トウタン……知らんな」
まあ俺の場合、知っている国の方が少ない訳だが。
メジャー所でないのだけは、貧乏くさい名前から理解は出来た。
しかし荒木真央は、こんな場所で俺に何をさせるつもりだ?
俺向きの仕事がある。
そう言われて連れてこられた訳だが、さっぱり分からない。
「ここが目的地なのか?」
「まだよ。目的地へはここからバギーに乗って向かうわ」
「バギーか。乗り心地が悪そうだな」
バギーと言えば悪路を行く乗り物のイメージがある。
当然そんな物に、快適な乗り心地は期待できないだろう。
名門の出である俺がそんな乗り物で移動する羽目になるとはな……我ながら落ちぶれたものだ
「我慢しなさい。仕事の為よ」
「いいだろう」
不満を口にしたら、茨城恵子に睨まれてしまった。
まあ仕方がない。
今は我慢するとしよう。
全ては四条家に戻る為だ。
そのためなら、どのような辛酸苦渋も乗り越えてみせる。
「しかし……酷い道だな」
用意されていたバギーは造りがしっかりした、見るからに頑丈そうな代物だった。
まあ真央グループが用意した物なのだから、その辺りは当然の事――安物は使わない――なのだろうが、だがどれだけしっかりした物でも所詮はバギーだ。
乗り心地は予想通り最悪だった。
しかも整備された車道はすぐに終わり、ガタガタの路を延々走る始末。
プラーナで肉体を強化しているので尻が痛くなる様な事はないが、余りにも揺れが酷くて落ち着かない。
「それで?俺はここで何をすればいいんだ?」
ヘリでは荒木真央が配下の人間とチンプンカンプンの難しい話をしていたので、俺は余計な事は聞かずに黙っていた。
ジェットの中では、茨城が早々に寝てしまったのでこれまた話を聞けていない。
まあそのうち相手から話すだろうと思っていたのだが、バギーに乗って1時間。
中々茨城が口を開こうとしないので、仕方なく自分から聞いてみる。
正直、自分から尋ねるのは少し小物感が出てしまうので嫌だったのだが……
流石にいつまでも自分がする事を知らないままというのも、気分が良くないからな。
「ある拠点の制圧よ」
「制圧?」
まあ自分向きの仕事なのだから戦闘関連だとは予想出来てはいたが、それがまさか国外で何かを制圧する物だとは夢にも思わなかった。
「誘拐組織が拠点としていた場所が判明したの。そこを制圧するのが私達の仕事よ」
「何故俺達が?」
誘拐はまあ……犯罪ではある。
それを組織的に行う奴らが居るのなら、それは由々しき事だろう。
だがそういう物は政府が何とかするものだ。
日本ならともかく、外国の誘拐組織を俺達が制圧に出向く意味が分からない。
「相手は、貴方にブースターを渡した例の組織だからよ」
「あいつらが!?」
成程、納得がいった。
学園にちょっかいをかけている以上、それはその支配者である荒木真央に喧嘩を売っているに等しいからな。
どうやら組織の奴らは、彼女を本気で怒らせてしまっている様だ。
「ふん、組織には借りがある。一暴れさせて貰おう」
元はと言えば、俺が四条家を放逐されたのは奴らのせいだ。
組織が接触さえしてこなければ、こんな状態にはなっていない。
――そう、全て奴らが悪いんだ。
「おい茨城。全員半殺しぐらいにしても構わないよな?」
纏めてボコボコにしてやる。
俺を陥れてくれたお礼だ。
「何を馬鹿な事を言ってるの?」
「ちっ」
ダメな様だ。
学園に薬をばら撒き、更に誘拐までしている様な相手だというのに。
随分と甘い事だ。
まあだが、少しぐらいボコボコにしても――
「一人を残して皆殺しよ」
「へっ?」
「そこを仕切っているリーダー以外は、皆殺しと言ったのよ。まあそれも出来たらの話だけど」
こいつマジか?
拠点というからには、そこそこの人数がいるはずだ。
それを全部殺す?
この俺が?
大量殺人だぞ?
ああ、そうか――
「ふ、お前の口から冗談を聞くとはな。だが大量殺人というのは、少々趣味が悪いぞ」
他所の国で大虐殺など、流石の俺にもそれが冗談だという事は分かる。
以前から無口で暗い奴だとは思っていたが、まさかこんな黒いジョークを口にする女だったとはな。
驚かせてくれるものだ。
やるじゃないか。
「貴方は一つ大きな勘違いをしているわ。これから制圧に向かう場所は――」
それまで明後日の方向を向き、此方を見向きもしなかった茨木が俺の方を向く。
「魔物の住処よ」
そう呟いた彼女の目は、真剣そのものだった。
ギフテッド学園からヘリで移動し、途中空港で小型のプライベートジェット機に乗り換え移動していた。
話によると、荒木真央が4歳の誕生日に祖父から買って貰った物だそうだ。
ジェット機をポンと孫の誕生日にプレゼントするとは、流石真央グループだけはある。
そこからジェット機で約4程時間。
やっと目的の場所にたどり着いたのか、機体はゆっくりと見知らぬ場所に着陸する。
――そこは小さな空港だった。
周囲に現代的な建物は見当たらない。
発着場が荒野のど真ん中にある感じだ。
乗っていた時間的に、日本じゃないだろうとは思うが……
「どこだここは?」
ジェット機から降りた俺は、唯一の同行者である茨城恵子に尋ねてみた。
俺は何も知らされず連れてこられたが、流石に彼女はここがどこかぐらいは知っているだろう。
「日本の南西にある、トウタンという小さな国よ」
「トウタン……知らんな」
まあ俺の場合、知っている国の方が少ない訳だが。
メジャー所でないのだけは、貧乏くさい名前から理解は出来た。
しかし荒木真央は、こんな場所で俺に何をさせるつもりだ?
