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第57話 鼻デカ

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クレアが馬鹿みたいに迷って無駄に疲れていた様なので、翌日――今日は休みにしておいた。
まあ俺も12時間も待たされて、精神的に疲れてたしな。

「とりあえず魔石でも清算しとくか」

迷宮に入る前に、ギルドで魔石取集の持続型クエストを受託してある。
せっかくの休みなので、これまでの分を清算しておくとしよう。

「俺の冒険者ランクはまだEだし、Cぐらいには上がるかな?」

今の俺はレベル200だが、ギルドの依頼は全く受けていない。
そのため、クレアとのオーク討伐でEに上がって以来ランクはそのままだった。
今回、結構グレードの高い魔石を持ち込む事になるので、評価は一気に上がるはず。

まあランク上がったから何かあるのかっていうと、迷宮に籠る分にはまったくメリットはないんだが、やっぱ低いより高い方が気分はいいからな。

俺は宿のベッドから起き上がり、冒険者ギルドへと向かう。

冒険者ギルドの建物は少々古めの外観をしているが、中は清掃が行き届き、清潔で小奇麗な感じだ。
まだ朝っぱらだというのに、結構な数の冒険者達がボードに張ってある依頼書とにらめっこしていた。

「これを貴方が?」

クエストの清算に魔石を提示すると、受付の女性が眉根を顰めたる。
不遇職がどうやってこのレベルの魔石――サイズや含まれた魔力で等級がある――を集めたのか?
彼女はそう言いた気だ。

まあいつもの不遇職に対する偏見という意奴だな。
因みに、ギルドにはパーティーの申請はしていない。
申請するのが面倒臭かったし、何より、絶対クレアが痛いパーティー名を付けようとするのが目に見えていたからだ。

ま、此処は伝家の宝刀を切ればいいだろう。

「レベルを――」

「まさか、評価を得るために買取した訳じゃないでしょうね?」

受付の女性が、俺の言葉を遮って失礼な事を口にする。
俺の冒険者登録を受け付けてくれた女性は死霊術師でも笑顔で対応してくれたのだが、今回は外れに当たってしまった様だ。

「ランクを不正で上げる様な不当行為は、ギルドでは禁止されてるのよ。貴方分かってる?」

冒険者はクエストをこなす事で評価が上がり、ランクが上がっていくシステムだ。
通常はコツコツ地道にのし上がっていく物だが、中には収集系のクエストなんかでズルを――取りに行かず買取など――して、ランクをパパッと上げようとする様な奴もいる。

低ランクの間は、基本大したクエストが受けられないからな。
彼女は俺を、そういった輩と判断した様だ。

まあ実力の伴わない変な奴を高ランクを任せるとギルドの信用にかかわる事なので、ナーバスになる気持ちは分からなくもない。
だがいくら何でも、あからさまに態度に出しすぎだ。

気の短い冒険者なら、その態度はぶち切れられてもおかしくないぞ?
実際俺も少しムッとしたし。

「知っていますよ?俺は別に不当行為なんてしていないんで、それがどうかしたんですか?」

「貴方ねぇ……」

受付の女性は顏に手を当て、これ見よがしにため息を吐く。
すると、背後から誰かが話に割り込んで来た。

「よう、カレンタ。なんか揉めてるみたいだが、どうかしたのか?」

ゴツイ金髪の大男だ。
背中に大剣を背負っており、顔立ちは一部を除いて綺麗に整っている。
総一部を除いて。

鼻さえもう少し真面なら、確実にイケメンだったろうに……

鼻が馬鹿みたいに大きいせいで、全てが台無しになっている感じだ。
なーむー。
ま、そんな事はどうでもいいか。

「この死霊術師さんが、不正でランクを上げようとしてるのよ」

「そいつは頂けねぇな。いいか坊主。冒険者は誠実でなくっちゃならない」

「うっせぇ。偉そうに語るな、このでかっぱな」そう言ってやりたい所だが、別にこの男も悪意があって言っているのではないだろうから止めて置く。

「不正はしてませんよ?疑うのなら、俺のレベルを確認してみてください」

面倒臭いので、さっさとレベルを確認させる。
200だと分かったら、きっとこいつらも黙るだろう。

「そんな物を確認する必要はありません!死霊術師のレベルなんてたかが知れてるんですから」

「カレンタの言う通りだな。死霊術師じゃ、真面にレベルなんて上げられない」

死霊術師は超が付くほどレアなクラスだ。
同クラスの人間を目や耳にする事がない程に。

そのくせ、何故か不遇と言う部分だけは無駄にメジャーだった。
そのため固定概念がこびりついてしまっている彼女達は、確認すら不要と此方の要望を却下してしまう。

うん、うざい!
伝家の宝刀を封じられるとか、面倒くさいにも程がある。

まあ仕方がない。
レベルで確認して貰えないのなら、実力を示すだけだ。

「見た所、相当腕が立つ様に見えますね。ランクを聞いても?」

相手の装備と態度から、そこそこ高ランクである事を推測する。
これでCとかDだったら笑うぞ。

「ん?俺か?ふふ……Aランクさ。それも限りなくSランクに近い、な」

俺の問いに、鼻デカ男が腕を組んで自慢気な表情になる。
まあAランクならレベル100位はあるだろうし、こいつに相手をして貰うとしよう。

「じゃあこうしましょう。中庭で俺と手合わせして、貴方が勝ったら今回の俺の持ち込み品を全て差し上げますよ」

ギルドには訓練用の広い中庭がある。
そこでの手合わせを、俺は鼻デカに申し込んだ。
こいつをぶちのめせば、サクッと実力を証明する事が出来るだろう。

「おいおい、まじでいってんのか?」

男がチラリと、カウンターの上に置いてある魔石に目をやる。
ぱっと見でも、それが結構な額になる事は分かるだろう。
俺がこいつなら、絶対に断らない条件だ。

「ふむ……まあどうしてもってんなら、相手してやらなくもないぜ」

何がどうしても、だ。
おもっくそ目元が緩んでるぞ。
心の中で「ラッキー」とか、絶対考えてそうである。

「決まりですね。もし彼との手合わせで俺が勝ったら、不正じゃないって認めてくれますよね?」

受付の女性に確認する。
本当に話を通したいのは鼻デカではなく、彼女の方だからな。

「貴方ねぇ、強情にも程があるわよ」

強情って……
そりゃこっちの台詞なんだが。

「兎に角、認めて貰えますよね?Aランクの彼に勝ったら?」

「はぁ……まあ勝てたらね。ガムラス、ちゃんと手加減してあげてよ」

「ははは、分かってるさ。怪我はさせねーよ」

怪我所か、下手したらあんたの攻撃じゃほぼノーダメージになると思うんだが……
まあその辺りは言わぬが花か。

「じゃあ、中庭に行きましょう」

「ああ、いいだろう」

中庭への出入り口はカウンター横の扉だ。
そこへ男と二人で向かうと。

「おいおい、どうも決闘らしいぜ」

「ガムラスの相手は見ねぇ奴だな?」

「面白れぇ。見に行こうぜ」

なんか野次馬まで付いて来た。
まあ彼らは証人になってくれるので――受付の女性は仕事柄カウンターから動けないので、ガムラスが結果に嘘を吐く可能性がある――大歓迎だ。

「さあ、俺様がいっちょ揉んでやろう。かかって来な」

広い中庭の中央。
野次馬の見守る中、ガムラスは背負っていた大剣を構えた。
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