俺向きの仕事がある。
そう言われて連れてこられた訳だが、さっぱり分からない。
「ここが目的地なのか?」
「まだよ。目的地へはここからバギーに乗って向かうわ」
「バギーか。乗り心地が悪そうだな」
バギーと言えば悪路を行く乗り物のイメージがある。
当然そんな物に、快適な乗り心地は期待できないだろう。
名門の出である俺がそんな乗り物で移動する羽目になるとはな……我ながら落ちぶれたものだ
「我慢しなさい。仕事の為よ」
「いいだろう」
不満を口にしたら、茨城恵子に睨まれてしまった。
まあ仕方がない。
今は我慢するとしよう。
全ては四条家に戻る為だ。
そのためなら、どのような辛酸苦渋も乗り越えてみせる。
「しかし……酷い道だな」
用意されていたバギーは造りがしっかりした、見るからに頑丈そうな代物だった。
まあ真央グループが用意した物なのだから、その辺りは当然の事――安物は使わない――なのだろうが、だがどれだけしっかりした物でも所詮はバギーだ。
乗り心地は予想通り最悪だった。
しかも整備された車道はすぐに終わり、ガタガタの路を延々走る始末。
プラーナで肉体を強化しているので尻が痛くなる様な事はないが、余りにも揺れが酷くて落ち着かない。
「それで?俺はここで何をすればいいんだ?」
ヘリでは荒木真央が配下の人間とチンプンカンプンの難しい話をしていたので、俺は余計な事は聞かずに黙っていた。
ジェットの中では、茨城が早々に寝てしまったのでこれまた話を聞けていない。
まあそのうち相手から話すだろうと思っていたのだが、バギーに乗って1時間。
中々茨城が口を開こうとしないので、仕方なく自分から聞いてみる。
正直、自分から尋ねるのは少し小物感が出てしまうので嫌だったのだが……
流石にいつまでも自分がする事を知らないままというのも、気分が良くないからな。
「ある拠点の制圧よ」
「制圧?」
まあ自分向きの仕事なのだから戦闘関連だとは予想出来てはいたが、それがまさか国外で何かを制圧する物だとは夢にも思わなかった。
「誘拐組織が拠点としていた場所が判明したの。そこを制圧するのが私達の仕事よ」
「何故俺達が?」
誘拐はまあ……犯罪ではある。
それを組織的に行う奴らが居るのなら、それは由々しき事だろう。
だがそういう物は政府が何とかするものだ。
日本ならともかく、外国の誘拐組織を俺達が制圧に出向く意味が分からない。
「相手は、貴方にブースターを渡した例の組織だからよ」
「あいつらが!?」
成程、納得がいった。
学園にちょっかいをかけている以上、それはその支配者である荒木真央に喧嘩を売っているに等しいからな。
どうやら組織の奴らは、彼女を本気で怒らせてしまっている様だ。
「ふん、組織には借りがある。一暴れさせて貰おう」
元はと言えば、俺が四条家を放逐されたのは奴らのせいだ。
組織が接触さえしてこなければ、こんな状態にはなっていない。
――そう、全て奴らが悪いんだ。
「おい茨城。全員半殺しぐらいにしても構わないよな?」
纏めてボコボコにしてやる。
俺を陥れてくれたお礼だ。
「何を馬鹿な事を言ってるの?」
「ちっ」
ダメな様だ。
学園に薬をばら撒き、更に誘拐までしている様な相手だというのに。
随分と甘い事だ。
まあだが、少しぐらいボコボコにしても――
「一人を残して皆殺しよ」
「へっ?」
「そこを仕切っているリーダー以外は、皆殺しと言ったのよ。まあそれも出来たらの話だけど」
こいつマジか?
拠点というからには、そこそこの人数がいるはずだ。
それを全部殺す?
この俺が?
大量殺人だぞ?
ああ、そうか――
「ふ、お前の口から冗談を聞くとはな。だが大量殺人というのは、少々趣味が悪いぞ」
他所の国で大虐殺など、流石の俺にもそれが冗談だという事は分かる。
以前から無口で暗い奴だとは思っていたが、まさかこんな黒いジョークを口にする女だったとはな。
驚かせてくれるものだ。
やるじゃないか。
「貴方は一つ大きな勘違いをしているわ。これから制圧に向かう場所は――」
それまで明後日の方向を向き、此方を見向きもしなかった茨木が俺の方を向く。
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